第43話 キツネ狩り1
ギルドの扉が大きく開かれ、一組の冒険者パーティが入ってきた。
その名は『雷光の翼』。
このガリダを拠点とする最強のAランクパーティで、ここの冒険者達の間ではその名を知らぬ者はいない。
リーダーはドワーフの男、ソルゲイル。
その鋭い眼光に、前にいた冒険者たちが慌てて道を空ける。
「いいよな……強いやつは、好き勝手自由にできてさ」
誰かのそんな呟きに、サティエルがぽつりと反応した。
「強いと、自由にできるの?」
隣にいたオフィーリアが少し考えてから、答える。
「……まあ、そうね。強い者は自由に生きられる。弱い者は、往々にして虐げられる……」
その言葉を口にした瞬間、オフィーリアはしまったと思った。
目の前のサティエルこそ、まさに“強者”。
もし彼女が「強い者は好き勝手していい」と信じてしまったら、それは恐ろしい未来に繋がるかもしれない。
慌ててフォローを入れる。
「でもね、強い人が好き勝手しすぎると、周りの人が困ることもあるの。だから、気をつけてね」
「うん。わかった」
素直に頷くサティエルに、ほっと胸をなで下ろすオフィーリア。
今のうちに、倫理観を育てておかないと--そう思うのだった。
そこへ、情報収集から戻ったシルヴィアがやって来た。
「あーあ、やっぱり誰も“赤い鱗の刺青男”なんて知らなかった。この町はハズレね。さっさとお金をためて、別の町に移動しましょ」
* *
グレイスフォックスの活動時間は、夕方か早朝--
そのため昼間はゆっくりと休み、三人は日が傾きはじめた頃、森へと出発した。
まずは、ろっくんの視界を通して上空から探索を始める。
「見つけた。でも……普通のキツネっぽいかな?」
そうサティエルがつぶやく。
実のところ、この三人は誰一人としてグレイスフォックスの実物を見たことがなかった。
そのため、ろっくんの視界に映るキツネが本当に目的のグレイスフォックスなのか、それとも他のキツネなのか、判断がつかない。
「とりあえず、捕まえてから考えよう」
シルヴィアがそう言うと、オフィーリアが即座に役割分担を提示した。
「追いかけ役はシルヴィア、私は魔法で誘導するから--サティエルは待ち伏せして攻撃。いいわね」
オフィーリアは手早く木に登り、サティエルの待機場所を上から指示する。
やがて、シルヴィアがキツネの背後に忍び寄る。
気配に気づいたキツネが飛び跳ねるように逃げ出すと、シルヴィアがすかさず追いかけた。
オフィーリアは魔法でキツネの進路を微調整し、狙い通り、サティエルの方へ誘導する。
次の瞬間--
サティエルが《気功蹠》で地を蹴り、一瞬で前に出ると、外観に傷をつけぬよう《気功掌》をキツネの頭に命中させ、内側を破壊した。
「よし、成功!」
「これ、グレイスフォックスかな?」
「たぶん違うと思う」
「うーん……普通のキツネっぽいわね」
「ま、とりあえず確保して、明日ギルドで鑑定してもらおう」
シルヴィアの提案で、そのキツネはサティエルの魔法袋へと収められた。
「じゃあ、次いこっか」
再びサティエルは、ろっくんを通して空から探索する。
「いた。今度のはさっきより毛並みに艶がある。グレイスフォックスかも!」
三人は先ほどと同じ連携で慎重に捕獲。
この日は、その二匹の確保で探索を終えることにした。
オフィーリアは、今日のサティエルの動きに驚きを隠せなかった。
《気功掌》と《気功蹠》--どちらも高度な気功術を、的確なタイミングで使いこなし、しかも野生動物に傷一つつけずに仕留める精度。
それを二度も。しかもまるで当たり前のように、淡々と。
この年齢で、いや、年齢を問わず、ここまでの使い手などそうそういない。
魔法も気功術も、基礎からきっちり叩き込まれている。それも尋常なレベルではない。
何度でも思ってしまう。
いったい、彼女は何者なの?と。




