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裏切り者  作者: りよ
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第4話:主人公の初仕事は

 今日のフェイはまだ寝ていた。あんまりにも遅いので 

 「フェイ、まだ起きてないの…っ?!」

ユウが起こしに来たが、

 「あ、先輩。や、優しくお願いします。あぁ、すごい…」

幸せそうな寝言を吐いている男が一人いた。

 「………」


ばちん! 



ほっぺに赤い手形を付けたフェイ。機嫌の悪いユウ。気まずい空気のまま朝食が終わる。

 「きょ、今日はゆっくり行っても、よ、よろしいのですか?」

思ったよりも痛かったビンタのせいで、ビビってしまう。

 「そうだったけど、誰かさんが起きるのが遅いせいで、のんびりする時間がありません。」

敬語&無表情で怖さ倍増。

 「そ、そうですね。ははは…」

 「可笑しいことなんかあるの?」

 「…」

誰か助けて…


 「あら、今日はあんまり仲が良くないみたいね。」

着いてすぐに会った先輩の一言目がこれ。

 「ユウちゃん、じゃあフェイ君は借りていくから。」

まるで、猫や犬のように扱われることに、少しショック。

 「はい、どうぞ。」

そう言って、去っていくユウ。薬の調合にでも行くのだろう。

 「アカネちゃんはもう待ってるの。ついて来て。」

そう言って、先輩は歩き始めた。



昨日は通らなかった通路を通り、着いたのは―

 「庶務九課案内担当室?」

 「そう。略して“しょくあん”よ。さあ、入って。」

中に入ると、椅子に座っているフウロさんの姿が目に入った。

 「あ、おはよう。」

 「おはよう。」

この部屋は、大き目の応接間みたいだ。フウロさんの隣りに腰掛ける。

そして、正面に先輩が座って話を切り出す。

 「二人の最初の共同作業は何がいいかしら。」

ふふ、と楽しそうにしている。先輩が言いたいことはつまり。

 「…どんな内容の仕事があるんですか?」

 「もうせっかちなんだから。」

 「先輩、続きをお願いします。」

 「分かりました♪といっても、選択肢は二つしかないの。」

なにやら手紙を取り出す。

 「一つ目がこれ。なんでも、町に盗賊が現れて困っているんですって。」

 「それって…衛兵の仕事じゃないですか。」

村などは、自警団があるが、町ぐらいになれば治安を守る衛兵がいるはずだ。

 「実は裏があるの。」

 「裏ですか?」

フウロさんが首を傾げる。

 「金品に紛れて、数枚、大切な見取り図が盗まれたの。」

 「どこの見取り図なんですか?」

と、急に真剣な表情になって―

 

 「…“海の護り”よ。」


有名な建物の名前が出てきた。

 「それって、休戦ラインのすぐそばの砦じゃないですか?!」

 「そう。つまり、情報収集されてるみたいなの。幸い、何枚かに分けてあるからまだ意味の無い紙なんだけど」

二人に平等に視線を注いで、

 「貴方達に守って欲しいの。」

とおっしゃられた。

 「本気ですか?!相手は絶対その道のプロじゃないですか!!」

 「そうです。それに、私たち初仕事ですよ。」

フウロさんも大きな声を出す。

 「だ・か・ら、ニセモノを守って欲しいの。」

一転していつもの茶目っ気あふれる顔。

 

 「にせ――?」

 「――もの?」

 

