少女を見ている男
少女は一人逃げている。追い続けてくる男たちに自分の拙い魔法で必死に抵抗する。でもいくら放っても男たちにききやしない。少女自身もそれを理解している。でも魔法を放つことをやめなかった。少女は自分がなぜ追われているかもわからない。それでも逃げ続けた。
それを上から見下ろしている一人の男がいた。男は宙に浮いていてどこかこの世のものではないような雰囲気を纏っていた。彼は少女のことを赤子の頃から知っている。少女が初めて立った日もお母さんとすれ違って人知れず泣いてしまった日もつまみ食いがバレて怒られて拗ねた日も、魔法が使えると知って喜んだ日も、大切な人を亡くして体が萎むくらい泣いた日も、知っている。彼は少女の過去も今も知っている。これから少女がたどり着く破滅的な結末も。
少女を長い間ずっと見ている彼は少女に少し、いやかなり親に似た感情を持ちつつあった。だから逃げ回る少女を見ているだけしかできない状況に寂しさを感じていた。
少女が持つ特別な力のことも、それを狙う組織のことも、少女の大切な両親の本当の死因も、全部教えてしまいたかった。少女の苦しみを知るただ一人の理解者として寄り添えたらどれほど良かったか。
それでもそんな思いを心の奥底に押し込んで蓋をするように彼はひたすら一冊の本にペンを走らせ続ける。
そう、記録者は見守ることしかできない。
記録対象の人生を記録し一冊の本にまとめる。これをただひたすら繰り返す。それが記録者だ。記録対象に干渉することは許されない。そして人間も記録者の存在に気づくことなく生涯を終える。人間と記録者、二つは決して交わることはない。
ただ見守る
そうやって今まで何十人、何百人、何千人の生涯を見
送ってきた。
「ねえ、今だって見てるんでしょ?助けてよ」
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