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第1話 強欲の果てに

ー代々木公園ー


7:00


土竜竜也もぐらたつや・バンは、日曜日の朝の代々木公園を、軽やかに?ではなく、重々しく走っていった。

彼は日曜日の朝だけは早起きをして、代々木公園でジョギングをする。

なぜ日曜日の朝早くジョギングするのか?


1ヶ月ほど前の事である。

渋谷の居酒屋で朝まで飲んで、ベロンベロンに酔っぱらって帰る途中、疲れて代々木公園の芝生の上で寝ていたら、突然肩を叩かれて起こされた。


"人が気持ちよく寝てるのに誰だ起こす奴は!"


と思って目を擦りながら見てみると、目を見張るほどの美人が目の前にいるではないか!

そしてその美人は、爽やかな笑顔でこう言った。


「こんな所で寝ていると風邪ひきますよ」


そしてその美人は颯爽と走っていった。

その『爽やかな君』は、ジョギングの途中で私を発見して心配して起こしてくれたのだろう。

そのTシャツ短パンの後ろ姿が忘れられず、もう一度『爽やかな君』に会いたい一心で、


「よし!俺もジョギング始めるぞ!」


と、不純な動機で一念発起してジョギングを始めたのだ。


そんなこんなで日曜の朝のジョギングを始めて3回目の朝、今日会えなければ諦めようという思いのラストランである。

『爽やかな君』に巡り会った場所にやってきた。

運命の再会を夢見てきたが、どうやらそんな"うんめえ"話はなかったようだ。


"や~めた!家帰ってビールでも飲もっと!"


そう思って引き返そうとした時、雑木林の中から人の足が飛び出しているのが見えた。

きっと俺みたいに酔っ払って、ここで寝ちまったに違いない。

どうせなら起こしてやるか。そう思って寝ている人の所にいってみた。

その人は仰向けに寝ていて、上半身にジャンバーを掛けて顔を隠して寝ていた。


「こんな所で寝てると風邪引くぞ。起きな!」


足を揺すって声を掛けるが起きる気配がない。

上半身に掛かっているジャンバーの、胸の辺りの不自然な盛り上がりが気になったので、ジャンバーをめくってみた。

すると、


胸にはナイフが根元まで刺さっていて、


目を見開いたその男は、


既に息絶えていた……






ー神倉邸ー


8:30


神倉親分は布団の上で目を覚ました。

足が重いと思ったら、レミが布団に被さって寝ている。

レミも目を覚ました。

レミはぐ~んと伸びをして、神倉親分と目が合った。


「ん~、あ!パパ!目が覚めた?よかった~!心配させないでよね!まったくもう!」


「この位の傷どうって事ないよ」


神倉親分が上半身を起こそうとすると、レミは背中を支えてくれた。


「心配かけちまったな」


横で泣きそうなレミの頭を優しく撫でた。


昨晩、神倉親分が刺された時、とっさに避けて急所を外していた為、傷は内臓まで達していなかった。

そして病院には行かず、主治医に治療をさせた。

それは、あの若造を犯罪者にしたくないという神倉親分の配慮からであった。


神倉親分とレミの声を聞いて、須津が飛んできた。


「親分~!申し訳ないっす!この俺がついていながらこんな事に……グスッ…こうなったら腹かっさばいて死んでお詫びを…」


目に涙を浮かべてドスを抜く須津に、神倉親分は言った。


「おいスズ。姫川エリカとユオはどうした?2人を探すのが先だろ?

