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最終話 最後の言葉


ー新宿警察署取り調べ室ー


姫川エリカは、今回の一連の事件で事情聴取を受けていた。


姫川エリカと、机を挟んで向かい合わせに座っているホヘトは言葉を続けた。


「……それをきっかけにドラックをやるようになった。そうだね?」


「はい、そうです。

あいつらと遊ぶようになって、ドラックもあいつらから買っていました。

だけど……あの事があって、もう止めようと思いました。

やつらとも手を切ろうと……。

そしたら誘拐されて……」


「あの事って、黒澤ユリの飛び降り自殺の……」


「自殺じゃないんです。あれは……私が悪いんです!」


姫川エリカは、顔を上げると険しい表情で語り始めた。


「ユリとは中学の頃から仲がよかったんです。私は高校に入って不良になったけど、ユリは真面目でした。

ユリは、不良の私にも前と変わらず声を掛けてくれたので、よく一緒に遊んでいました。

でも、ユリには不良になって欲しくなかったので、悪い事する時は、ユリは誘いませんでした。


ユリは昔から器用で、絵を描くのが上手でした。

大学も美術系の学校へ行きたかったみたいだけど、親には言えなくて悩んでいました。

ユリが屋上から飛び降りた日の朝、ユリは落ち込んでいました。

昨日の夜、父親に


『美術系の大学に行きたい』


って言ったら、


『何を馬鹿な事を言ってるんだ!お前は短大行って、花嫁修行して、大企業の御曹司と結婚するんだ!お前は俺の言うことを聞いていればいいんだ』


っと言われて取り合って貰えなかったそうです。

その時、こんな事を言っていました。


『私って、翼をむしり取られた鳥のようね』


って。

だからあの日、ユリを屋上に誘ったんです!

少しでも気分が晴れてくれればいいと思って。

それがあんな事になるなんて……」





6日前

黒澤ユリが屋上から

飛び降りた当日



ー新宿高等学校屋上ー


pm5:00


姫川エリカは、いつものメンバー、裕一と英伍に加えて黒澤ユリを連れて、屋上に出る扉まで来た。

ユリはドアノブをガチャガチャやりながら言った。


「鍵掛かってるよ。どうすんの?」


すると裕一がポケットから奇妙な形の金属片を出して、鍵穴に入れてカチャカチャやりはじめた。

ものの20秒程でロックは外れ、扉を開けた。


「へえ~、すごいねぇ~!」


ユリは感心しながら屋上に出た。

日が沈み掛けていて、空は紅く染まり始めていた。

7階建ての屋上は見渡しが良く、心地よい風が吹いていた。


「う~ん!気持ちいい~!」


ユリは伸びをしながら、フェンス越しの沈み掛けた太陽を見ていた。

裕一と英伍はタバコに火をつけた。

裕一がエリカに聞いた。


「エリカ、今日も持ってきた?」


エリカはポケットから箱を出した。


「もち!はいどうぞ~」


裕一と英伍は、エリカの所にいって、箱から出した錠剤を貰うとそれを飲んだ。

エリカも1粒口に含んだ。

ユリはエリカに近づきながら聞いた。


「何それ?」


「これ?ま~、栄養剤みたいなもんよ。ファイト!いっぱ~つ!って感じ?疲れも吹っ飛ぶわよ!飲んでみる?」


ユリはちょっとためらった。しかし昨晩の父親の発言を思い出したら、急にムシャクシャしてきた。


「1粒ちょうだい!昨日の事思い出したらなんだか腹立ってきた!」


ユリはエリカから錠剤を貰うと、目をつぶって飲んだ。


「いや~最高の気分だぜ!イヤッホ~!」


裕一はフェンスによじ登って雄叫びを上げた!


「ムフフフフッ!アハハハハッ!ンフッ♪」


英伍は大の字になって寝転んだ!

エリカはユリの両手を持って、クルクル回り始めた!


「どお?最高の気分でしょ?」


ユリの目はトロンとしていた。


「うわ~!なんか~、何でも出来ちゃいそう!何だか空も飛べそうな気がする!

私のむしり取られた翼も治っちゃったみたい!この翼なら飛べそうだわ!」


ユリは自分の背中に翼が生えてるかのように触っている!


「あるある!翼ある~!今なら飛べるよ!ってゆ~か、もうぶっ飛んでるでしょ!アハハハハッ!」


エリカはバレリーナのようにクルクル回りながら、英伍の横に座った。


「えいちゃん、いいもの見せてあげよっか」


「え~?ナニナニ~?」


エリカはポケットから1枚の写真を出した。


「これ、ちっちゃい時のゆうちゃん!」


英伍はその写真を手に取って吹き出した!


