第4話 Der Tag vor dem Beginn der Highschool
僕がアヤと初対面してから一週間。アヤが鶺鴒家に来てから2週間。
ついにこの時が来てしまった。
「アキちゃん、学校明日からよ?そんなずっと練習してていいの?」
「だ、大丈夫だよ。初日はパソコンと筆箱と楽器もってくだけでいいから。」
「本当?アヤちゃん、なんか色々詰め込んでるわよ?私ちょっと心配だから、アキちゃん、、アヤちゃんに何もって行ってるか聞いてきなさい?」
色々詰め込む?どこの高校も初日は身軽で行けるはずなんだが。まあ、あの人頭よさそうだし多分教材とかノートとかをたくさん持って行って自習とかするんだろう。
色々と疑問を残しつつ、アヤさんの部屋へ向かうことにした。
「あははは!よっちーやっぱり面白いね。それでさ、あの時のこと覚えてる?あのー」
…
すげえ話してる。
とりあえずドアをノックする。
―コンコン
「あれ?あ、ドアか。はいどうぞー」
アヤさんの声が聞こえた。
扉を開ける。
「あ、秋人さん。」
「ごめん、忙しかった?」
「気にしなくていいですよ。ねぇ、よっちー。ははっ、そうだね。
それで、秋人さん、どうかしたんですか?」
…
「あ…いや、母さんからアヤさんが明日の準備忙しそうにしてるって言ってたから、何を持っていってるのかなって。」
「お菓子ですよ。小腹がすいた時のお菓子を入れてるんです!」
なるほど。女子らしくていいじゃないか。
…詰め込む?
「ですが残念です。持ってきたリュックが小さすぎて、これじゃあお気に入りのお菓子が入りません。」
やめて!そのリュックのライフはもうゼロよ!
そういうと、アヤはハッとした表情で僕の方を見た。
「秋人さん!可能であれば、あなたのリュックに残りのお菓子を詰めてもいいですか?」
え。どうして?僕のリュック取られるの?
「えと、まあいいんだけどさ。お菓子はあとどれくらいあるの?」
アヤさんはにっこりとした笑顔で部屋の隅を指さした。
なんかデカいお菓子の山がある。怖い。
僕が苦笑いを浮かべると、アヤさんが今日一番の笑顔で言った。
「秋人さん、ありがとうございます!」
*
よし。詰め終えた。
我ながら、よくあの量をこのかばんに入れられたな。ほとんどのお菓子がパン系で助かった。
僕はホッと一息つき、ベッドに飛び込む。
…明日から、高校生か。
実感がわかないな。ほんと、昨日まで小学生だったかのような気分だ。
時刻は10時半。もうアヤさんは寝てるかな。このパンパンに詰め込んだかばんを渡すのは明日の朝でいいか。
学校は7時45分からだから―もう寝るか。
僕は電気を消して、ベッドに飛び込む準備をした、その時。
―コンコン
ノックが来た。
「どうぞー」
アヤさんがひょこっと顔を出してきた。
かわいい。
「すみません、寝てましたか?」
「いや、ちょうど寝るとこだったけど。心配しなくていいよ。」
「これは失礼しました。少し、寝る前に秋人さんとお話がしたくて。」
なんだろう。お菓子なら僕のかばんはもう入らないぞ?