それから、俺の許可無しに勝手に死ぬな」


須津は涙を拭いてドスを鞘に戻した。

そして正座し直して言った。


「へい、白のダッジバンですが見つけやした。ボッサンたちには連絡済みです。

今回の不始末を肝に命じまして、今後この様な事がないように組長の行くところ、どこまでもお供いたしやす」


須津は深々と頭を下げた。


「便所まで着いてくんなよ。ケツ拭いてくれるんなら別だがな」


神倉親分は、にこやかに微笑んだ。






ー新宿警察署第1会議室ー


9:00


第1会議室では、『代々木公園教師殺人事件』の捜査会議が始まろうとしていた。


陣頭指揮を取る内海田デカ長が、正面のテーブルの席について話し始めた。


「え~、では、事件の概要を説明してもらおうか」


ホヘトは、並んで座っていたオヴェを肘で突ついた。

オヴェは渋々立ち上がり、手帳を広げて説明を始めた。


「えっとですね、発見者は土竜 竜也もぐらたつや39才。

今朝7時頃代々木公園をジョギング中に、雑木林の中で仰向けで寝ている男性を発見。居眠りしていると思い、起こそうとしたら男性は既に息絶えていました」


「で?ガイシャの身元は?」


内海田デカ長が聞いた。

ホヘトが手帳を上げて立ち上がった。


「はい。え~、被害者は、Roberta Jr.鮫島。41才。独身。母親が日本人、父親がイタリア人のハーフで、仲間内ではRJと呼ばれていました。

仕事は都立新宿高校の英語教師。

住まいは中野のアパートで独り暮らし。

アパートの住人の話では、ギャンブル好きだったそうです。

鮫島の部屋を調べたところ、封筒に入った50万円が見つかりました。入手先や使用目的は不明です。

今のところ以上です」


「死亡推定時刻は?」


ホヘトは手帳のページをめくって続けた。


「死亡推定時刻は、昨晩の8時から9時の間です。

え~、そして凶器ですが、刃渡り17センチの登山用ナイフ。これで心臓を一突き。ほぼ即死状態だったと思われます。

ちなみにナイフから指紋は出ませんでした」


「犯行現場は?」


「はい、え~、近くの道路に血痕がありまして、ガイシャの血液型と一致しました。ここで刺されて雑木林まで引きずって運ばれたと思われます」


「遺留品は?」


「車のキーの他は何も持っていませんでした。

パーキングに停めてあった鮫島の車の中に、財布と免許証が置いてありました。

多分誰かに呼び出され、その相手に刺された可能性が高いですね」


「その誰かが問題だよな」


内海田デカ長は腕を組みながら言った。


「あの~、ちょっといいですか?」


オヴェが手を上げた。


「ん?何だ?」


オヴェは立ち上がり話し始めた。


「えっとですね、この殺されたRJ鮫島ですが、1週間前に都立新宿高校で起きた、飛び降り自殺事件当日の宿直だったんですよ。

最初鮫島は、屋上のカギは開いていたと証言したのに、翌日になってカギは閉まっていたと証言をひるがえしました。

私が思うに、カギは開いていたんだと思います。

多分、屋上には他に誰か居たんでしょう。

だとすると、他殺の線も出てきます。

カギが開いていたと証言されると困る人物が、鮫島に金で証言を変えさせたんだと思います。

味をしめた鮫島は、相手の弱味につけこんで追加料金を請求したが逆に殺された」


「なるほど、つじつまが合うな。鮫島の部屋にあった50万を渡した奴が犯人か!」


内海田デカ長はうなずいた。

その時、会議室に鑑識班の菅本が入ってきた。


「50万円が入っていた封筒を調べた所、2つの指紋が出ました」


内海田デカ長は菅本に聞いた。


「誰と誰の指紋だ!」


菅本は資料を見ながら答えた。


「1つは鮫島本人の物で、もう1つは、姫川理事長の物です」


「何だって!」


ホヘトが立ち上がって叫んだ!

オヴェも立ち上がり喋り始めた。


「姫川理事長の娘って、姫川エリカですよね。姫川エリカは、黒沢ユリが屋上から飛び降りた時、校舎の外から屋上の黒沢ユリを見たと証言してますが、実は屋上で黒沢ユリと一緒に居たんじゃないでしょうか。

それを隠す為に、姫川理事長はRJ鮫島に50万円でウソの証言をさせた。

そして欲を出した鮫島が、姫川理事長を脅迫してもっと金を巻き上げようとした所、殺された」


内海田デカ長は立ち上がって言った。


「ホヘト、オヴェ、姫川理事長をマークだ!

そうなると、娘の姫川エリカと白龍会も絡んで来そうだな。

姫川エリカとケーマンの白のダッジバンの捜索、姫川理事長と白龍会の関係、それと代々木公園パーキングの監視カメラのテープ、昨晩の7時から10時を調べろ!犯人の車が写っているかもしれん!」


ホヘトは席を立ってオヴェに言った。


「いっその事、逮捕しちまうか!」


オヴェは慌てて言った。


「無茶言わないで下さいよ~。封筒に指紋があっても、殺した証拠になりませんよ」


ホヘトはオヴェにヘッドロックをかけながら言った。


「オベ、ゴゥラ!そんな事分かっとるわい!」


2人は部屋を出て姫川理事長の自宅へ向かった。













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