「プハ~!これゆうちゃん?か~わい~♪」


「おい!テメ!英伍!それよこせ!」


裕一はフェンスから飛び降りた!

逃げる英伍、追う裕一。


「アハハハハッ!」


エリカは、追いかけっこをしている2人を見て笑っていた。

その後ろで、ユリはフェンスに向かって歩いていった。

そしてユリはフェンスを乗り越えた。

ユリはゆっくりと歩いて屋上のフチに立った。

ユリは鼻唄を歌いながら、フラフラとフチに沿って歩き出した。

そして屋上の角まで来て止まった。


「あれ?ユリはどこ行った?」


エリカは、近くにユリが居ない事に気がついた。


「その辺にいるだろ?飛び降りてなけりゃな」


裕一は無責任な事を言っているが、エリカは立ち上がってユリを探し始めた。

そして、屋上の角に立っているユリを発見した!


「ユリ~!そんな所で何やってんの!」


エリカはフェンスまで走っていった!


「ユリ!お願い!バカな真似はやめて!」


ユリは顔を上げた。

目の前の沈み掛けた夕日が、ユリの顔を真っ赤に染めていた。


「おい!やめろ!」


裕一と英伍も走って来た。

エリカはフェンスを登った!


「この翼があれば私は飛べるわ。空を自由に飛べるのよ。なんて素晴らしいんでしょ!」


ユリはにっこり微笑むと、夕日に向かって1歩を踏み出した。


「ダメーー!!」


フェンスを乗り越えたエリカの視界から、ユリが消えた!


「ユリ!」


エリカはその場に座り込み、這いつくばって屋上のフチまでいった。

恐る恐る下を覗いて見ると、


遥か下の地面に


不自然な格好で


ユリが寝ていた



「イヤーーーー!!」


エリカはその場で泣き崩れた!

裕一と英伍がフェンスを乗り越えてエリカの所に来た!


「エリカ!ここに居ちゃマズイ!ずらかるぞ!」


号泣するエリカを立たせてフェンスに向かう。


「やべ~よ!やべ~よ!どうしよ!どうしよ!」


ウロウロする英伍。


「ほらいくぞ!置いてくぞ!」


3人はフェンスを乗り越え、屋上を後にした。

裕一はエリカを支えながら階段を下りる。

シャクリ上げながら、うわ言の様に呟くエリカ。


「ユリ……ユリ……」


「ゆうちゃん!これからどうすんの?」


英伍が裕一に聞いた。


「お前、先にユリの所に行って、上履き脱がして屋上に置いてこい!自殺に見せかけるんだ!」


「え~!やだよ~!怖いよ~!」


「お前、俺より足速いだろ?一刻を争うんだ!後でドクターペッパーおごるから!」


「わかったよ~!やるよ、やればいいんでしょ!」


「上履きに指紋をつけるなよ!」


3人は階段を降りていった。




3人が降りていったのを確認すると、その男は物陰から姿を表した。


「いい事聞いちゃった~。これで理事長から金をふんだくれるぞ!

ウヒヒヒッ!」










エリカと裕一と英伍は、薬物法違反の罪で1年間の保護観察処分となった。

事情聴取を終え、自宅に帰ってきたエリカ。


「ただいま」


「お帰りなさいませ、お嬢様」


家政婦の森盛子が出迎えてくれた。


「だいぶお疲れのようですね?」


「色々な事がありすぎたわ。ちょっと2階で休んでくる」


エリカは階段を上がり始めた。

すると、森盛子が呼び止めた。


「お嬢様。お嬢様宛てに手紙が来てますよ」


「手紙?誰だろ」


エリカは戻って封筒を受け取った。

差出人は、黒澤ユリだった。


「ユリからだわ!盛子さん、この手紙いつ来たの?」


森盛子は天井を見上げて考えてから答えた。


「たしか……お嬢様がこの家を最後に出られた日の夕方です」


エリカは走って2階の自分の部屋に駆け込んだ!

ベッドに腰掛けて封筒の封を切り、手紙を出して読んだ。



『Dearエリカ

手紙を出すのは初めてだね別に大した事じゃないんだけどもらって欲しい物があったんで手紙と一緒に入れとくね

気に入ってくれるかなー今の私の気持ち…かな

な~んちゃって

また学校でね。バイバイ


byユリ 』



封筒の中にもう1枚紙が入っていた。

封筒から紙を出して広げてみた。

エリカはそれを見て、声を出して泣きじゃくった!


「ユリ……ユリ~!」



その紙には絵が書いてあった。

鉛筆で書かれたその絵は、写真と見間違うほどの素晴らしい出来で、空を駆け上がるペガサスが書かれていた。


黒澤ユリはこのペガサスの様に


天国へ駆け上がっていったのであろう


翼を広げて……







【翼 -後編-】END











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