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そんな相方は遠慮します

 三件の客先を周り会社に戻った俺は、パソコンに向かい報告書を書いていた。まもなくして同じグループの鬼熊(きぐま)さんも営業部に戻ってくる。スーツに眼鏡、長めの髪をシンプルに纏め、コツコツとヒールで颯爽と歩く。いかにも出来るキャリアウーマンという出で立ち。実際そうなのだが、何でだかこの方からは女を感じない。

 背丈が百七十超えている筋肉の固さ思わせるカッチリした身体。四角くくいかついフェイスライン。そういった要素のせいで女装した男に見える。性同一障害で女性になった人なのかな? とも最初思ったが、生粋の女性だとか。

「お疲れさまです!」

 俺の挨拶に、ニカリと明るい笑顔を返しサッと手をあげ「ただいま!」と返す。こういう男前な行動と動作も、女性らしさを下げているのかもしれない。

 しばらくそれぞれの仕事に勤しんでいたが、鬼熊さんが伸びをして肩を回し始める。俺はそれを見て、席を立ち、珈琲サーバーの所に行き、珈琲を二ついれて席に戻る。珈琲豆のメーカーな為に、職場で珈琲を気軽に楽しめるのがこの会社の良い所。

「サンキュー」

 鬼熊さんは俺がもってきた珈琲を嬉しそうに受け取った。二人で珈琲を飲んで、一休みすることにする。そうしていると昼間の仲間との会話を思い出す。

「そういえばさ、清酒(せいしゅ)さんって彼女とかいるのかな」

 俺のつぶやきのような質問に鬼熊さんは『ん?』と答える。

「まあ、それなりには遊んでいるのでは? 今はどうなのだろう、最近はそういう会話をしにくくなったからな~」

 何だろうこの、思わせぶりな言葉は、俺は突っ込むべきかどうか悩む。でも思い切って聞いてみよう。口を開いたときに「ただ今戻りました」という清酒さんの声が聞こえて、慌ててしまう。

「どうした? 相方。俺の悪口でも言っていたのか?」

 清酒さんは、挙動不審の俺が気になったのだろう、そう聞いてくる。俺は首をブルブル横にふり必至に否定。

「それはないわよ! 相方くんなんやかんや言って、清酒くんラブだから」

 その言葉に、俺は『え!』と思わず声をあげ、清酒さんは思いっきり顔を顰める。

「相方くん、いま清酒くんに彼女がいるのか気になってしょうがないみたいよ」

 そういう話をしにくくなったのではないですか? 鬼熊さん、なんでそうストレートに聞くのか? と俺は心の中で突っ込む。清酒さんは目を一瞬見開き、鬼熊さんとしばらく見つめ合い目をそらした。俺の視線に気が付いたのか、俺の方をじっと見て今度は何故かニヤリと笑う。

「ああ、そういえば、社内で随分面白い噂が流れているらしいぞ!

 ………俺はお前と付き合っているとかいった感じの」

 とんでもない話をしてくる。俺はその言葉にフリーズしてしまうが、鬼熊さんが豪快に笑う。確かに社内では一緒にいる事は多いけれど、何故そうなるのか? どちらも男だというのに!

「何、清酒くんとうとう男に走ったの?!」

 清酒さんは苦笑して首を横にふる。

「な、わけないだろ! お前がやたらまとわりついているから! 

 すっげー迷惑だよ」

 その言葉に俺も反論したくなる。

「俺だって迷惑ですよ! それで女の子がよってこなくなったら困りますよ!」

「まあまあ、最近そういう風に、人間関係をみるのが流行りなのでしょ? BLとか言って。でもその話、傑作!」

 鬼熊さんだけは、無関係で楽しそうだ。

「こうなったら、速攻彼女を作らないと! って清酒さんが彼女がいる事を公開したらいいだけでは?」

 清酒さんは眉をクイっと上げる。なんかいかにもいる事が前提で話をしてしまった事に、俺も「あ」と思う。清酒さんは鬼熊さんをチラリと見るけれど、鬼熊さんも困ったように首を横にふった。しかし、何かを期待するような目で鬼熊さんは清酒さんを見つめている。何なのだろうこの二人の視線の会話は……。

「仕事するか」

 結局答えはいわず、そう言い清酒さんは本当に仕事を始めてしまった。微妙な空気とモヤモヤだけが残る。俺に気にするなと鬼熊さんはニコリと笑う。気にするなというのが無理な話である。


鬼熊さんは日本人苗字ランキング32454位の名前です。全国で24世帯といかなりのレア苗字。オニクマさん、キグマさんとかいう読み方をされているそうです。

このシリーズで一番のレアな名前の方となっています。

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