第6話 陶酔のスモーク
ー郊外廃工場ー
須津が率いる神倉組の精鋭部隊は、身長の高さほど開いているシャッター扉から中に潜入した。
天井が高く、部屋の端から端までを往復する移動式のクレーンがある広い作業場。
コンテナや木箱が放置されたままになっている。
須津が先頭で中央を進んでいく。
静寂を破る様にAK47の発射音が鳴り響いた!
物陰に隠れる須津たち。
「ようこそいらっしゃいました。最初のデザートのお味はいかがかな?お口に合わなければお代はよろしくってよ。な~んちって、ンフッ♪」
須津はコンテナに張り付きながらコルトガバメントを抜いた。
目の前の木箱に隠れている乃愛に静かに聞いた。
「ノア、相手はどこだ?」
「右上のクレーン操作部屋です」
須津が覗き込むと、右側の壁の高い所にクレーン操作部屋が突き出ていて、窓に人影が見えた。
「くそ!あそこから丸見えだな!」
須津たちは様子を伺っていた。
一方、鷹が率いる白龍会は、シャッター扉とは反対側のコンテナの陰に潜んでいた。
鷹はクレーン操作部屋を見上げて言った。
「まったくローサンの野郎!居なくなったと思ったら、1人であんな所に陣取りやがって!」
そこへ、縄を解かれてやって来た杉本・ラッキョ・ケーマンの『ポストマンず』に鷹は言った。
「テメエら何やっとんじゃ!満足に見張りも出来ねぇんか!
いいか!神倉組は、こっちが姫川エリカをまだ捕まえていると思ってる。
だから下手に突っ込んで来ないだろう。
そこを皆で囲んで殺っちまおう!」
神倉組は8人。
白龍会は12人。
両者とも相手の出方を伺っている。
神倉組の須津が怒鳴る!
「おい!人質を渡せ!大人しく渡せば、悪い様にはしないぞ!」
白龍会の鷹が怒鳴り返す。
「ふざけんな!渡す訳ね~だろ!欲しかったら取りに来いよ」
神倉組の漏守が叫んだ!
「こっちの須津と交換ってのはどうスか~!2人分位働くッスよ~!」
須津は漏守の頭をひっぱたいた!
「モリモリ!てめ、何て事言ってんだ!それと敵に敬語を使うな!」
漏守は頭を擦りながら謝った。
「スイマセン。じゃあ!ノアも付けるんで……」
カチリッ
漏守の頭のうしろで撃鉄を起こす音がした!
漏守の後頭部にベレッタM92FSを押し付けながら乃愛は言った。
「モリモリ、それ以上言ったら、2度とお天道様が拝めなくなるけどいいか?」
漏守は苦笑いしながら言った。
「それはちょっと困るッスね。違う手を考えましょう」
漏守が命拾いした隣で、須津が白龍会の奴らの方を見ながら言った。
「何だか様子がおかしいぞ」
白龍会が隠れている後ろの方から煙が立ち込めてきた!
「何だこの煙は!ゲホッゲホッ。ここは任せた!俺は外から回り込む。頼んだぞ!」
危険を察知した鷹は、部下を残して戦線離脱した。
「え~?まじっスか?ゲホッゲホッ。杉本さ~ん、これって火事っスか?ゲホッ」
「ゲホッゲホッ。まさか七輪でサンマを焼いてる訳ね~だろ?火事だよ、火事!早く火を……ゴホッゴホッ……なんだ~?な~んか~、きもちよくらってきらろ~?」
「ゴホッゴホッ。……何だか絶好調っスよ~!アチョ~!」
「ゲホッゲホッ、アッハッハッハッ。あ~、からだにちからがはいんね~、ケーマン~、おまえは~、いつもろかわってれぇ~ら~アッハッハッハッ」
白龍会の面々がヘロヘロになっていると、後の扉が開き誰かが入ってきた。
「ド~ンガド~ンガドンガラガッタ♪お~ぎのめさ~まのお通りだ~い♪みんな~!ラリってるか~い?」
入ってきたのはボッサンたちだった。
しかも全員ガスマスクを付けて!
ボッサンたちは、備品倉庫にあったガスマスクを付けて、ドラックに火を放ったのであった。
敵に煙を吸わせて、戦闘不能にしてしまおうという寸法である。
ボッサンたちが煙から抜け出すと、神倉組の面々が煙を前に戸惑っていた。
ボッサンはマスクを取って言った。
「この煙を吸うとラリっちまうぞ~!みんな建物から出ろ~!」
ボッサンたちと神倉組が建物から出ると、火の手はさらに回り建物全体から煙が上がってきて、遠くで消防車のサイレンが聞こえ始めた。
その頃正門付近で待機していたホヘトは、建物から上がる煙に動揺していた。
「おいおい!中で何やってんだよ。シュウマイと応援も来ないしな。この分じゃ応援より先に消防車が来ちゃうじゃんか!」
1人でヤキモキしているホヘトの元に、オヴェが戻ってきた。
「オベ、やっと来たか。シュウマイは?」
オヴェは頭を掻きながら申し訳なさそうに言った。
「えっとですね、売り切れでした」
「オベゴゥラ!ちゃんと買って来いや!」
「だから自分で買ってきてくださいよ~」
2人が言い合っている後ろに白いフェラーリが迫っていた!
ホヘトは、オヴェの肩越しに猛スピードで迫ってくるフェラーリを見ると、オヴェを抱えて横っ飛びした!
「あぶない!」
白いフェラーリは、ホヘトとオヴェの横を走り去っていった!
その後ろから白いベンツが猛スピードで来て、ホヘトの横でフルブレーキで止まった!
窓からボッサンが顔を出してホヘトに言った。
「建物の中にラリってる白龍会の奴らがいるから捕まえてといて!それと姫川エリカの保護とユオを病院へ連れてってくれ!じゃ、よろしく!」
言いたい事言ってボッサンは、フェラーリを追ってフル加速していった。
その後から黒のベンツが2台飛び出していった。
「ちょ、ちょ、え?まっ、くそ!」
そして入れ違いに消防車とパトカーが押し寄せてきて大混乱となった。
姫川エリカとユオはアオイに任せて、ボッサンとオッパイは、白龍会の乗ってきたベンツで鷹のフェラーリを追撃、神倉組も後を追った。
姫川エリカとユオは警察に保護され、ラリっていた白龍会のメンバーは全員逮捕された。
しかしローサンだけは行方が分からなかった……