第55話 コボルド現る
餌場に着くと、ハンスは慣れた手つきで棒を使い、木の枝からドングリなどを軽く落とし、ゆっくりと豚たちを移動させつつ監視していた。
サティエルは、自身の使い魔『ろっくん』を使って空から周囲を監視していたが、この場所は木々が多く視界が遮られるため、隠れながら移動している魔物を上空から見つけるのは難しかった。
一方、森の住人でもあるエルフのオフィーリアは、各種の探索魔法やスキルにより、常に周囲の気配を正確に把握していた。
そんな中、オフィーリアがピクリと眉を動かす。
「……コボルドが3匹、接近中。先制攻撃をかけるわよ」
すぐに状況を整理し、指示を出す。
「私が右、サティエルが左のコボルドを倒す。シルヴィアは中央の個体に軽くダメージを与えて、逃走させて」
「了解」
「わかった」
作戦通り、オフィーリアとサティエルが同時に魔法を放つ。
それぞれが放った『ライトアロー』が左右のコボルドを正確に貫いた。
中央にいたコボルドは突然の襲撃に動揺している。その間に、シルヴィアが疾走し、剣で浅く斬りつける。
「逃げたわ」
コボルドは悲鳴を上げるようにして、森の奥へと走り去った。
すぐにオフィーリアとシルヴィアが距離を取って尾行を開始する。
サティエルはその場に残って警戒を続けながら、「ろっくん」を通じて逃げるコボルドと二人の動きを上空から追跡していた。
──だが。
突然、森の茂みから大きな影が飛び出し、逃走中のコボルドに襲いかかった。
「ろっくん」の視界に映ったのは、巨大なトカゲ――《メガリザード》。
逃げていたコボルドは、その鋭い顎にくわえられ、あっという間に姿を消してしまった。
* *
しばらくして、オフィーリアとシルヴィアが戻ってきた。
「……ダメだった。途中でメガリザードに横取りされたわ」
「見てたよ。ろっくんで」
シルヴィアが苛立った様子で言う。
「なによあのメガリザード!よりによって、私たちが追ってるコボルドを襲わなくてもいいでしょ……!」
そのやり取りを耳にしたハンスが、苦笑しながら声をかけた。
「まあまあ、そう焦んなって。この仕事をしてりゃ、またすぐコボルドに出くわすさ。……にしても、さすが冒険者だな。あんな手際よくコボルドを片付けちまうとは」
褒められて、シルヴィアが得意げになる。
「でしょ?コボルドの巣ごと一掃する予定なんだから、あれくらい朝飯前よ!」
「ハハッ、頼もしいな」
ハンスは肩を揺らして笑った。
すっかり上機嫌のシルヴィアを見ながら、オフィーリアは少しだけ冷ややかな視線を向けた。
……単純ね、まったく。
その後もコボルドの出現を待って餌場の警備を続けたが、その日はそれ以上現れることなく、陽が傾き、静かに一日が終わっていった。
エナメルの旅人たちはその後も豚飼いのハンスとともに森に同行していたが、しばらくコボルドの姿を見ることはなかった。
そして迎えた7日目――。
朝、森で豚にえさを食べさせている最中、再び3匹のコボルドと遭遇する。前回と同じように2匹を倒し、1匹をあえて逃がした。
尾行は、オフィーリアとシルヴィアが担当。
サティエルは上空の『ろっくん』を通じて追跡を行う。
逃げるコボルドは森の中を縫うように駆け抜け、やがて藪の中に姿を消した。
「見失った……?」と一瞬不安がよぎるが、ろっくんの視界がその近くの丘の斜面で再びコボルドを捉えた。
その場所の先には、大きな横穴があった。
「見つけた」
サティエルはろっくんをオフィーリアたちの元へと飛ばし、横穴の場所に案内させる。
案内を受けた二人が慎重に移動し、草陰から横穴の様子をうかがった。
「間違いない。ここがコボルドの巣ね」
状況を確認すると、オフィーリアたちは戦闘を避け、一旦サティエルのもとへ戻る。
「サティエル、ろっくんの案内でコボルドの巣を見つけられたわ」
そう言ってから、オフィーリアはハンスに向き直る。
「コボルドの巣の位置を特定しました。これから村に戻って村長に報告します」
「おう。帰り道は大丈夫か?」
「問題ありません。私もサティエルも森には慣れています」
オフィーリアはエルフとして森での位置把握に優れているし、サティエルも森育ち。
加えて、ろっくんの視界で位置確認もできるので迷う心配はない。
「そうか、じゃあ気をつけてな」
そうして、エナメルの旅人一行は村へ戻っていった。




