第40話 「エナメルの旅人」始動1
冒険者ギルドの掲示板の前で、三人は依頼を物色していた。
オフィーリアの視線は、ひときわ目を引くような高難度の討伐依頼を探していた。
サティエルの実力を確認しておきたい……オーガの集落を焼き払い、邪竜ファーブニルを倒す力が、どれほどのものか。
しかし、そこまでの依頼は見つからない。
そんな中で、オフィーリアの目に留まった依頼があった。
――マンティコアの討伐。
マンティコア。
ライオンのような胴体、人に近い顔、コウモリのような翼、そしてサソリの毒針を持つ、厄介づくしの魔物。
空も飛べるし、毒もある。様子を見るにはちょうどいい相手かもしれない。
オフィーリアは、他の二人が依頼を決める前に声をかけた。
「この依頼、どう?」
すぐに反応したのはシルヴィアだった。
「ん? Bランクの依頼か。うわっ、こいつ毒あるやつじゃん。強敵だよこれ。……サティエルはどう思う?」
「やりたいのがあるなら、なんでもいいよ」
うわー、こいつ何も考えてない……。
「まあ、いっか。二人がいいなら私もいい。Aランク冒険者のお手並み拝見ってやつだね」
「いえ、今回はサティエルに前に出てもらいたいの」
「……なんで?」
「私はAランク、あなたはBランク。大体の実力は予測できる。でも、サティエルは自分のランクよりずっと強いと思うのよ。たぶん私よりも。だから、パーティとしてそれを確認しておきたいの」
「そういや前もそんなこと言ってたっとけ。……どうサティエル?」
「うん、別にいいよ」
こいつ……本当に分かってるのか? まあ、Aランクのオフィーリアが言うんだから大丈夫なんだろうけど......。
三人は依頼票を受付に提出し、討伐依頼を正式に受ける。
簡易な地図を受け取り、マンティコアの巣があるという住処へと向かった。
山の麓に着くと、シルヴィアが地図を見ながら眉をひそめた。
「えっと……東の山の岩場って書いてあるけど、ざっくりすぎない? これじゃ探すの大変じゃん」
「ちょっと待って。ろっくんに探してもらうから」
サティエルは空を仰ぎ、小さく呼びかける。彼女の従魔〈ろっくん〉が旋回しながら飛び去っていく。
すぐに、ろっくんが旋回しながら周りを見下ろす。
「……いた」
「うそ!? サティエルの従魔、優秀すぎるでしょ……」
一行は山の中へ分け入り、木々の間を進む。
途中、オフィーリアの視線が何かに止まった。
……帰りに余裕があれば、回収しよう。
そう判断し、二人には何も言わずに通り過ぎる。
やがて森を抜けると、岩が連なる荒地へと出た。
その岩陰――
そこに、マンティコアがいた。
大きな体を岩にもたれかけ、翼を畳んでじっとしている。
休息中のようだ。
三人は気配を殺しながら身を伏せ、そっと様子をうかがった。
少し心配そうに、シルヴィアが声をかける。
「サティエル、大丈夫そう?」
「うーん……見た感じ、そんなに強そうじゃないね。毒のしっぽに気をつければ平気かな」
「わかった。じゃあ、私たちは援護に回るね」
サティエルが一歩、二歩と前に出ると、それに気づいたマンティコアがギロリと睨みつけた。
低く唸るような声をあげ、次の瞬間――地を蹴って突進してくる。
「来た!」
サティエルは構える。
体を包むように淡い光が瞬き、気功による鎧が形成される。
――ドンッ!
凄まじい勢いで飛びかかってきたマンティコアの爪撃を、サティエルは冷静に受け流した。
するりと体をずらし、逆に敵のバランスを崩す。
体勢を崩したマンティコアは、怒りにまかせてサソリのような尻尾を横薙ぎに振るう。
その先端――猛毒を含む針が、サティエルに向かって弧を描いた。
「サティエル、気をつけて!」
シルヴィアの叫びが飛ぶ。
この毒針がなければ、大した相手じゃない。
サティエルは静かに手を差し出し――呟いた。
「プチアルティマータ」
次の瞬間。
光がほとばしり、毒針を含むマンティコアの尻尾の先端が、霧のようにかき消えた。
「サティエル、すごい! 達人級の気功術じゃない!?」
シルヴィアが素直に賞賛する。
だが、隣のオフィーリアの表情はこわばっていた。
今の、本当に気功術……? 一瞬だったけど、尋常じゃない魔力の揺らぎも感じた。魔法? でもあんな魔法、見たことない。しかもあの硬い毒針が、一瞬で――。
しれっとやってるけど、あれが……破壊神の力の一端?
サティエルは無表情のまま、次の手を準備している。
毒針を失ったマンティコアは、怯えたように後ずさり――そのまま背を向け、空へ逃げようと飛び立つ。
しかしサティエルは、間髪入れず魔法を放つ。
「ライトジャベリン」
眩い光の槍が、一直線に空中のマンティコアを正確に撃ち抜く。
翼に穴が空き、バランスを崩したマンティコアは、地面へと急降下を始めた。
「ロックスピア」
それに合わせて、オフィーリアが魔法を発動する。
地面が隆起し、鋭く尖った岩槍が勢いよく突き出す。
墜落してきたマンティコアは、そのまま岩槍に突き刺さり――動かなくなった。




