第54話 豚飼い
村長の屋敷の離れでくつろいでいたエナメルの旅人たちのもとへ、世話係のニルスがやって来た。
「豚飼いのハンスが戻ったようです。案内しますね」
三人は席を立ち、ニルスの案内で屋敷の裏手から外に出た。
豚飼い――ハンスは、大柄な男で、年は四十代半ばほど。がっしりとした体格に日焼けした顔。そして、よく訓練された犬を連れていた。
「おう、お前らが護衛の冒険者か。Aランクの奴らが明日からついてくれるって聞いて、そりゃあ心強いぜ」
ハンスは目を細めて笑いながら言った。
「コボルドが1、2匹程度なら慣れてるが……最近、やけに増えてきてな。さすがにちょっと不安になってたとこだったんだ。ありがたいぜ」
「はい。では、明日よろしくお願いします」
オフィーリアが礼儀正しく挨拶すると、ハンスも頷く。
「ああ、出発は朝早ぇから、寝坊すんなよ」
それだけ言うと、ハンスは犬とともに自分の小屋へ戻っていった。
三人も屋敷へ戻り、作戦の確認をすることにした。
とはいえ、話はすぐに終わった。というのも、オフィーリアの提案がそのまま全会一致で通ったからだ。
「目的は、この地域に巣くっているコボルドの巣の壊滅。巣の場所を特定するためにも、敵に遭遇した場合は全滅させず、最低でも一匹は逃がす。その個体を追って巣までたどり着く、という流れでどう?」
「了解」
「それでいいわ」
こうして、作戦はあっさりと決まるのだった。
翌朝が早いため、三人は早めに床についた。
* *
朝――まだ太陽が低い空に顔を出したばかりの頃。
三人が待ち合わせの場所へと向かうと、ハンスはすでに到着しており、犬とともに豚の群れを手際よく誘導していた。
「おはようございます」
「おう、おはよう。準備はできてるか?すぐ出発するぞ」
「はい、問題ありません」
出発の号令とともに、ハンスは犬を使って巧みに豚たちを誘導し始めた。豚たちは森の中でも乱れず進む。さすがに慣れたものだ。
しばらく歩いたあと、ハンスはふとサティエルに目を向けて口を開いた。
「おい、坊主。お前もコボルドと戦えんのか?」
どうやら、サティエルの中性的な容姿のせいで、男の子と勘違いしているらしい。
「うん、倒せるよ」
サティエルはにっこりと笑って答える。
ハンスは少し驚いたような顔をしたが、続けて言った。
「そうかい。ここらじゃコボルドだけじゃねぇ。たまにメガリザードなんかも出る。あれは厄介だ。気をつけろよ」
メガリザード。森に生息する大型のトカゲだ。一般の村人にとっては脅威であるが、森育ちのサティエルにとってはすでに何度か狩った相手だった。
「平気だよ。あんなの。ドラゴンだって倒せるから」
「おお、それは頼もしいな」
ハンスは笑いながら答えたが、内心では「子どもの戯言」程度に受け取っていた。