 「そうよ。それに、今までケガ人しか出てないから、大丈夫よ。」

 「ケガ人ってことは、強盗じゃないですか!?」

 「そうかしら。」

惚けても無駄です。

 「そうです。大体、ニセモノを守ってどうするんですか。」

 「当然、本物を隠しておくためよ。」

 「それだけですか?」

 「アカネちゃん、鋭いのね。」

 「他にも目的があるんですね。」

まさか。

 「どこから情報が漏れてるか確かめたいの。」

そのまさかだった。

 「手引きした人間がいるわけですか。」

 「ごく一部の人間しか知らない見取り図だったの。しかも保管していた場所は、本当に知らないと無理な場所だったし。」

 「ちなみにどこですか?」

 「あらあら、それは女のヒミツよ。どうしても知りたいなら私の部屋で教えてアゲル。」

 「…遠慮します。あの、もう一つの仕事を教えてください。」

 「あぁ、二つ目のこと?」

 「私も知りたいです。ちょっと危険すぎるので…」

 「アカネちゃんの頼みなら断れないわね。簡単な仕事よ。」

そう言って机に地図を取り出す。

 「ここに港町があるのは分かるかしら。」

先輩が指し示すのは、実は自分がこの国に来る時に通った町。

 「ここが向こうのスパイ達の侵入口、という結論が出たのね。さっき話した盗賊もそうみたいなの。」

そこで、とこっちを見て発した言葉は、

 「この町で一人捕まえてきて頂戴。」

 「…」

 「…」

 「ね、簡単でしょ。ちょっと命の危険はあるかもしれないけど。こっちにする?」

 「「一つ目の仕事でお願いします!!」」

二人の意見が揃う。

 「もう、声を揃えるなんて、二人は理解し合えた関係なのね。」

なのに、先輩は相変わらずだった。

 「「…はぁ…」」

また一つ、二人から幸せが逃げていった。


 「はぁ〜」

 「はぁ…」

あの後、その他詳細を聞いた。さすがに、二人だけ行かせるのではなく、サポートとして二人付けてくれると約束してくれた。が、危険が無くなったわけではない。

 「誰が一緒にしてくれるか、見当つく?」

 「ん〜…強い人で手が空いてるのなんてほとんど…」

言葉を濁す。

 「まさかユウだったりして。」

冗談を口ずさむ。ああ見えて結構力がある。

 「そんなわけ…あ、心当たりがあった!」

誰かを思い出した様子。

 「誰?」

 「ユウと同じ医療班の中に手が空いてて強い人がいるの。もしかしたら!!」

声が弾んでいる。

 「嬉しそうだけど、知り合い?」

 「知り合いというか…」

どうやら照れているようだ。

(照れてる…これはひょっとして?!)

 

 「私の、恋人。」

顔が少し赤くなっている。 

 「そっかぁ。ユウからここにいるとは聞いてたけど。」

医師だったのか。…あれ、医療班なのに強い人???

