第51話 空を飛びたい
サティエルの教育のため、コボルド討伐の名目でエナメルの旅人たち三人は、ベッサ村へと向かった。
その道中、サティエルはぼんやりと自分の「やりたいこと」について考えながら歩いていた。ふと空を見上げたとき、ひらめいた。
「私、空を飛びたい」
その言葉に、シルヴィアはぴたりと足を止めた。
「……いきなりどうしたの?」
「やりたいこと、思いついたの」
「うーん……でも、人って空飛べないよね?」
そう言って困ったようにオフィーリアの方を見る。
オフィーリアは少し考えてから答えた。
「空を飛ぶ魔法の研究をしてる人はいるけど、まだ実用化はされてなかったはず。
でも、興味があるなら、そういう研究者を目指すのも悪くないかもね」
「ふーん、そうなんだ。空を飛ぶ研究かぁ……」
そんな会話の途中で、サティエルの肩に乗っていたろっくんが「ピー」と鳴いた。
「ん? どうしたの、ろっくん?」
ろっくんは地上に降りると、その場でぐんと巨大化し、背を向ける。
「え、背中に乗れってこと?」
「ピー!」
サティエルは嬉しそうにその背にまたがった。
するとろっくんは翼を広げ――そのまま大空へ飛び立った。サティエルを乗せて、空中をくるりと旋回する。
「すごーーーーい! 私、空飛んでるー!」
サティエルは満面の笑みで叫んだ。
だが、地上でその光景を見上げていたオフィーリアは、心の中でため息をつく。
……目立ちすぎる。
力を誇示するような行動は、権力者の目を引きかねない。味方にすれば有用、敵に回せば厄介――そう判断されるのは時間の問題だ。
「サティエル、降りてきて」
「うん!」
ろっくんはすうっと舞い降り、オフィーリアの隣に着地する。
「やったー。空飛んじゃった! せっかく考えた目標、あっという間に叶っちゃったよ!」
言葉では少し残念そうだが、その顔はとても楽しそうだった。
オフィーリアはその笑顔を見ながら、少し言いづらそうに口を開いた。
「サティエル、他人の目があるところでは、あまり飛ばない方がいいわ」
「どうして?」
「貴族や国の権力者に目をつけられるからよ。下手をすれば、強引に命令されたり、自由を奪われたりする。そうなったら、自由を求める旅なんて続けられなくなるわ」
「うーん……でもね。おばあちゃんから言われたの。“私の邪魔をするなら、国の一つくらい滅ぼしてもいい”って」
その言葉に、オフィーリアは凍りついた。
――そんな教育されてたの!?
目の前が真っ白になる。まずい、これは非常にまずい。
自分でも国を滅ぼせる力があることを自覚してる……。このまま放っておいたら、本当にどこかの国が――
一方その頃、シルヴィアは軽い冗談だと思って、笑いながら言った。
「えー、国滅ぼしちゃうの? それはちょっとやりすぎでしょ」
「え、そう?」
「うん。やっつけるのは、サティエルに直接ひどいことしてくる人だけにしとこうよ。それに、そもそもそんな人が近寄ってこないようにするほうが楽だよ。面倒だもん」
「ふーん。わかった」
オフィーリアは、ふたりのやり取りを聞いて、とりあえず安堵した。
……まだ大丈夫。今の素直なサティエルなら、ちゃんと理解してくれるはず。
とはいえ――教育は、早急に始めなければならないだろう。




