第58話 そんな子供いるはずがない
森に静けさが戻る中、一行は村への帰路についた。
そうして村に戻ったのだが、村人たちはサティエルに警戒心を抱いていた。
触れるだけでコボルドを倒し、さらにはコボルドキングさえも軽々とあしらう。そんな様子を目撃した者たちの報告が、すでに村長の耳にも届いていた。
「そんな子供、いるはずがない」
村長は疑念と不安を抱きつつも、討伐への感謝の気持ちはあった。しかし同時に、人ならざる存在に助けられたとなれば、領主や教会から何を言われるかわからない。
「悪いことは、早めに対処しておくべきだ」
そう判断した村長は、神官の立ち会いのもと、再びエナメルの旅人三人を神殿へと呼び出した。
神殿の小広間。村長は席につくと早速、本題を切り出す。
「コボルドの討伐、まことにありがとうございました。……ところで、同行されているあの男の子が、たいそうな活躍を見せたとか。いったい、何者なのですか?」
オフィーリアはそれを、私だって知りたいのだけど。と思いつつサティエルをちらりと見やる。
「村長が、あなたの正体を知りたいって」
するとサティエルは首を傾げ、あっさりと答えた。
「うん? そうなの? 別にいいよ。なんで隠してたのかわからないし」
そう言って、フードを取り、髪飾りを外す。
現れたのは、ホワイトブロンドの髪を持つ、美しい少女だった。
「これでいい?」
村長と神官は目を丸くして、しばし言葉を失う。そして、思わず立ち上がり、深く頭を下げた。
「……大変、失礼いたしました。すぐに戻してもらって結構です」
村長と神官は、目の前の少女が王族か、もしくは高位貴族の令嬢であると判断した。
貴族は子供の頃から武術を叩き込まれている者もいる。それなら強いのもうなづける。と無理やり納得しようとしていた。
それに、万が一にも「男の子」と言ったことを咎められては面倒だという、防衛本能も働いていた。
そんな空気を感じ取りつつ、サティエルは少しだけ考える。
……こんなのでいいんだ。じゃあ、ずっとこの姿じゃダメなのかな。
ほんの小さな疑問を抱えながら、再び髪飾りを付け、いつもの少年のような姿に戻った。
オフィーリアは少し拍子抜けしたが、同時にほっとした。
わずかではあるが本当の正体を明かしてくれるのではと、期待しつつ
破壊神でした、なんて言い出されたら、どうしようかと身構えていたからだ。
* *
村長の屋敷の離れに戻ると、シルヴィアがサティエルに問いかけた。
「ねぇ、村の人たちの暮らしを見て、どう思った? 今のあなたが、どれだけ自由か、ちょっとはわかった?」
「うん。豚飼いのハンスさんは、冬まで毎日森に豚を連れて行くんだって。予定は全部決まってて、自分で決められないって言ってた。
それに、私たちの世話をしてくれてるニルスさんも、本当は農作業が忙しいのに、無理に私達の世話を割り振られて大変だったみたい。村長に逆らえないんだって」
「そういうものよ。村長だって、村の人たちの調整をしなくちゃいけないし、領主や神官の言うことを聞かなきゃいけないから、自由なんてほとんどないわ」
「ふーん。じゃあ、やっぱり私の方が自由なんだ」
「そうね。お金にも困ってないし、明日、何をするか自分で選べる。それって、相当自由なことよ」
そこへオフィーリアが口を挟む。
「……悪いけど、明日はトランシルのルーナ大神殿に行きたいのだけど」
「うん、いいよ」
あまりにあっさりと了承され、前に布教用の冊子を渡した際に拒絶されたオフィーリアは、拍子抜けしつつも内心で安堵した。
しかし、彼女の計画――ルーナ神殿でサティエルの“教育”を進めるという構想には、思わぬ“邪魔”が待ち受けているのだった。
次回より新章となります。新たな旅の目的地に向かって歩みだしますが大きな争いに巻き込まれてしまいす。
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