 「医師なんだけど、元闘技場のチャンピオンなんだって。ほら、壁に飾ってあるの見なかった?」

見た。

 「アルは隊長並に強くって。」

アルと呼んでいるらしい。

いや、そんなことよりも確認したいことがある。

 「…元鎧付き、ってだけじゃなくて、隊長は強かったりする?」

 「うん。だって、隊長は―」

 「隊長は?」

 「あ、えーと、ほら、先輩とパートナーだし。先輩も強いよね。」

 「…言いたくないけど、確かに。人間じゃないよ…」

個人的には先輩の方が厄介だった。



―同時刻―

 「あの仕事でいいのか?」

 「大丈夫よ、きっと。それに…」

 「大丈夫じゃない方がいい、そう言いたいのだろう?」

 「…そう、ね。まあ、今回は彼も行くから。」

 「そうだな。だが、その決定をしたのは君じゃないか。一体、何を考えているのやら。」

 「あのコのことよ。」

 「で、どうなんだ。」

 「うーん…灰色かしら。」

 「そうか。まだ時間が必要だな。」

 「たっぷりと必要よ。」




 「お昼はどうしてる?」

 「お昼は…あ、初めて食べる。どこに行けばいい?」

 「こっち。料理班の人が作ってる。」

 「それも、部隊の人なんだ。」

 「うん。ユウもスパイス栽培してて、料理の役に立ってるの。」

 「それって、大丈夫なの?」

 「うーん、たまに痺れてる人は見かけるよ。でも、毒はまだ混ざってないみたい。」

真面目な表情で答えるフウロさん。

 「…気をつけよ。」

 「じゃあ、カレーは止めないと。」

 「…了解。」



混んでるかなと思ったが、人影はまばらだった。

 「あ、アカネ…フェイも。」

顔が強張るユウ。

 「ユウ、また喧嘩してるの?」

 「そういうわけじゃ…」

 「もう。ジュリー君も早く仲直りしたら?」

 「それは…」

 「私、アルと食べてくるから二人で食べてて。その代わり、仲直りしてよ。」

すたすた、と向こうへ歩いていく。

置いてけぼりにされた一人と一人。

と、ユウが重い口を開く。

 「……ここの使い方聞いた?」  

 「ううん…教えて。」

 「これがメニュー表。決めたらそれを伝えるだけ。」

 「代金は?」

 「給料から天引き。」

 「ふぅん。どれがオススメ?」

しばし考えこんで、指差したのは

 「ぴり辛カレー?」

 「ううん、よく見て。“ぴりっ、ツラッ、カレー”だよ。ちょっと痺れる味が特徴。」

さっきフウロさんから聞いたのはコレか。

 「麻痺させたいの?」

 「知ってたんだ。じゃあ、これは?」

 「えーっと、“特製から揚げのフルコース”か…ってこれ、ユウ専用の料理だよね!?」

 「隊長が食べてるの見たよ。」

隊長、そんな馬鹿な。

 「食べてる途中に気分を悪くしてたけど。」

胃が限界を迎えたに違いない。

 「まだ決まらないの?」

危険なのが多すぎて決められない。

 「―じゃあ、私が決めてあげる。」

 「え?」

 「へ?」

この声は。

 「すみませーん、から揚げ定食3つ下さーい。」

この行動力は。

 「「先輩?!」」


 「コレ、いつもユウちゃんが食べてるの。私も時々食べてるけど美味しいの。食べてみて。」

口に運ぶ。

 「ん?!美味しいです!」

から揚げがこってりしてるかと思ったが、脂身も少なくあっさりしている。

 「それはユウちゃんが作り方を教えてくれたの。カロリーの少な…」

 「せ、先輩!!」

 「あら、ゴメンなさい…ふふ、ユウちゃんは可愛いわね。」

その気持ちは分かる。 

 「特にから揚げが絡むとそうですね。」

好きな食べ物にこだわる姿は、何時もの大人びた様子とは正反対の姿だ。

 「もう、フェイ!」

照れ隠しのように声を出されても、全然怖くないぞ。

 「もう仲直りは出来たみたいね。」

嬉しそうに微笑む先輩。

 「先輩とフウロさんのおかげです。」

 「喧嘩もほどほどにね。」

 「…はい。」

 「了解です。」


 「それで、先輩、サポートの人って一人はアルさんですか?」

 「あら、アカネちゃんから聞いたのね。そう、アル君を付けるつもり。」

 「もう一人は誰なんですか?」

 「ここにいるじゃない。」

 「まさか…」

 「私のことですか!?」

 「そのまさかなの。こうすればダブルデートになるでしょ?」

 「「なりません!!」」


 「でも、アル君のことは聞いたのよね?」

 「はい。ユウいわく俺の100倍イイ男だそうで。」

 「ち、ちょっと!!」

 「そうかしら?フェイ君も…」

 「せ・ん・ぱ・い!!」

 「冗談よ、ユウちゃん。でも、そんなに本気にしなくていいのに。」

 「…冗談なんですね。」

 「だって、アル君強くてカッコ良くて頭良くて、と三拍子揃ってるから。」

どれも勝てそうに無い。

 「そんなにスゴイ人なら早く会ってみたいです。」

 「この後、会うと思うわよ。」

言葉を切って、

 「明日の打合せがあるでしょ?」 


 「「…」」

すっかり忘れていた。


 「のんびりしすぎないでね。」


慌てて残りをかきこんだ。



歩きながら、考えるのはまだ見ぬアルさんのこと。 

 「アルさんって、ひょっとして年上?」

 「うん。アカネの3つ上。」

ということは、俺からも3つ上か。

 「ユウはなんて呼んでるの?」

 「アルさん。」

 「やっぱりそうなんだ。」

ちょっと間が空く。

 「あの、ユウ?」

 「なに?」

 「こういう仕事はしたことあるの?」

 「…無いよ。」

 「そっか。」

 「邪魔?」

 「…ユウ。」

 「なに?」

 「初めてだから、見守ってて。」


 「…ばか。」

何故か怒られた。



着いたところは、<医療室>のプレートがかかった部屋。中にはフウロさんと、初めて見る顔の男性。

(座っているだけでも、全然隙が無い…)

きっと、この人があの医師に違いない。

 「初めまして。」

 「キミがジュリー君?」

 「フェイでいいです。」

 「そうか。なら、僕のことはアルと呼んでくれ。正確な名前はアルモン・アガフォーンだ。あと、敬語も禁止。」

 「わかり…わかった、アル。」

 「よし!なかなか、男の知り合いが少なくてね。これから頼む。」

 「こっちこそ。初仕事だから緊張してるんだ。」

 「まさか。」

笑って、

 「それにしても、先輩の無茶は相変わらずだな。」

 「だから、困ってるの。」

フウロさんが相槌を打つ。

 「え、アルよりも先輩って年上なの?」

素朴な疑問。


しかし、

場が凍りついた。


と、

すたっ

すたっ

足音が近づいてくる。

がちゃ

 

