第41話 「エナメルの旅人」始動2
「お疲れ様。思った通り、見事な腕前ね」
オフィーリアが微笑む。
「そう? ありがとう」
サティエルは、いつもと変わらぬ無垢な笑顔で答えた。
「サティエル、本当に強いのね。マンティコアをあんなに危なげなく倒すなんて……結局、私、何もしてないや」
シルヴィアが肩をすくめる。
そのとき、オフィーリアが口を開いた。
「じゃあ、別の魔物も討伐してみる?」
「いい魔物でもいるの?」とシルヴィア。
「来る途中に、キラーハニービーの巣を見つけたの。美味しい蜂蜜が採れるわよ」
「それ、いいね。じゃあやろう!」
三人は再び森へと引き返し、オフィーリアが来るときに見つけていた蜂の巣の近くに到着した。
「ねぇ、サティエル。広範囲の攻撃魔法って使える?」
「うん、できるよ」
「じゃあ、私が巣を小突くから、出てきた蜂をシルヴィアが誘導して」
「えっ!? 私が誘導役!?」
「だって剣じゃ、数百の蜂は無理でしょ?」
「ぐぬぬ……!」
「じゃ、決まりね」
シルヴィアが巣にそっと近づくと、10-15センチもある大きな蜂たちが警戒し始め、ぶんぶんと羽音が高まっていく。
そこへオフィーリアが詠唱。
「マジックバレット!」
魔法の弾丸が蜂の巣を直撃し、怒り狂ったキラーハニービーの大群が一斉に飛び出してくる。
標的はもちろん、囮役のシルヴィア。
「ひゃーっ! これ、絶対貧乏くじだよー!」
全力で身体強化を発動し、涙目で逃げるシルヴィア。その表情は半ば本気の悲鳴。
蜂の群れを引き連れ、サティエルの方へ突っ込んでくる。
「ストームエッジ!」
サティエルの手から放たれた魔法が、轟音とともに風の刃となり、広範囲を薙ぎ払う。
直径百メートルに及ぶ範囲の暴風に蜂たちは一瞬で壊滅し、周囲の木々すら吹き飛ばされ、森に突如として日当たりのいい広場が生まれた。
「あれ……ちょっとやりすぎたかも」
「うん、やりすぎね。でも巣が無事なら問題ないわ」
オフィーリアは言葉を軽く流したが、その内心は違っていた。
範囲魔法も確認してみたけど……こんな上級魔法をさらっと使うなんて……。しかも本人は何でもない顔……。魔法も気功術も一流。それに、未知の技術まで……本当にこの子、何者なの……?
蜂の数が激減したところで、巣に近づく。
「さあ、シルヴィアの出番よ。あなたの剣技、見せて?」
「任せて!」
シルヴィアは二本の剣を構え、空中を飛び回る蜂たちを次々と切り払っていく。
しなやかで美しい動きに、サティエルの瞳が輝く。
「シルヴィア、すごい!きれいな動き!」
それは、サティエルの心からの賛辞だった。
「えへへっ……」
照れながらも笑顔で剣を振るうシルヴィア。
こうしてマンティコアの討伐に加え、キラーハニービーの蜂蜜も手に入れた三人。
今回の狩りは、見事な成果で幕を閉じた。
夜、宿に戻ってから――
「一回の討伐で、旅の資金が一気に貯まったよ!」
嬉しそうに話すシルヴィアが言う。
「このパーティなら、自由に生きていける気がする!」
すかさず、オフィーリアが鋭く突っ込む。
「あなた、仇討ちの相手を探してるんじゃなかったの?」
「ふふっ。確かに仇は討ちたいよ。でも、仇討ちの後に一族の所に戻る気はあまりないんだ。私ね、カールソン家の分家の生まれで、本家からあまり良く扱われてなくてさ。この旅自体、どっちかって言えば追い出されたようなものだったから……」
少し視線を落とすシルヴィア。そして、前を向いて笑う。
「だからね、名を上げて、本家なんて気にせず生きていけるなら、それが一番だと思ってるの」
オフィーリアは冷静に言う。
「……でも、いつまでもこのパーティが続くと思わないことね。私のサティエル監視任務がいつまで続くかわからないから……」
その言葉に、サティエルが反応した。
「オフィーリア、いなくなっちゃうの?」
「あなた次第かもね」
「でも、すぐに解散するつもりじゃないんでしょ? だったら、今のうちに頑張るわ」
――流れに身を任せるサティエル。
――いまだにサティエルの目的と正体を探るオフィーリア。
――希望の光を見出したシルヴィア。
こうして、奇妙な三人組『エナメルの旅人』は、次の町へ向けて静かに歩き出した。




