第35話 黒鉄傭兵団の団長
シノロ第三砦は、新体制が整うまで黒鉄傭兵団が引き続き運営を担うことになった。しかし、次第にさまざまな問題が噴出してくる。
まず、山や森で強力な魔物が出没し、けが人が相次ぐようになったのだ。
そんなある日、ベルンハルト団長はふと気づく。
──そういえば最近、森で強い魔物の死体がまったく見つかっていない。
気になった団長は、その情報を管理しているパトリシア副団長を探しに行く。
すると、彼女は食堂前で団員たちをなだめていた。どうやら、最近食事の量を巡って揉めごとが増えているらしい。
「供給量は変わってないはずなんだが……」
念のため、以前雑用係を務め、物資の扱いに詳しいクスターも呼ばれた。関係者から話を聞くうちに、ある事実が浮かび上がってくる。
──サティエルがルーナ仮面に寄付されたという話をしたあの後も、誰も見ていない間に食材が増えていたのだという。
「団長はルーナ仮面には触れていたけど、食材が増えたことについては何も言ってませんでした。なので、追加された分も普通に使っていたんです」
「その追加分がなくなったのは、いつからだ?」
「ちょうど、姫が砦を出たあたりからです」
「……つまり、姫がいなくなったから、ルーナ仮面が食料供給を止めた?」
その瞬間、クスターの脳裏に何かが閃いた。
「団長、そのルーナ仮面……姫だったんじゃないでしょうか?」
「……何?」
クスターは、言葉を続けた。
「姫は魔法使いだと思っていたので、気功術でサイクロプスを倒したルーナ仮面とは結びつかなかったんです。でも……団長と戦ったときの姫の動き、どこか似ていた気がします。背丈や体格も一致していますし、思い返すと他にも心当たりが……」
「むむむ、確かに……言われてみれば……」
ベルンハルト団長の一言の後、パトリシア副団長もはっと気づく。
「そうなると、あの食材の追加は……姫が魔物を狩って補っていたってこと?」
「誰にも気づかれないように、こっそり魔物を狩って、食料まで調達していたってことか? でも……どうしてそんなことをしたんだ?」
「団長が姫を内勤にしたからじゃないかしら。あれだけ強いのに、何もさせてもらえないことが耐えられなかったんじゃない?」
「だったら、言ってくれればよかったのに……」
「団長が拒否したように記憶してますけど?」
「ぐぬぬ……。――まさか、砦の外で強い魔物を倒していたのも姫だったのか?」
「それは……」
「パトリシア、その件の記録を管理していたな。資料を見せてくれ」
一同は資料室に移動し、記録を確認する。
強い魔物が死体として発見されていた時期が、食料が足りなくなった時から姫が砦を離れるまでの期間にぴったり重なっていた。
「なんてことだ……姫は、ただ食材を補っていただけでなく、砦をも守ってくれていたのか……」
状況証拠は揃っていた。ルーナ仮面の正体は、サティエルで間違いない。
皆が事実を認識し呆然としていた。
「まさか、保護したと思っていた子供に守られていたとは……なんとも情けない。
ということは……あのスーパームーンの激戦に勝利したのも姫のおかげじゃないか。
なんてこった。ろくに礼も言わず見送ってしまった……」
そうつぶやいたベルンハルト団長から、ふと視線を移したパトリシア副団長が本棚の隅に目を留めた。
一枚の紙がはみ出している。
それは「黒鉄傭兵団規則」と書かれた古びた紙だった。
思い出したのは、あの言葉。
「団長命令だ。もし命令が聞けないのなら俺と戦って勝て。それがここのルールだ」
そうだ、そのことを調べるつもりだったんだ。
見ると規則にはこう書かれていた。
『団長が規則である。』
ただし、団長交代については特例がある。
『団長交代について:団長からの指名、または1対1の決闘で団長を倒した者を新たな団長とする』
補足として、こう記されていた。
『団長命令を聞きたくないのであれば、団長を倒して自分が団長になれ』
パトリシアは思わず声を漏らす。
「……そうか。あの言葉の意味って……」
「団長、これ見覚えありますよね?」
ベルンハルトは紙を見て顔をしかめた。
「うわ、懐かしいな……。って、おい……これ、文字通り解釈したら、姫が団長じゃねえか……」
「そうなのよ。姫が、あんたを倒した以上、団長なのよ。どうする?」
「どうもこうもない姫が黒鉄傭兵団の団長だろう。十分にその資格もある。
……だが、姫が戻るまで、俺が団長代理ってことでいいかな?」
「まあ、落としどころはそのあたりかしらね」
こうして、黒鉄傭兵団の雑な規則によって──サティエルは、本人も知らぬ間に「団長」となっていたのだった。
次回より新章となります。新たな冒険仲間ができ旅をしながら自分を見つめなおしたりします。
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