第25話 異変
山の魔物が増えているという話は以前からあったが、ここ最近、その様子が顕著になっている。
これまでほとんど目撃されなかったような、森の奥に棲む強力な魔物が、しばしば砦の近くで確認されるようになったのだ。
そして、ついに決定的な異変が起きた。
スーパームーンでもない、ごく普通の満月の夜に――ムーンゲートが開いたのである。
翌日、豚面の魔物・オークの群れに加え、全長3メートルを超える巨体と怪力を持つトロールまで現れ、撃退には大いに手こずった。
現在、この砦にはおよそ100人が駐留しているが、そのうち10人が負傷。
しかも全員が戦闘専門というわけではなく、サティエルのような雑用係のほか、砦の整備や武具のメンテナンス、物資の調達などを担う者が半分近くいる。
そう考えれば、戦力の損耗は決して軽視できるものではなかった。
スーパームーンは年に一度ほど起こり、その影響で開くムーンゲートに備えるのは想定の範囲内だった。
しかし、毎月のように訪れる満月にもゲートが開くとなれば、対応は格段に厳しくなる。
黒鉄傭兵団の面々は、今回は何とかなったが、これが恒常化すればまずい――と、危機感をあらわにした。
魔物の増加傾向をふまえ、仕事の割り振りを見直し、戦闘要員の増員が決定された。
クスターはその実力を認められて戦闘班に加わったが、
サティエルはというと――どれだけ強くアピールしても、認められなかった。
サティエルは思う。
まだ簡単な魔法しか見せていないから、団長は私の力を正しく評価していないのでは?
ならば実力を見せれば、判断は変わるかもしれない。
この砦で一番強いのは、たぶん私だ。状況が厳しくなるなら、私が前線に出た方がいい。
そう考えたサティエルは、ベルンハルト団長のもとへ直談判に向かう。
「どうした、姫?」
「私、自分では結構強いと思っています。戦闘要員に加えていただいた方が良いかと」
「ダメだ」
「なぜですか?」
「俺がそう決めたからだ」
「それでは納得できません。せめて、私の実力を見てから――」
「必要ない。姫に納得してもらう義理もない」
「……わかりました」
思いのほか話にならなかったことに、サティエルは意気消沈して部屋をあとにする。
その背を追って、副団長のパトリシアが声をかけてきた。
「ごめんね、姫。ベルンハルト団長、昔、自分の娘さんを初陣で亡くしてるの。
多分だけど……、それを重ねてしまってるんだと思う。戦いに出したくないのよ」
「……そんなことがあったのですか......」
「その娘さん、優秀な魔法使いだったと聞いてる。でも、初陣で奇襲を受けて、魔法には不利な近接戦になってしまって……」
「……」
「それに、クスターが抜けた分、姫の仕事も増えるはず。だから、そっちを頑張って。戦いは私たちに任せて」
「……はい」
納得はできない。だが、ひとまず引き下がって部屋へ戻る。
さて、どうしよう。
サティエルの中のふたり――サティシアとエルネスタが相談を始めた。
まず、エルネスタが口を開く。
「私、これだけ力があるのに、戦わずに皆に任せっきりなんて……耐えられない」
「じゃあ、私たちも戦おう」
「どうやって?戦闘要員に選ばれなかったんだよ?」
「マントをまとって、仮面をかぶって、こっそり支援すればいいんだよ」
思いもしなかったサティシアの提案にエルネスタは驚き、少し考える。
そして、それを実行することに決めるのであった。




