第30話 シノロ第三砦防衛戦2
サティエルは驚いていた。
動きが……速い!?
巨大なサイクロプスが、あの巨体からは想像もできない速度で接近してくる。
しかも、手にした棍棒のリーチがあまりにも長い。
――まずは、それを壊す!
振り下ろされた棍棒のタイミングを見計らい、
サティエルは構えを取る。
「プチ・アルティマータ」
暴走魔力を乗せた掌打が、棍棒に直撃。
バギィンッ!!
音を立てて、棍棒の先がはじけ飛ぶ。
しかし、まだ三分の二ほど残っていた。
ならば――
反撃に転じようとしたサイクロプスの動きを見切り、残された棍棒の切っ先を、再びプチ・アルティマータで粉砕。
破片が宙を舞う。
だが――サイクロプスは怯まない。
すぐ近くにあった木を、地面から引き抜いた。
それを、即席の武器として振りかざす。
まさか……そんなことをやるなんて……。
即席の棍棒が再び振り下ろされる。
本音を言えば、あの「アルティマータ」を使えばすぐに終わる。
だが、あれは切り札。
使うべき“時”がある。
こんな相手に乱発するものじゃない……のかもしれない。
自分でも、はっきりとは分からなかった。ただ、どこかで躊躇していたのは事実だった。
――でも、もう動きは読めた。
サイクロプスは即席の棍棒を力任せに振り回し、それを地面に打ちつけていた。
その瞬間、動きが止まる。
狙いどころは、そこだ。
再び即席の棍棒が振り下ろされ、地面を揺らした瞬間――
「気功蹠!」
それを駆け上がるようにして、サティエルは一気に飛び出した。
踏み込みから跳躍、空中で体勢を整える。
そのまま、サイクロプスの一つ目を目がけて 気功蹠 を叩き込む。
ドグシャッ!!
サイクロプスは、唸り声を上げながら後方に倒れ込む。
だが、立ち上がってきた。
……しぶとい。
ふらつきながらも構えようとするその足元に、素早く接近。
足首に向け、もう一度。
「プチ・アルティマータ」
暴走魔力の炸裂とともに、サイクロプスの膝が崩れる。
立ち上がれなくなったその巨体に――
とどめの一撃。
全身の気を右掌に込め、頭部へ。
「気功掌!」
ズゥン!!
一瞬の静寂の後、巨体が崩れ落ちる。
サイクロプスは、動かなくなった。
サティエルは息を整えつつ、その場を離れず森に留まり――
迫り来るオークやトロールたちを、順次討ち取っていく。
一方、砦の見張り台では――
「魔物の数、急激に減少! サイクロプスも……沈黙!?」
その戦いぶりを双眼鏡越しに見ていたクスターは、ある疑念を抱いていた。
あの動き……どこかで……。
確信は持てない。ただ、どこかで見たことのある身のこなし。
誰かを思い出せそうで、思い出せない。
砦に迫っていた魔物の数が半減し、戦況が大きく傭兵団側に傾いたのを見て――
「出撃する! 砦を出て、野戦に切り替える!」
ベルンハルト団長が決断する。
砦の門が開き、黒鉄傭兵団が一斉に突撃する。
そのとき――
ルーナ仮面をつけたサティエルは、静かに森の奥へと姿を消す。
誰にも気づかれぬよう、裏道から砦へ戻っていくのだった。
黒鉄傭兵団は勝利の余韻に包まれていた。
シノロ第三砦での防衛戦――それは、想定を遥かに超える激戦だった。
だが、彼らは退けた。サイクロプスを含む魔物の大群を。
砦の一角で開かれたささやかな戦勝祝い。
焚き火の火を囲み、疲れた体に酒と歓声が沁みていく。
その中で、やはり話題の中心となるのは――
「ルーナ仮面」だった。
「おい、見たか? あいつ、サイクロプスを一人で倒したんだぞ」
「あの蹴り……ただの気功じゃねぇぞ」
「掌底のほうがヤバかっただろ。あんなの見たことねーぞ」
傭兵たちの間で飛び交う憶測と興奮。
『気功掌』『気功蹠』――どれも、一部の熟練者しか使えない高等技術だ。
その上、あの『プチ・アルティマータ』は、もはや神技の領域だった。
「あいつ……エルフか?」
「いやいや、ルーナ人だろう? 仮面もそれっぽいしな」
「もしかして本当に守り神じゃ……?」
話はどんどん飛躍し、盛り上がるばかり。
だが――
まさか、魔法使いとして知られるサティエルがその正体だとは、誰も考えていなかった。
クスターすらも、ルーナ仮面の動きに“見覚えがある”という程度の認識にとどまっていた。




