第47話 アースドラゴン
エナメルの旅人の三人と、雷光の翼の四人。計七人で、ガリダダンジョンの奥へと進んでいく。
聞いた話通り、雷光の翼は先頭に立って道を切り拓いてくれる。
出会った魔物も手際よく処理していき、まるで護衛でもされているかのようだ。
なるほど。こうやって低ランクの冒険者も安心してついて行ったのね。
オフィーリアはその動きを冷静に観察していた。
ある程度進んだところで、リーダーのソルゲイルが足を止めて言った。
「ここから先が、最近になってから発見された通路だ。奥に“面白ぇもん”がある。……特別に案内してやるよ」
その言葉に、オフィーリアは直感した。
来た。アースドラゴンの領域ね。
すぐさま仲間に小声で耳打ちする。
「この先、モーグミーズが出てくる可能性がある。気をつけて」
三人が歩を進めると、すぐに行き止まりのような壁が見えてきた。
「この奥だ。ただ、今の状況を見てくるから、少し待ってろ」
そう言い残し、雷光の翼のうち二人が奥に行く。
すぐに、奥の方から手を振る合図があがる。
「よし。行くぞ。ついてこい」
ソルゲイルが先に立ち、数歩進んでから振り返った。
「今から、とっておきの“面白い場所”へ案内してやる」
その瞬間だった。
アースドラゴンの結界が消え、三人の足元が突然抜け落ちる。
「きゃっ!?」「えっ!?」「あ――っ!」
重力に引かれ、エナメルの旅人、三人が落とし穴へと吸い込まれた。
雷光の翼メンバーには落とし穴が反応しないよう魔法で対策済み。
エナメルの旅人皆が落とし穴に落ちるよう一度止まって3人の距離を詰めさせ、タイミングを計って誘導する巧妙に計算された作戦だった。
落ちた先は、広く暗く湿った空間だった。
地面には砕けた武器や骨の残骸――ここがやばい場所であることは、誰の目にも明らかだった。
シルヴィアが叫ぶ。
「ちょっと!? これはいったい何よ!」
「アースドラゴンが作った落とし穴ね」
冷静に答えるオフィーリア。
「う、うそでしょ……!? これってめちゃくちゃマズいやつじゃん……!」
オフィーリアはふと気になって、隣のサティエルに問いかけた。
「ねえ……サティエル。あなた、落ちる直前、気づいてたでしょ? 避けようと思えばできたんじゃないの?」
サティエルは小首を傾げて、まるで何を聞かれたかのわからないような調子で返した。
「え? うん。だって“面白いところに案内してやる”って言ってたから、そのままにしただけだよ?」
――天然。
いや、違う。常識がズレてるのか、それとも、全く恐れてないのか。
オフィーリアは無言でサティエルを見つめる。
やっぱりこの子……“普通”じゃない。
その時、シルヴィアが叫んだ。
「なんか……でっかいのが来る!」
――地鳴り。
揺れる地面と共に、暗闇の奥から何かが姿を現す。
体長はおよそ十メートル。
全身が岩のようにごつごつとした、薄茶色の皮膚に覆われ、四足でのしのしと歩く――
アースドラゴン。名を、モーグミーズ。
サティエルはそれを一目で認識した。
あれが……モーグミーズ。
同時に、オフィーリアの言葉が脳裏に蘇る。
「出会ったら問答無用で倒していいからね」
サティエルは、ふたりに声をかける。
「ちょっと、強い魔法を使うから、下がってて」
そう言いながら、ゆっくりと前へ出た。
モーグミーズが唸り声をあげ、大きな口を開いて突進してくる。
サティエルは、ためらいなくその空いた口に向かって、究極魔法を放った。
――閃光。
――天井を突き破る轟音
どおおおおおおおおおおん――!!!
アルティマータは斜め上に撃ち出され、モーグミーズの口腔から頭部を一気に貫き、そのままダンジョンの天井をぶち抜いて消えていった。
ズゥゥゥン……!
地面が揺れ、大気が震える。
アースドラゴン・モーグミーズは、一歩も動かず、その場に崩れ落ちた。
完全なる即死。抵抗する隙すら与えなかった。
「アレを……一撃……?」
オフィーリアの声はかすれていた。
目の前で起きた事実に、脳が追いつかない。
ドラゴンを一撃で討ち倒す少女――
その存在に、恐れが芽生える。
これが破壊神の力……。
浮かんだのは、その言葉だった。
もはや魔法や気功術が一流とかのレベルではない。人間の力を超えている。
この力が、もし自分たちに向いたら。
あるいは、誰かに利用されたとしたら――
そう考えた瞬間、ぞくりと背筋を冷たいものが這った。
オフィーリアは改めて理解した。
自分に課せられた「監視役」という任務の、あまりに重すぎる責務を。
一方、シルヴィアは呆然としていた。
アースドラゴンが襲いかかったかと思えば、光と轟音とともに崩れ落ちている。
何が起きたのか、まだ把握できていない。
サティエルが振り返る。
「思ったより強くなかったよ。これなら、すぐ倒さなくてもよかったかも」
――あっけらかんとした声。
それに、ようやく正気を取り戻したシルヴィアが反応した。
「これ……本当に、サティエルが倒したの?」
「うん、そうだけど?」
「これが“弱い”わけないでしょ! 普通なら、パーティ全滅してるよ!?」
言ってから、ふと気づく。
自分たちは、サティエルがいたからこそ、生き延びたのだと。
「……ありがとう、サティエル。助かったわ」
お礼を口にしたものの、まだ信じきれていない。
目の前の現実が、現実とは思えないほどに常識外だったから。
オフィーリアがサティエルを“監視”している理由、少し……わかった気がする......。
そう思うシルヴィアであった。




