第29話 シノロ第三砦防衛戦1
やがて――スーパームーンの夜がやってきた。
ただの満月ですらムーンゲートが開くようになった今、この異常な満月に何が起こるかは、想像に難くない。
黒鉄傭兵団は、例月以上に厳重な備えを整えていた。
そして当日。
予想通り、ムーンゲートが開かれた。
しかも、今回は一つではなかった。
砦の周辺に、複数のムーンゲートが発生。
この砦が築かれて以来、百年の歴史の中でも前例のない事態だった。
過去に全国の複数地点で同時発生したことはあっても、これほど近距離で複数開くなど、かつてなかったのである。
次の日、魔物の大群を発見したベルンハルト団長は、即座に籠城命令を出した。
非戦闘員であるサティエルも、砦内で待機することに。
だが、彼女は静かに窓辺に立ち、“ろっくん”を飛ばして外の様子を探らせた。
そして、彼女の目に映ったのは――
オーク、トロール……
そして、その群れの中に紛れていたのは――
サイクロプス。
全長10メートルはあろうかという、一つ目巨人。
手にした巨大な棍棒は、城壁ですら一撃で粉砕しかねない代物。
……あれが砦に来たら、籠城の意味がない。
もう朝だけどしかたない。サティエルは、覚悟を決めた。
仮面とマントを身にまとい、こっそりと砦を出る。
気功蹠を使い、木々にまぎれ森の中へ――。
だが、その姿を――偶然、見た者がいた。
「……姫?」
クスターだった。
一瞬の出来事だった。
だが、あの後姿――どうしても、サティエルに見えた。
いても立ってもいられず、持ち場を離れて彼女の部屋を訪ねる。
しかし、部屋はもぬけの殻。
そのとき――
「クスター、何をしている。持ち場に戻れ!」
上官の叱責に、クスターは部屋を離れざるを得なかった。
……やっぱり、姫だったのか?
確信には至らぬまま、胸に疑念だけを抱えた。
その少し後――
森の中では、サティエル(ルーナ仮面)がサイクロプスと対峙していた。
サイクロプスが、巨木のような棍棒を振り上げ――
「ふっ!」
サティエルはそれを大きく回避する。
ドォォォン!!
轟音とともに、大地が震えた。
その音を、砦の見張りが聞き逃すはずもなかった。
「砦東側の森で爆音! 視認確認――サイクロプスです!」
すぐに、ベルンハルト団長とパトリシア副団長が見張り台へ駆けつける。
「……何だ? サイクロプスのやつ、誰かと戦っているぞ?」
双眼鏡で森の木々の隙間を覗く。
そこに見えたのは、マントをまとい、仮面をつけた人物。
「ルーナ仮面……」
パトリシアは思わず呟いた。
「本当に、いたのね……」
ベルンハルト達は、その戦いをしばらく見つめた。
無謀だ。常識で考えれば、サイクロプスに単独で挑むなど――だが、現実には、それがサイクロプスの進行を止めている。
その間に、オークやトロールの一団が砦へと接近していた。
「サイクロプスはルーナ仮面に任せる! オーク・トロールの迎撃に回れ!」
ベルンハルトの号令が響く。
こうして――
黒鉄傭兵団と魔物たちの激戦が、幕を開けた。




