第34話 それぞれの思い
その夜、サティエルは思った。
――この砦での日々は、心地よかった。初めて経験した多人数での暮らし。
団長も、副団長も、みんな優しかった。
クスターという弟子もできた。サティシアにとっては、初めての“友達”でもあった。
明日から、また一人か。……大丈夫かな。
その夜、クスターは思った。
本当は――ついて行きたかった。
でも、自分はサティエルに比べてあまりにも弱い。足手まといになるだけだ。それが分かっているから、言えなかった。
けれど、あの強さは一体なんだ?
団長すら軽くあしらっていた。
俺も、もっと強くならなきゃいけない。だが、あの高みに……届くのだろうか。
眠りに落ちる直前、ふと、団長戦でのサティエルの動きに見覚えがあるような気がした。
……あれは、どこで――?
そう思いながら、クスターは静かに眠りに落ちた。
その夜、ベルンハルト団長は思った。
……姫。いや、あの少女は一体何者だ?
最初からただの平民ではないと思っていたが、あれほどとは。
戦わせぬよう配慮してきたが……。
こちらの配慮が、むしろ侮辱にすらなったのではないか。
――あの強さ。あれでまだ、本気ではなかったな。
俺自身が、本気を出したうえでなお、手加減されていた。
魔法使いのはずなのに、あの身体能力。
気功術も使えるというのか……そうでなければ説明がつかん。
魔法と気功術を同時に使えるのか?まさかな。
しかも――どこかで見たことがあるあの動き。
……どこで......?
その夜、パトリシア副団長は、皆とはまったく違うことを思い出していた。
「団長命令だ。もし命令が聞けないのなら俺と戦って勝て。それがここのルールだ」
戦いの前、ベルンハルトが言っていた言葉。
それは、かつて先代の団長もよく口にしていた。
だが――何か、違う意味があったような気がするのだが......。
そして夜が明け、サティエルは砦を出発した。
見送りに来たのは、ベルンハルト団長、パトリシア副団長、ヨエル、ヘレーネ、クスター──この砦で親しくしていた面々だった。
「大変お世話になりました」
サティエルは丁寧に頭を下げ、皆に別れを告げて砦を後にするのだった。




