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見捨てられた姫様は国を亡ぼす資格があるらしい  作者: サチオウ
砦のお姫様

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第32話 サティエルの意志

デゼルタの町から戻ったベルンハルト団長は、黒鉄傭兵団の団員たちに状況を報告した。


砦の置かれた厳しい状況もあってか、団員たちはこの決定をおおむね好意的に受け止めた。


そして団長はサティエルに告げる。


「姫、お前は黒鉄傭兵団を離れ、リストライネン辺境伯騎士隊で働いてくれ」


ゲルデン帝国に雇われると聞いた瞬間、サティエルの中のエルネスタは強い拒否反応を示していた。


彼女が命を落とすきっかけの一因が、他でもないゲルデン帝国のアンシェリーナ第三皇女だったからだ。


その帝国に今さら利用されるなんて、絶対にごめんだ――そう思っていた矢先、ベルンハルト団長が自分日はマテトキア王国の騎士隊への道を示してくれたことで、エルネスタは安堵する。


しかし、サティシアは納得していなかった。


たしかにエルネスタが嫌がるゲルデン帝国に仕える道は無い。

だが、それと同じくらい、「勝手に自分の進む先を決められる」のも納得できなかった。



なぜなら――これは「自分のために自由に生きる」旅の途中なのだから。



「嫌です。この状況なら、私は旅の続きをします」


周囲の団員たちは首をかしげる。


彼らにとってサティエルは、たまたま保護した迷子の少女であり、自分の意思で旅をしていたなどとは思ってもいなかった。


……何を言ってるんだ?子どものわがままか?

団長は内心でそう考え、少し脅してでも従わせるしかないと思い直す。


「団長命令だ。命令が聞けないっていうなら、俺と戦って勝て。――それが、ここのルールだ」


これは前団長が揉め事の際によく口にしていた台詞で、古参の団員にはなじみ深い一節だった。


だが、サティエルはすでにベルンハルト団長の戦いぶりを見ており、その力量を把握していた。


そして、自分が負けるような相手ではないと理解している。


「わかりました。勝負に勝ったら、私は自分の好きにします。負けたら、騎士隊で働きます」


あまりにあっさりと受け入れられたため、ベルンハルトは返す言葉に迷い、つい脅し文句を口にする。


「……手加減しないからな!」


「私は手加減してあげますよ」


その言葉に、周囲の団員たちは笑い出す。


「姫、言うじゃねーか」


「団長、手加減してもらえるってさ!」


和やかな空気が流れる中、ベルンハルトはひとり内心で焦っていた。

……脅すだけのつもりが、ほんとに戦う流れになっちまったじゃねぇか。


「姫、表でやるぞ!」


ベルンハルトの一言で、一同は砦の外へと移動する。


「審判は……パトリシア、頼む」


指名された副団長は大きな声で団員たちに指示を飛ばした。


「広く空けろ!戦えるようにな!」


団員たちは素早く周囲に散り、円形に大きく場所を確保する。


パトリシアが前に出て、二人の間に立つ。


「ルールを説明する。武器は自由に選んで構わない。一方が降参するか、戦闘不能になった時点、もしくは私が続行不可能と判断した時点で勝負は決する」


ベルンハルトは背中に大剣を背負う。一方、サティエルは武器を持つ気配がない。


「姫、早く武器を取って」


パトリシアが促す。


「必要ありません」


その言葉に、ざわめく団員たち。


「魔法使いだったよな、姫……?」

「素手でどうしようってんだ?」


そんな声があちこちから漏れる。


二人は約5メートルの距離をとって向かい合う。


常識的に考えれば、近接戦闘では物理攻撃が有利だ。身体強化で一気に間合いを詰め、拘束してしまえば勝負は決まる。剣を抜くまでもない。――そうベルンハルトは考えていた。


だが、目の前に立つサティエルを見て、違和感を覚える。隙がない。そして妙に迫力がある。


……何だ?この圧……。


一方のサティエルは冷静だった。


団長は「手加減しない」と言ったけど、多分、本気じゃないんだろうな。


……できれば全力で来てほしいんだけど。

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