第2話 万事休す!
ー郊外廃工場ー
9:20
ユオは目を覚ました。
妙に寒い。
多分、血が足りないからだろう。
目の前でエリカが寝ている。
足で揺すって起こす。
「お~い。起きろ~」
エリカはゆっくりと目を開けた。
「う~ん…ユオ…生きてた?」
エリカは上半身を起こした。
ユオも体を起こそうとしたが、力が入らない。
「エリカ、僕の靴下の中にナイフが入ってるから取って」
ユオは足をエリカの前に出す。
「ちょっと待って」
エリカは後ろを向いた。そしてユオは足をエリカの手の上に乗せた。
エリカは手探りでユオの靴下の中を探る。
「そっちじゃない。その下……そう、そこそこ、あっ…あぁっ…」
「ちょっと!変な声出さないでよ!読者に誤解されるでしょ!」
「だって~、くすぐったいんだからしょうがないよ~」
エリカはナイフを取った。
「で~、その親指の所を押すと刃が出るから。それで自分のロープ切れる?」
「やってみる」
エリカはナイフで、自分の手の縛られているロープを切り始めた。手元が見えないし力が入らないので、なかなか上手く切れない。
5分後、エリカは手のロープを切った。足のロープも切る。
そしてユオのロープを切った。
ユオはナイフをポケットに入れて、立ち上がろうとしたが立ち上がれなかった。
「なんだろな~、血が足りねぇや」
「私の肩に捕まって!」
ユオはエリカに肩を借りて立ち上がった。
「ドアの所まで行こう」
2人はドアの所まで行った。
ユオはドアノブを回したがカギが掛かっていた。
「どっかにさ~、針金ないかな~」
「探してくる」
ユオは壁に寄り掛かって、エリカは針金を探す。
「あ~、腹減った~」
ユオがお腹を擦りながら言うと、エリカも針金を探しながら言った。
「私もペコペコよ。ここから逃げられたら何かご馳走してよ!あ!これでどうかしら?」
エリカはユオの所に針金を持っていった。
「あ、いいねぇ」
ユオはその針金の先を器用に曲げて鍵穴に入れる。
鍵穴と格闘する事30秒。
カチャッ
カギが開いた。
ユオはドアを少し開けて外の様子を伺う。
「よし!大丈夫そうだ」
ユオはエリカに肩を借りながら部屋を出た。
通路を進んでいくと、窓から明かりが漏れていた。
窓から中を覗き込むと、白龍会の奴らが5人いた。
見つからないように窓の下を這っていく。
ユオの息が荒くなってきた。
窓の下を過ぎた所で、通路に倒れ込むユオ。
エリカはユオを引っ張り上げて、肩を貸して歩いていく。
正面にドアがある。
ドアにたどり着くと、2人は座り込んだ。
「ユオ、しっかりして!」
エリカは息を弾ませながらユオに言った。
「僕の事は、ハァ、ハァ、いいから、ハァ、ハァ、先に逃げて」
目をつぶったままユオは言った。
「何言ってんのよ!もうちょっとよ!」
エリカはドアをゆっくりと開けた。
中は天井が高く広い作業場だった。
奥に鉄の大きな扉がある。多分その向こうが外であろう。
エリカはユオの肩を抱いて部屋の中を進んでいった。
床には鉄骨やら配線やら、ガラクタが散乱していて、それを避けながら進むのはとても大変だった。
そして、なんとか鉄の大きな扉にたどり着いた。
「ハァ~、やっと着いた。ここから外に出られるわよ」
エリカは額の汗を拭きながら、ユオに笑顔で言った。
「ハァ、ハァ、ごめん、ハァ、ハァ、足手まといで」
ユオはドアに寄りかかり、肩で息をしながら言った。
「元々ユオが刺されたのは私のせいなんだし、
それよりここから早く出ちゃいましょ」
エリカは、鉄の大きな扉をゆっくり開けた。
すると目の前に、スーパーの袋を両手に持った、スカジャンを着たオールバックのケーマンが立っていた。
「あ!テメエらどこ行く!」
ケーマンは、エリカを蹴り飛ばした!
「キャッ!」
エリカは飛ばされて、転んだ拍子に鉄骨に頭を打って気絶した!
「くそ~!」
ユオは力を振り絞ってケーマンに立ち向かったが、腹を蹴られて倒れ込んだ!
ケーマンは、ユオの頭を踏みつけながら叫んだ!
「お~い!誰か来てくれ~!人質が逃げるぞ~!」
声を聞いて部屋にいた5人が出てきた。
「いつの間に逃げやがったんだ!まったく油断も隙もありゃしねぇ!」
気絶しているエリカと動けないユオは、担がれて連れていかれた。
途中でラッキョが言った。
「こっちの男は始末しちまっていいんじゃねぇ?」
ユオを担いでいるケーマンも言った。
「そうッスよね。こいつ重いし、姫川エリカだけ生かしとけばいいじゃないッスか?杉本さん」
そう言うとユオを床に転がした。
ユオは体に力が入らず、闘う事も逃げ出す事も出来なかった。
杉本は、腹に差していたトカレフを抜いてスライドを引いた!
「たしかにな。悪く思うなよ。天国に行ける事を祈ってるぜ!じゃあな!」
杉本は、ユオの頭に銃口を向けた!
”くっそ~!これまでか!”
ユオの額から脂汗が吹き出した!