とりあえず電気をつけ、アヤさんを席に座らせて、話すことにした。
「秋人さん、高校楽しみですか?」
「うーん。あんまり実感わかないから何とも言えないな。そもそも中学時代は音楽以外はあまり楽しめなかったから。高校ではできるだけ青春を謳歌したいかな。」
アヤさん、そんなかわいそうな目で僕を見ないでくれ。
「そうですか。秋人さん、友達少ないんですね。」
友達少ないって決めつけられた。あまり反論できないところが苦しい。
「こんなに話しやすい人だから、てっきり結構な人気者なのかと。」
「いやいや、そんなことないよ。」
「いや、そんなことあります!きっと、私の友達達のみっちゃん、よっちー、ぷーちゃん、いっちゃん、ふうちゃんも秋人さんと仲良くできると思います!」
…
陽のオーラがすごいな。眩し。
「へー、それは是非ともあってみたいね。」
アヤさんは、少し笑った後、少しうつむいて話す。
「でも、やっぱり私は新しい、遠いとこの高校で友達できるか、少し心配で。」
アヤさんは下を向く。
「アヤさん、優しいし、か…面白いからきっとすぐ友達出来るよ。」
危ない。かわいいって言うところだった。
アヤさんは僕の方を見て、再びいつもの笑顔に戻る。
「ふふっ、そう思いますか?ありがとうございます。」
そうして僕たちは談笑を続けた。気が付けば時刻は11時に。
アヤさんは少し眠たそうにしていた。どことなくふわふわした感じになっていた。かわいい。
…そういえば。
「アヤさん、すごく今更だけど、高校どこ行くの?わざわざ家うちに来るほどだから、もしかしてすごい進学校?」
「あれ?秋人さん、由紀子ゆきこさんや拓郎たくろうさんから聞いてなかったんですか?秋人さんと同じ、四季高ですよ?」
「あ、え、同じ?」
Academy of the Four Seasons。私立四季高等学校。通称四季高。僕が明日から通う高校だった。
「そうなんです!同じです!明日からよろしくお願いしますね、秋人さん!」
「あ、えっと。はい。よろしく。おねがいします。」
つい敬語になってしまった。
なるほど、なんか色々と納得がいった。たしかに我が家は四季高から徒歩五分のとこにあるし、僕も明日から四季高生徒。身近に同級生がいた方が学校でも過ごしやすい。そして何より―
*
僕がアヤさんに会って四日後。アヤさんが寝ている間、親が僕に話があるといってリビングに招いた。
「アキちゃん、アヤちゃん、どうだった?」
「どうだったって、別にどうもこうもなかったよ。本当に純粋に優しくて天然な女の子って感じだったけど。最近はどんどん仲良くなってるかな。」
「…そう。お父さん、やっぱりアキちゃんにも言っといたほうがいいよね。」
母さんは父さんへと視線を向ける。父さんはどこか悲し気な表情でうなずく。
「まあそうだな。言っといて損はないかな…すまん、少し席を外す。俺も、この話はあまり聞きたくないもんでな。」
父は深刻そうな表情でリビングを出た。
僕は少しドキッとした。なにか悪いことでもあったのか。
そして母さんは話し始めた。
「アヤちゃんは、中学時代…誰にも見てもらえなかったの。最初は、クラスでちょっと無視されたり、話に入れてもらえなかったりする程度だったんだけど、時間が経つごとに、それはどんどん日常になっていったのよ。毎日、休み時間も授業も、誰とも笑い合えない。誰も自分の存在を気にかけてくれないという孤独。」
僕は息を飲んだ。いつも明るく笑うアヤさんからは、全く想像できない。
母さんは静かにテーブルの端を握りながら続ける。
「それで、ある日。一部の生徒たちは一線を越えてしまったの。」
母さんの声が震え始めた。
「地味で抵抗しなさそうな女子がいるって聞いて…
高校生の人が何人も…無理やり…
ああ、本当に、あの時、先生が駆け付けてくれてよかったわ。あともう少し遅かったら、と 僕がアヤと初対面してから一週間。アヤが鶺鴒せきれい家に来てから2週間。
ついにこの時が来てしまった。
「アキちゃん、学校明日からよ?そんなずっと練習してていいの?」
「だ、大丈夫だよ。初日はパソコンと筆箱と楽器もってくだけでいいから。」
「本当?アヤちゃん、なんか色々詰め込んでるわよ?私ちょっと心配だから、アキちゃん、、アヤちゃんに何もって行ってるか聞いてきなさい?」
色々詰め込む?どこの高校も初日は身軽で行けるはずなんだが。まあ、あの人頭よさそうだし多分教材とかノートとかをたくさん持って行って自習とかするんだろう。
色々と疑問を残しつつ、アヤさんの部屋へ向かうことにした。
「あははは!よっちーやっぱり面白いね。それでさ、あの時のこと覚えてる?あのー」
…
すげえ話してる。
とりあえずドアをノックする。
―コンコン
「あれ?あ、ドアか。はいどうぞー」
アヤさんの声が聞こえた。
扉を開ける。
「あ、秋人さん。」
「ごめん、忙しかった?」
「気にしなくていいですよ。ねぇ、よっちー。ははっ、そうだね。
それで、秋人さん、どうかしたんですか?」
…
「あ…いや、母さんからアヤさんが明日の準備忙しそうにしてるって言ってたから、何を持っていってるのかなって。」
「お菓子ですよ。小腹がすいた時のお菓子を入れてるんです!」
なるほど。女子らしくていいじゃないか。
…詰め込む?
「ですが残念です。持ってきたリュックが小さすぎて、これじゃあお気に入りのお菓子が入りません。」
やめて!そのリュックのライフはもうゼロよ!
そういうと、アヤはハッとした表情で僕の方を見た。
「秋人さん!可能であれば、あなたのリュックに残りのお菓子を詰めてもいいですか?」
え。どうして?僕のリュック取られるの?
