第42話 ダンジョンの町ガリダ
三人は、ガリダの町へと到着した。
ここは、これまで滞在していたワラクの町の北に位置し、ダンジョンの存在とともに発展してきた町である。
「ここはね、ダンジョン目当ての冒険者が多く集まるのよ」
シルヴィアの言葉に、サティエルは首をかしげた。
「ダンジョンって?」
「ああ、山にある巨大な洞窟よ。複雑な迷路みたいになってて、魔物がたくさん棲みついてるの」
「なんでそんなのがあるの?」
「さあね、あるものはあるのよ」
曖昧な返事に不満げな様子を見せたオフィーリアが、口を挟んできた。
「伝承によれば、ここのダンジョンは昔、アースドラゴンの巣だったらしいわよ」
「えっ、そうなの?」
「そのアースドラゴンを討伐したのが、アースブレーカーという武器を作ったドワーフの英雄だと言われているわ」
「ああ、聞いたことがある。倒したアースドラゴンに敬意を表して、その遺骸にアースブレーカーを突き立て、墓標にしたって話だよね。それを探してる冒険者もいるとか」
「まあ、どこまで本当かは怪しいけどね」
「へえー、おもしろそう!じゃあ、この町でダンジョン探索するの?」
「いや、ダンジョン探索には日数がかかる。どうする、シルヴィア?」
ダンジョンに挑むには、まず現在地の把握が重要であり、地形を理解し、慣れることが前提となる。
長居をするつもりのない旅人--『エナメルの旅人』にとっては、簡単に手を出せるものではなかった。
「そうね。やめておいた方がいいわ」
「えー、せっかくだから入ってみようよ!」
サティエルは興味津々だったが、シルヴィアはその場を流すように言った。
「わかった、わかった。ちょっとだけ、ね」
そんな会話をしながら、三人は冒険者ギルドへと入っていった。
シルヴィアは思わず声を漏らす。
「なにこれ? なんでこんなに人が多いの?」
この時間帯にここまで混雑しているとは予想していなかった。
掲示板に向かうと、掲示されているのはダンジョン関連の依頼ばかりで、ダンジョン外の依頼はほとんどなかった。
「もともと、ダンジョンの仕事が主なのかしら?」
そう呟きつつ、なんとかダンジョン外の依頼を探すと--
『毛皮用、外観に傷のないグレイスフォックス(生死不問)の納品』という依頼を見つけた。
注意書きには「傷のあるものは絶対に引き取りません」と書かれている。
つまり、通常の攻撃では対応が難しく、依頼の難易度は高めなのだろう。
主な攻撃手段が剣のシルヴィアでは無理そうだったので、他の二人に尋ねた。
「これ、できると思う?」
サティエルがあっさりと答える。
「できるよ。気功掌で体の中だけにダメージを与えればいいから」
実は、オフィーリアも麻痺魔法を使えば無傷で仕留められると思っていた。だが、サティエルの“気功掌”なる技を見てみたかったため、あえて口を出さなかった。
「じゃあ、この依頼を受けよう」
そう言って、シルヴィアは依頼書を受付へ持っていった。
「ねえ、このギルドって、いつもこんなに混んでるの?」
「いえ、実は最近、ダンジョンでアースドラゴン・モーグミーズが現れて、慎重な冒険者たちが潜るのを控えているんです」
「でも、それにしても多くない?」
「それはですね、今ムーンストーンの相場が高騰していて、このダンジョンでよく採れるため、冒険者が全国から集まってきていたんです」
「へー、ムーンストーンって何に使うの?」
「どうやらゲルデン帝国が大量に集めてるらしくて……」
「なるほど。それで人が集まりすぎて、アースドラゴンの騒ぎで潜れなくなったからギルドがあふれてるのね。そして、ダンジョン外の依頼まで消化されちゃったと」
「はい、今まで残っていた依頼が一気に片付いて、私たちとしては助かりましたけど……」
グレイスフォックスの依頼を無事に受注すると、シルヴィアは「両手に赤い鱗の刺青をした大男」について情報を集めるため、ギルドにあふれている人々の中へと足を運んだ。
「一人の方が動きやすいから」とのことで、サティエルとオフィーリアは冒険者ギルドの空いている席に腰を下ろす。
オフィーリアはサティエルのことを考えていた。
今回のグレイスフォックス討伐では、気功術の腕前をある程度見られるだろう。
だが、それだけで本当の力を測るのは難しい。
たとえば、アースドラゴンと戦ったらどうか--?
もし、噂通りの実力ならば、それは絶好の試金石となる。
だが、もし敵わなかった場合、パーティ全員が命の危険に晒される。
それに、ダンジョンの奥に潜むアースドラゴンを探し出すのも容易ではない。
果たして、そこまでする価値があるのか。慎重に判断する必要がある。
一方、サティエルの中のサティシアは、仲間との違いについて思いを巡らせていた。
シルヴィアには、「赤い鱗の刺青の大男を探す」という目的がある。
オフィーリアには、「私を監視する」という役割がある。
それに比べて自分は--「自由を探す旅」と言ってはいるものの、どこか漠然としていて、掴みきれないものを感じていた。
「私、今こうしてるだけでも十分自由な気がするの。でも、何かが足りないような……」
その内なる声に、エルネスタが静かに応じる。
「たぶんね、自分が心から“やりたい”って思えることが見つかると、もっとしっくりくるんじゃないかしら」
「やりたいこと……?」
「今はまだ見つからなくても大丈夫よ。旅の中で、いろんな景色を見て、いろんな人と出会って、見つけていけばいい」
「……なるほどね」
サティシアの中にあったもやもやは、少しだけ晴れた気がした。




