第26話 食料
普段の仕事は忙しくなったが、ふたりは密かに、活動のタイミングをうかがい始めた――。
しかし、砦には新たな問題も発生した。
定期的に食料や雑貨を届けてくれるはずの荷馬車が、来なかったのだ。
通常、物資はこの砦に最も近い町――デゼルタから運ばれてくる。ちなみに、デゼルタにはこの砦を管理する役所もある。
ベルンハルト団長は事態を重く見て調査を命じた。しばらくして、荷馬車の一行が魔物に襲われ、全滅していたことが判明する。
すぐに町に連絡を取り、後日、ようやく次の馬車が到着した。
だが、届いた物資は明らかに粗末で、量も少なかった。
どうやら、この一帯で魔物が急増しており、リストライネン辺境伯領の都でも物資の流通が滞っているらしい。
砦には一定の備蓄があり、すぐに飢える心配はない。だが、供給が不安定である以上、節約は避けられなかった。
粗末で量の少ない食事が続くと、団員たちの間でも徐々に不満が募りはじめる。
そこで、定期調査の任務に加えて、食用になる魔物の積極的な狩猟が新たに課されることになった。
しかし、現実は厳しかった。
狩猟の対象として有用なブラックボアやロックホーンディアに出会える機会は限られ、代わりに出現するのは、食用に適さないゴブリンやコボルドばかり。
結局、食料不足は改善されず、状況は停滞したままだった。
そんな中、サティエルは自ら動くことを決意する。
夜のうちにこっそり狩ってしまおう。
どうせなら、食料を確保するついでに、強力な魔物も討伐できれば一石二鳥だ。
マントをまとい、ルーナの仮面をかぶって変装すると、窓から静かに外へ抜け出す。
姿を隠すように木立へ紛れ、ろっくんと視覚を共有して魔物を探す。
やがて、ろっくんの視界に一体のトロールが映った。
トロールは前回のムーンゲート出現時にも出現し、傭兵団に最も大きな被害を与えた相手だ。
食用にはならないが、ここで討っておけば、次の襲撃を防ぐことになる。
サティエルは即座にその場へ向かい、トロールと対峙する。
この姿のときは、気功術だけで戦おう。魔法を使うとサティエルだと気づかれるかもしれないから......。
そう判断し、サティエルは気を集中させる。
鈍重なトロールの背後へと一気に回り込み、急所へ渾身の気功掌を叩き込む。
巨体がぐらりと揺れ、そのまま地面へと崩れ落ちた。呆気ないほど簡単だった。
さらに魔物を探し、今度は中型のブラックボアを発見する。これなら食用としてちょうどいい。
その場へ向かい、素早く接近。サッと仕留めた。
今のサティエルにとっては、もはや瞬殺できる相手だ。
その場で解体を済ませ、必要な部位だけを魔法袋に詰めて持ち帰る。
そして――誰にも気づかれないように、団員たちが狩った分にこっそり混ぜて水増しするのだった。
狩りの時間は、睡眠に支障が出ないよう短時間に限定した。
幸い、ろっくんとの視覚共有があるおかげで、それは可能だった。
こうして、サティエルは誰にも知られぬまま、密かに魔物討伐と食料確保を続けることになる。
そのおかげで、砦における食料問題によるトラブルは、徐々に減っていった――。