「えと、まあいいんだけどさ。お菓子はあとどれくらいあるの?」
アヤさんはにっこりとした笑顔で部屋の隅を指さした。
なんかデカいお菓子の山がある。怖い。
僕が苦笑いを浮かべると、アヤさんが今日一番の笑顔で言った。
「秋人さん、ありがとうございます!」
*
よし。詰め終えた。
我ながら、よくあの量をこのかばんに入れられたな。ほとんどのお菓子がパン系で助かった。
僕はホッと一息つき、ベッドに飛び込む。
…明日から、高校生か。
実感がわかないな。ほんと、昨日まで小学生だったかのような気分だ。
時刻は10時半。もうアヤさんは寝てるかな。このパンパンに詰め込んだかばんを渡すのは明日の朝でいいか。
学校は7時45分からだから―もう寝るか。
僕は電気を消して、ベッドに飛び込む準備をした、その時。
―コンコン
ノックが来た。
「どうぞー」
アヤさんがひょこっと顔を出してきた。
かわいい。
「すみません、寝てましたか?」
「いや、ちょうど寝るとこだったけど。心配しなくていいよ。」
「これは失礼しました。少し、寝る前に秋人さんとお話がしたくて。」
なんだろう。お菓子なら僕のかばんはもう入らないぞ?
とりあえず電気をつけ、アヤさんを席に座らせて、話すことにした。
「秋人さん、高校楽しみですか?」
「うーん。あんまり実感わかないから何とも言えないな。そもそも中学時代は音楽以外はあまり楽しめなかったから。高校ではできるだけ青春を謳歌したいかな。」
アヤさん、そんなかわいそうな目で僕を見ないでくれ。
「そうですか。秋人さん、友達少ないんですね。」
友達少ないって決めつけられた。あまり反論できないところが苦しい。
「こんなに話しやすい人だから、てっきり結構な人気者なのかと。」
「いやいや、そんなことないよ。」
「いや、そんなことあります!きっと、私の友達達のみっちゃん、よっちー、ぷーちゃん、いっちゃん、ふうちゃんも秋人さんと仲良くできると思います!」
…
陽のオーラがすごいな。眩し。
「へー、それは是非ともあってみたいね。」
アヤさんは、少し笑った後、少しうつむいて話す。
「でも、やっぱり私は新しい、遠いとこの高校で友達できるか、少し心配で。」
アヤさんは下を向く。
「アヤさん、優しいし、か…面白いからきっとすぐ友達出来るよ。」
危ない。かわいいって言うところだった。
アヤさんは僕の方を見て、再びいつもの笑顔に戻る。
「ふふっ、そう思いますか?ありがとうございます。」
そうして僕たちは談笑を続けた。気が付けば時刻は11時に。
アヤさんは少し眠たそうにしていた。どことなくふわふわした感じになっていた。かわいい。
…そういえば。
「アヤさん、すごく今更だけど、高校どこ行くの?わざわざ家うちに来るほどだから、もしかしてすごい進学校?」
「あれ?秋人さん、由紀子ゆきこさんや拓郎たくろうさんから聞いてなかったんですか?秋人さんと同じ、四季高ですよ?」
「あ、え、同じ?」
Academy of the Four Seasons。私立四季高等学校。通称四季高。僕が明日から通う高校だった。
「そうなんです!同じです!明日からよろしくお願いしますね、秋人さん!」
「あ、えっと。はい。よろしく。おねがいします。」
つい敬語になってしまった。
なるほど、なんか色々と納得がいった。たしかに我が家は四季高から徒歩五分のとこにあるし、僕も明日から四季高生徒。身近に同級生がいた方が学校でも過ごしやすい。そして何より―
*
僕がアヤさんに会って四日後。アヤさんが寝ている間、親が僕に話があるといってリビングに招いた。
「アキちゃん、アヤちゃん、どうだった?」
「どうだったって、別にどうもこうもなかったよ。本当に純粋に優しくて天然な女の子って感じだったけど。最近はどんどん仲良くなってるかな。」
「…そう。お父さん、やっぱりアキちゃんにも言っといたほうがいいよね。」
母さんは父さんへと視線を向ける。父さんはどこか悲し気な表情でうなずく。
「まあそうだな。言っといて損はないかな…すまん、少し席を外す。俺も、この話はあまり思い出したくないもんでな。」
父は深刻そうな表情でリビングを出た。
僕は少しドキッとした。なにか悪いことでもあったのか。
そして母さんは話し始めた。
