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Noch ungestimmt  作者: 梨/なし/ナシ
Overture — Vor dem ersten Ton
3/5

第3話 Scherzo

第3話 Scherzo


「あ、あ、秋人さん、素晴らしい演奏でした!今でも心臓ばくっばく言ってます!」


 アヤさん僕の手を握って飛び跳ねながら感想を続けた。


「一楽章のとこ、夜明けみたいで本当にきれいでしたし、最後の部分の音が上に下に行ってるとこも、どこがメインもメロディなのかもしっかり聞こえて、すごく不思議な気分を味わうことができました!二楽章も、なんというか、踊りみたいな、飛び跳ねてるウサギさんみたいで、すごかったです!左手で弦をぽこぽこ弾くのもかっこよかったですし、最後への駆け抜けも、本当にすごかったです!あぁ、録音しておけばよかったです。何度も、ずっと聴いていたい演奏でした!」


 すっごく褒められた。正直ここまで褒めの波が押し寄せてくると、僕も照れ始める。


 とりあえず僕は返答する。


「はは、まあ、ここに住むなら結構ずっとこういうの聞くことになると思うよ。嫌になるくらいにはね。」


「そんな、嫌になるわけじゃないですか!私、秋人さんの演奏なら何週間でも立て続けに聴ける自身があります!」


 一回の演奏を聴いただけでそれほど言えるとは、アヤさんは本当に優しい人なんだな。僕は心の中でそう思った。


 まあ、何はともあれ、数十分前までの気まずさがなくなったようで何よりだ。




 …アヤさんはいつまで僕の手を握っているのだろうか。僕、手汗とか大丈夫だよな?


 僕は頑張ってポーカーフェイスを続けているが、内心ははちゃめちゃにニヤついてる。




 その時―




 バンッ!




 ドアがすごい勢いで開いた。


「あら、アキちゃん、お帰り。帰ってきてたのね。アヤちゃん知らない―って!あらまああああああ、手つないじゃって。キャーーっ、もしかしてあなた達って、もうそういうとこに行ったの?あらら、あららら、あたしったらお邪魔虫だったかしら?」


 母さんがすごいつめてきた。


 アヤさん、なんかすごい赤くなってた。


「由紀子ゆきこさん、ち、違います。これは、あの、そ…その。」


「いや、いいのよ。まだ恥ずかしいわよね?大丈夫。お母さん、何も見ていないから。とりあえず今日はお赤飯で良いかしら?」


 アヤさん、ついに限界を迎えたのか、頭から煙が出始めた。


 手はいまだ握ったままだ。


 僕は一応説明をした。


「母さん、アヤさんは僕の演奏を聴いてファン第一号になってくれてただけだよ。


 っていうか、なんで同居人が増えるってことを知らせてくれなかったの?僕帰ってきたときすげえビビったんだけど。」


「あらごめんなさい。まあ、アキちゃんのことだからいいかなーって。どうせすぐ仲良くなるでしょ?今みたいに、ほら。」


 アヤさんは爆発寸前だった。


「その辺にしとけ、由紀子。秋人も帰ってきたばっかで疲れてるだろう。アヤちゃんも、急に質問攻めされたらかわいそうだろう。こういうのはだな、見なかったことにして、向こうから言ってくれるのを待つんだ。いいか、二人とも。心の準備ができたら俺たちにいうんだ。それと、部屋は全部防音だから。鍵もかけられるからな?近くに薬局もあるから、いつでも行っていいんだぞ?一応、言っとくからな。」


 アヤさんは限界を迎えて、倒れこんだ。


 父さん、あんたが一番ダメージ高いよ。




 *




「っっハ!」


「アヤさん、目が覚めたんだ。熱測ってみたら割と高熱だったんだけど、大丈夫?」


「…知らない天井です。」


 ボケるな。まあ、ボケる元気もあるってことなら安心だ。


「まあとりあえず。はい、おかゆと栄養ドリンクとお薬。」


「あ、ありがとうございます。すみませんご迷惑をお掛けしてしまって。」


「いや全然気にしなくていいよ。新しい環境に移って体調崩さない方が珍しいから。それに、よくあんな高熱でずっと倒れなかったね。僕ちょっと驚いてるよ。」


「えへへ、秋人さんの演奏のおかげですよ。」


 アヤさんはふわふわした口調でしゃべってた。かわいい。


「えっと、あの、おかゆ、とりあえず食べられるだけ食べといてね。」


「あ、はい、いただきます……これ、おいしいですね。由紀子さんが作ったんですか?」


「いや、僕だよ。この家族のおかゆ当番は僕なんだ。」


「へぇ……そう……なんれす、かね……」


 食べながらしゃべるな。ていうかもうほとんど食べ終わってないか?


「ごちそうさまでした。」


 アヤさんはもぐもぐしながら言った。この人、ものの数秒でおかゆ一杯を平らげたぞ…?


「食べるの早いね。アヤさんちゃんと噛んで食べた?」


「おかゆって飲み物ですよね?噛む必要なんて、あるんですか?」


 アヤさんは首をかしげながら言った。かわいい。かわいいけど、それはさすがに不健康だ。まあ、今は疲れているだろうし、一時的な脳のあれだろう。今は眠らせてあげよう。


「じゃあ、お薬飲んだね?お皿片づけるから、もう寝といてね。何かあったら、携帯で連絡してね。それじゃあ、おやすみ。」


「あ、あの。」


「ん?」


「私、持ってないです。」


「携帯?」


「いや、秋人さんの電話番号。」


 そういえばそうだった。色々あって、まだ連絡先交換できてなかったな。


「ごめんごめん。はい、これ。」


「ありがとうございます。えへへ、親意外と連絡するの、初めてかも。


 …あ、えと、あの、今日は、すみませんでした。おやすみなさい。」


「謝らなくていいよ。遠慮はなしで。それじゃ、おやすみ。」


 僕は電気を消して、扉を閉める。




 ―ピロン




 着信だ。なんだろう?僕は携帯を確認すると、メッセージが来ているのに気が付いた。




「言い忘れてました。演奏、またいつでも聞かせてください。」




 もちろん、いつでも歓迎です。アヤさん。

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