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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

死に至り

掲載日:2026/10/30

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 空は、死ぬのか?

 つい先日、小さい子のお世話を一時的に頼まれたことがあるのだけど、その子と話していて、ひょいと出てきた言葉だ。

 空が死ぬ。天文学的には地球の終わりなりを説明すればいいのかとも思うが、そこへ行くのはいささか飛躍を感じた。その子に聞いてみると、空は毎日、死を迎えているんじゃないかという。

 ははあ、夕焼けの話かなと思ったが、ここで光の加減がうんぬんと、こちらがうんちくを垂れる場面かというと怪しい。まだ発言を促してみる。

 この手のことは前振りで、これから話したい本題が出てくる可能性が大だ。そこまでこちらは話を切り出さないようにする。


 ――子守りのレポートだったら、別の場所でやれ?


 ふふん、君に話すからにはちょっとネタらしきものが出てきたからに決まっているだろう。その子から聞いた、空が死ぬ話。耳に入れてみないか?


 その子が見た空は、ハロウィンが終わった10月と11月の境目の時間だったという。

 お菓子をたんまりもらったその子は、家でクッキーたちをほおばっていたようだ。普段なら早めに寝るよういわれるが、この手の大きめの行事の直後は別。そこそこ夜更かしをしても大目に見てもらえる。

 若さに身を任せ、ほとんど空腹感もなくなったのに惰性でお菓子をむさぼり、途中でうとうとしては、はっと目覚めてまたダラダラし……。

 大人の身からすれば、うらやましくなる夜の過ごし方ではあったものの、やがて彼は妙なことに気がついた。


 時間が進んでいない。

 何度も寝入ってきた彼は、その眠りに落ちる前の時間が午前1時43分であることを確認していたという。

 しかし、ひとしきり眠ってから目覚めたとき、その1時43分から全然時計は動いていなかったらしいんだ。

 自分では深い眠りだと思っても、さほど時間が経っていないという経験は、すでに何度かしていた。あり得ない話じゃない。

 でも、ここまで時間が進んでいないことは、めったになかった。しかも、またお菓子を食べながらのんべんだらりとしていても、一向に時計が進まないんだ。

 デジタル表示の時計だ。アナログみたいに針の動きが止まっていれば、すぐに分かっただろう。

 彼はじっとその置時計をにらんだ。ゆっくり300は数えてみたらしい。

 それでも時間は一分と進まない。時と分の表示の間にある点は、ときおり出たり消えたりと明滅をしているから、動いているのは確かのはずだが。

 テレビをつけようとするが、つかない。家中を回ってみても時間を確かめる家電はみな止まるか、そもそも画面を見せない方向だ。明かりさえもなぜかつかない。

 いや、それどころか時計が手動の操作を受け付けない。時刻変更しようと思ってもできなかった。いま、この家は「1時43分」で固まってしまっている。


 家の人を起こし、一緒にいろいろ確かめる……というのが、手堅かっただろう。

 けれど、その子はそれをやらずに単身で家の様子を見て回ったそうなんだ。普段はこのような夜中に起きて歩き回るなんて、めったにできないから、好奇心が勝ったのかもしれないなって話していたよ。

 先にいったように家の明かりはつかない。懐中電灯すらもボイコット。自らの目の慣れと、実際の手触りが頼りだった。

 腐っても自分の家。間取りはだいたい頭に入っているし、想定外の場所で何かにぶつかることもなく、一通り練り歩けはした。

 その最後に訪れたのが、ガラス越しに裏庭に面した居間だったのだけど。


 その窓から内側へ30センチほど。

 普段は茶色い表面を見せるフローリングの一部に、青い色が浮かんでいたそうだ。

 シミではない。こうして見ている間にも、アメーバ状のその広がりはじわじわ大きくなっていく。更によく見ると、その広がりに合わせて窓から光が入り込んできているじゃないか。

 ふと、その子は空を見ると、本来真っ暗であるべき夜空の中で、青空がのぞいていたのだというんだ。

 雲間から陽が差す姿、僕たちも見ることがあるけれども、その雲が夜の闇にとって代わられたかのようだったと、彼は話す。

 そして彼がのぞきこんでからほどなく、青空の広がりは「爆発した」。

 これまでの牛歩具合が嘘のように、ぱっと一瞬だけ夜を蹴散らし、一面の青空を見せて、消えた。夜がなくなって、戻ってくるまで何秒とかかっていないだろう短い間だったとか。

 家の時計たちも、動き始めている。2時半近くを指しており、すでに1時間近くが経過しようとしていたらしい。


 その夜が明けてから、彼には空が緑色に見えるそうなんだ。

 色覚に異常が? とも思ったが、他の青色ならば、いくら空の青に近くても判別がつく。ただ空そのもののみ、どうしても緑としか思えないと。

 青かったはずの空は、もう死んでしまったんだろうか……と彼は話して譲らないんだ。

 君はどう思う?

 彼の目にのみ訪れた異状なのか、それとも空そのものがすでにおかしくなってしまっているのか。

 結論を得るには、まだ時間が要るかもしれないね。

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