「アヤちゃんは、中学時代…誰にも見てもらえなかったの。最初は、クラスでちょっと無視されたり、話に入れてもらえなかったりする程度だったんだけど、時間が経つごとに、それはどんどん日常になっていったのよ。毎日、休み時間も授業も、誰とも笑い合えない。誰も自分の存在を気にかけてくれないという孤独。
それで、嫌がらせが次第にエスカレートして、ついにはイジメに変わった。」
僕は息を飲んだ。いつも明るく笑うアヤさんからは、全く想像できない。
母さんは静かにテーブルの端を握りながら続ける。
「それで、ある日。一部の生徒たちは一線を越えてしまったの。」
母さんの声が震え始めた。
「地味で抵抗しなさそうな可愛い女子がいるって聞いて…
高校生の人が何人も…無理やり…しようと…
ああ、本当に、あの時、先生が駆け付けてくれてよかったわ。あともう少し遅かったら、取り返しのつかないことが起こってたわ。
それでね、アヤちゃん、本人は表向きは平気なふりをしていたけど、心の中では、毎日少しずつ少しずつ、耐えられない痛みが積もっていったの。誰にも理解されない孤独。拒絶される不安。また襲われてしまう恐怖。それが、だんだん膨れ上がって、逃げ場のない圧力になっていったのよ。
でもね…アヤちゃんは、壊れずに済む方法を見つけたの。自分を守るために。
友達がいないなら、作ればいい、
って」
僕は言葉を失った。
「アヤちゃんはね、心の中で”友達”を作ったの。一人でいるときは、いつもその子たちと話していた。最初は単なる想像の相手だったけど、次第に本当に存在していると信じ込むようになって…今では、現実にいるんだと、本人は本気で思っているの。アヤちゃん、よく、電話してるでしょ?多分、あの電話相手も…その、友達達なのよ」
イマジナリーフレンド。普通なら、児童期の子供が心の中で作り上げて、自然に消えていくもの。
でもアヤさんは違った。過度の孤独とストレスで、永続的に作ってしまったのだ。
彼女の言っていた友達―
みっちゃん、よっちー、ぷーちゃん、いっちゃん、ふうちゃん
―全員、現実には存在しない。
アヤさんは中学時代、ずっとこの五人と一緒に過ごしていたんだ。
ずっと、五人で……
胸が締め付けられる。
友達がいなかったわけじゃない。壊れないために”作った”んだ。
その事実だけで、なんだか喉が詰まるようだった。
母さんは僕をじっと見て、静かに言った。
「アキちゃん、だからね…アヤさんが少し変わって見えても、驚かないであげてほしいの。彼女は孤独だったけど、強くなる方法を、自分で作ったのよ」
僕は小さく頷く。
「わかった。気をつける」
「うん…アキちゃんなら、きっと分かってくれると思ったわ。それと、もう一つ。これは、アヤさんのお母さん、桜月さつきさんからのお願い。」
母さんは僕に手紙をくれる。
北颪桜月きたおろしさつきさんからの手紙だった。読んでいると、最初は普通に他愛のない真面目な感謝状だった。
居候させてごめんなさい。
これからあの子をよろしくお願いします。
あの子はたくさん食べるけど、ストレスですぐ痩せちゃうから許してあげて。
そんな感じのことがただただ淡々と記されていた。
最後の一文を除いて。
…
こんなこと、やってしまってもいいのか?
今後、彼女自身に悪影響を及ぼすかもしれないかもだぞ?
もし、また、不満がたまってしまったら…
僕は手紙から顔を見上げる。
そこで、母さんと目が合う。
母さんは微笑んでいた。でも、その微笑みの奥には、ほんの少しの、抑えきれない寂しさと、何かゾッとするものがあった。
*
おそらく、アヤさんは四季高を選んだのは、中学からなるべく遠くに行くため。そして、僕の家に居候する理由は、身近に守ってくれる存在を必要とするため。
僕はアヤさんの方に視線を向けると、ぐっすり寝ていることに気が付いた。
…僕の部屋でこんなに寝れるってことは、少しは信頼されてるってことかな。
時刻は、11時半。もうこんなに話し込んでいたのか。
アヤさんをベッドに運んで、僕はリビングに寝るとするかな。
そんな時、アヤさんが寝言で言う。
「えへへ、ぷーちゃん、それ…ケーキ…じゃないよ……秋人さんだよ…」
僕は少し笑う。ぷーちゃん、俺を食べるなよ。
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手紙の最後の一文は、こうだった。
「アヤちゃんと、心の中の友達―
みっちゃん、よっちー、ぷーちゃん、いっちゃん、ふうちゃん
―可能であれば
彼女らと、お別れさせてください」