 「私のこと呼んだかしら?」


 「フェイ君どうしたの?私に聞きたいことがあるんじゃないの?」


 「せっかくだから二人っきりで話しましょ。ちょっと借りるわね。」


助けを求めて、周りを見ると、

三人で固まって話をしていた。申し訳無さそうな顔で。

 

 「じゃあ、いくわよ。フェイ君。」

この後何ヲ―



 


 「おきて。起きてよ。」

聞いたことのある声がする。

 「ねえ、起きてったら!」

もしかして―まだ生きてるのか?

必死に目を開ける。

そこには。

 「起きたんだ…」

心配そうな表情を浮かべた知り合いがいた。

 「今…何時…?」

 「もう夕方だよ。」

 「なんとか生きてるのかぁ…何があったんだろう…」

 「ずっと目が覚めないから心配で…」

 「あら、お目覚め?」

先輩もいたのか。

 「先輩、何しに来たんですか。」

ん?ユウの声が冷たい。

 「そろそろ起きるだろうと思って。」

 「そうですか。」

 「フェイ君、忘れてるかもしれないけど、ちょっと実践練習し過ぎちゃったの。それで、気絶したの。」

なるほど、身体の節々の痛みはそれが原因か。よく覚えてないけど、それならお礼を言わないと。

 「先輩、ありがとうございました。」

 「どういたしまして。筋は良いわよ。」

 「…」

ユウが無表情なのが気になる。あ、早く帰りたいのかもしれない。

 「じゃあ、帰ります。」

 「あら、もう?明日から頑張ってね。じゃあね。」

さようなら、と先輩に手を振ってユウを見る。

 「帰ろう。」

 「うん。」

もう、いつものユウに戻っていたので一安心。



(ん?何かを忘れているような…?)


その違和感は寝る前に判明した。



 「明日の準備できた?」

 「明日?明日って何?」

 「初仕事だよ!!」

 「あ゜。」

 「打合せは三人だけで済ませたからいいけど。あ、そうだ、明日は朝早いから。早く寝て。」

 「打合せで決まったことは?」

 「フェイとアカネがニセモノを守る。」

 「ユウ達は?」

 「アルさんは、念のために本物を守る。私は―ヒミツ。」

こんな話で茶目っ気を出されても困る。

 「そ、そう。で、他は?」

 「必要な道具は各自で準備する、って。」

 「各自か…そんな時間、無いんだけど。」

 「分かってる。はい、これ。」

そう言って手渡されたのは、

 「チェインメイル…しかも、これ、上物だよ?!」

 「鎧はさすがにうちには無いけど、これで十分でしょ?」

十分どころか、お釣りがくる。防具として、鎧はごく一部の人専用のため、チェインメイルが傭兵や一般部隊の主流だ。しかも、どうやら、これはかなりの代物。

 「はい、あとこれ。」

渡されたのは皮袋。

 「中に緊急用の丸薬が入ってるから。」

どうやらユウお手製のモノみたいだ。

 「緊急用?」

 「口にすると、ちょっと仮死状態になるから。」

 「死んだ振りをせぇ、と?」

本気なのか?

 「うん。」

本気なのだ。ユウは。

 「その間に傷が癒えるから。」

……本当に緊急用だった。

 「…スゴいの作ったね。」

 「えへへ、もっと感謝して。」

弾んだ声。

 「ユウ様、ありがとうございます。」

 「うむ、よきにはからえ。」

 「…」

 「…」

 「「あははっ!」」

二人で笑い転げた。他にも、発火石やら着火石やらを袋に詰めた。

ユウに手伝ってもらったので、準備の時間は短縮されたはず。そろそろ寝るとするか。




―3/8―

先輩との訓練が思い出せない。せっかくしたのに。身体が覚えてることを願う。

ユウはやっぱり薬師の才能がある。あの丸薬、普通に売ったら、大儲け出来そう。売らないのかな?

アルさんは存在感があった。戦ってるところを見てみたい。でも、戦いたくは無い。ぜっっったい負ける。

身体がまだ痛いし、明日も早いからもう寝るとする。

あーあ、また先輩が夢に出てきそう…    

 ―フェイの日記より抜粋―



       

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