第46話 罠
ソルゲイルは「エナメルの旅人」とやらの顔ぶれを知らなかった。
それとなく聞き出そうと考え、ギルドの情報通を探していたとき――
「雷光の翼のリーダー、ソルゲイルさんですよね?」
不意に、背後から声をかけられる。
振り向くと、そこにはエルフの女が立っていた。
ソルゲイルはわずかに眉をひそめる。ドワーフである彼は、種族的な偏見もあってエルフが嫌いだった。
やれやれ、よりによってエルフか……。
一方のオフィーリアも、ドワーフに対して良い感情は持っていない。
だが、諜報員としての矜持から、微笑を崩すことなく続ける。
「私たち、Aランクの3人パーティなんですが、このガリダダンジョンにはまだ潜ったことがなくて。案内役を探しているんです」
「……Aランクが案内を?」
「ええ。下位ランクの人に頼むのも気が引けますから」
オフィーリアは静かに探るように言葉を投げた。
低ランク冒険者を使えなくなった今、雷光の翼が次に狙うのは“高ランクの新人”――そう睨んでのことだった。
その読みは的中する。
ソルゲイルは心の中で舌なめずりする。向こうから都合のいいおとり役が歩いてきたのだ。
……これは渡りに船だ。
だが、オフィーリアはその一瞬の“含み笑い”を見逃さなかった。
――やはり何かを企んでいる。
何も気が付かないふりをして、さらに突っ込んでみよう。
「ところで、アースドラゴンと戦わせたい子が一人いるの」
「……三人で戦うんじゃなくて、一人だけで?」
「ええ」
その言葉に、ソルゲイルの眉が動く。
……なんだと? メンバーの子供か?
一瞬、こちらの計画がバレているのではと警戒する。
だがすぐに考え直す。仮に気づかれていても関係ない。
落とし穴自体はアースドラゴンの罠――我々のせいではない。
「……まあ、いいだろう。案内してやる」
おそらく、あのEランクの子供のことだろう。
“戦わせたい”などと口では言っているが、実際は始末したいのかもしれない。そう思えば、むしろ都合がいい。
このエルフ、外見に似合わずえげつねぇな……。
そう思っていると、オフィーリアがさらに畳みかける。
「ありがとう。その子がアースドラゴンを倒しても、問題ないわよね?」
……は?
ソルゲイルは一瞬、返す言葉に詰まった。
なに言ってんだこいつ? 子供にアースドラゴンが倒せるかよ……。
「……ああ。倒せるもんなら倒してしまって構わない。むしろ、その方が皆が喜ぶだろうさ」
ソルゲイルは内心で鼻で笑った。
まぁいい。どうせみな落としてやる。せいぜい足掻いて時間を稼いでくれよ。
彼は、自分の計画通りに事が運んでいると満足していた。
だが、気づいていなかった。
自分こそが、オフィーリアの掌の上で踊らされているのだということに――。
* *
オフィーリアは、サティエルとシルヴィアに話を切り出した。
「雷光の翼が、私たちにダンジョンの案内をしてくれることになったわ」
「やった!」
サティエルはぱっと顔を輝かせる。
「ダンジョンに行けるんだ!」
その無邪気な反応に微笑みながら、オフィーリアはさらりと話題を変える。
「そういえば、このガリダダンジョンには“モーグミーズ”って呼ばれるアースドラゴンがいるらしいわ。気をつけてね」
「それって……強いの?」
ぽつりとサティエルが尋ねると、横からシルヴィアが即座に食い気味で返す。
「強いに決まってるでしょ! ドラゴンよ? しかも名前持ち!
名前付きのドラゴンなんて、ヤバいやつしかいないんだから」
シルヴィアは続けて語る。
「聞いた話じゃ、皮膚が岩みたいに硬くて、普通の攻撃じゃ傷一つつかないんだって」
「へぇー」
あくまで関心程度の返事をするサティエルに、オフィーリアがさりげなく核心に迫る。
「サティエル、もし出会ったら……倒せると思う?」
「うーん……見たことないから、わかんない」
「まあ、そうよね。でも、いつ出会ってもいいように心構えだけはしておいてね」
その言葉に、やはりシルヴィアが反応する。
「そもそも、そうならないように雷光の翼に案内頼んだんじゃないの?」
「どうかしら。案外、気を利かせてモーグミーズに会わせてくれるかもよ?
私、エルフだし……ドワーフとは昔から仲が悪いって言うじゃない?」
「え、いやいや、それはまずいでしょ!? サティエル、何か言ってよ!」
「え? うん。モーグミーズに会わせてくれるなら、ぜひ見てみたいかな」
「――ええっ!?」
あまりに予想外の返答に、シルヴィアは素で叫ぶ。
「このパーティ、ほんとに危機感ないよ! 本気で心配になってきたんだけど!」
その反応を横目に、オフィーリアは静かに確信する。
サティエルは、アースドラゴンの存在に一片の恐怖も抱いていない。だから――
「サティエル、もしモーグミーズに会ったら、問答無用で倒していいからね」
「うん、わかった」
「あーもー! 何それ!? どうして“倒す前提”になってるのよ!?
アースドラゴンだよ!? ほんとに大丈夫!?」
シルヴィアの悲鳴にも似た叫びが、夜の宿に響いていた。




