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見捨てられた姫様は国を亡ぼす資格があるらしい  作者: サチオウ
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第60話 ルーナ大神殿・攻防

サティエルは夜空を駆け、光の発生源――ムーンゲートらしき輝きへと向かった。

だが近づくにつれ、彼女は違和感を覚える。やはり光の色が、これまで見てきたものとは微妙に異なるのだ。


ムーンゲートは大神殿の敷地内に開いていた。月明かりとムーンゲートの光に照らされた建物は、無残にも破壊されている。


惨状を目の当たりにし、サティエルは息を呑んだ。


そのムーンゲートの前に立つのは、逞しい体格の男と、巨猿の魔物ギガントエイプ。


男はゲルデン帝国特殊部隊隊長ヴォルフ――帝国最強の剣士と名高い人物である。その傍らにいるギガントエイプは、彼の従魔。通常なら魔術師しか従属させられぬ存在だが、帝国の魔導具によって、武人である彼が使役していた。


……おかしい。あの魔物、ムーンゲートから出てきたのではないの?


上空から観察する限り、男と魔物は争っていない。むしろ並んでムーンゲートの方角を睨み、何かを待ち構えているように見えた。


その時、ムーンゲートの中から一人の女性が現れる。


彼女の名はセレネ、ムーンゲートの先の世界――月の住人である。


そんなことは知らないサティエルは、ムーンゲートから魔物ではなく人が出てきたことに驚いていた。



セレネは目の前の男と巨猿を見て、即座に構える。



「あなたたち、何者かしら?」


「何者かなど気にする必要はありません。ルーナ人のあなたには、ここで消えてもらいます」


上空を旋回しながら聞いていたサティエルは、その言葉に目を見開いた。


ルーナ人……? エルフに魔法を伝えたとされる、あの幻の人種……!?


ギガントエイプが咆哮とともに襲いかかる。

セレネは即座に詠唱した。


「――プロテクティブ・フィールド!」


透明な球状の結界が彼女を包み、巨猿の猛撃を悉く弾き返す。


「無駄な足掻きだ」


背後で腕を組んでいたヴォルフが、嘲るように口を開いた。


「その防御も、あなたの魔力が尽きるまでのこと。愚かにも耐え続けるつもりですか? 

この神殿はすでに我々が制圧済み。助けなど来ませんよ」


セレネは黙して答えず、ただ鋭い眼差しで男を睨みつける。


サティエルは迷った。


自分はどちらの味方でもない。だが、幻の種族――ルーナ人。ぜひ話をしてみたい相手だ。このままでは彼女が押し切られる。


少し降りて、交渉してみようかと思い、軽い気持ちで、ろっくんの背から飛び降りた。


着地の衝撃で土煙が上がり、ヴォルフが剣に手をかけて警戒する。


「貴様、どこから来た? 何者だ」


「――ルーナ仮面です」


その言葉と姿は、明らかにサティエルのミスだった。


ヴォルフは即座にルーナ人を助けに来た者だと判断し、問答無用でギガントエイプをけしかけた。


「……いきなり襲うんだ」

サティエルは不機嫌そうに呟く。


ギガントエイプ――以前、彼女が戦った相手。もうその動きを把握しているし、今回はアルティマータを使わずとも倒せる自信があった。


巨猿の拳を受け流しながら、サティエルはヴォルフに声を投げる。

「ねぇ、この攻撃を止めないと……本当に倒しちゃうよ?」


「好きにしろ」

ヴォルフは鼻で笑う。自分の従魔を単独で仕留められる者など、そうはいないと信じていた。


「そう」


サティエルの瞳が鋭く光る。


厚い体毛は気功掌を防ぐが、毛の薄い顔面は別だ。彼女は殴りかかって来た巨腕を掴み、相手の力を利用して投げ飛ばす。轟音とともに地面に叩きつけられる巨体。


その流れで額めがけて掌底を叩き込む。


「――気功掌!」


気功の衝撃が直撃し、ギガントエイプの巨体がびくりと痙攣したのち、動きを止めた。


夜の静寂が、壊れた大神殿に戻る。



「ギガントエイプを瞬殺だと……。これは驚いた。見たことのない武術だな。何者だ!」


「――ルーナ仮面です」


「ちっ、ふざけやがって……まあいい」


ヴォルフは剣を抜き放ち、構えを取る。


サティエルは、ただならぬ威圧感に息を呑んだ。練り上げられた気、自然体に見えて隙のない立ち姿。間違いなく強敵だ。


サティエルも静かに腰を落とし、構えを取る。


「この私と、素手で戦おうとは……なめられたものだ。

いや、わが魔剣ノートゥングを受けられないとみての判断なら正しいか......」


この魔剣ノートゥング、サティエルの持つナイフと同様、魔力で強化された魔導具で

相手の武器や防具すら切り裂く恐るべき魔剣なのである。


言うや否や、ヴォルフの姿が消える。


――剣閃。サティエルはギリギリでかわす。


何今の……? 速すぎる。いや、実際の動き以上に速く感じる!?


続けざまに繰り出される剣撃。


それは単なる速さや力ではない。視線や、細やか身体操作を使っての絶妙なフェイントを交えた、超一流の剣術だった。


サティエルは必死に回避するが、間合いに入る余地がない。


やばい……。これじゃプチアルティマータも当てられない……!


その時、エルネスタが頭の中で伝える。

「サティシア、掌に電撃をお願い!」


「わかった」


彼女の掌に雷光が宿る。


「ほう、ここまで避ける者は久しい。だが、相手が悪かったな……仕留める!」


ヴォルフが剣を振りかざす。

「――白狼流・神牙連斬!」


剣筋が二重に見える。恐ろしく速い動き。


一撃目をかわし、二撃目も辛うじて躱す。


それでも、すれ違いざまにサティエルは剣の腹に触れた。


バチッ、と火花が散る。だがヴォルフは怯まず三撃目を叩き込んでくる。


……効かない!? あの剣、魔法耐性がある!!


一瞬の遅れ。三撃目の鋭い斬撃が頭をかすめ、髪飾りが砕けた。


パキン――


フードから出ていた髪が月光に照らされ色を変える。ヴォルフが思わず後退する。


「……今のは何だ?」


サティエルは肩をすくめ、ハッタリ気味に微笑む。

「さあ? でも、あなたにとっては良くないことかもしれないわ」


モーブの髪飾りが壊れて、ただ髪色が戻っただけ。

しかし、それを知らないヴォルフが警戒して手を引くのはもっともなことだった。

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