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見捨てられた姫様は国を亡ぼす資格があるらしい  作者: サチオウ
砦のお姫様

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第24話 クスター

ある日――


ろっくんの視界が、突然サティエルに流れ込んできた。


森の木陰に、1匹のファングウルフ。

そのすぐ近くには、砦の団員が3人。だが、誰も気づいていない。


まずい……!


サティエルは急いで砦を駆け上がり、見張り台にいたヨエルに声をかけた。


「ファングウルフが出たの。団員の近く!」


ヨエルが指差された方角を見ると――すでにファングウルフは全速力で団員に向かって走っていた。


間に合わない!


「ライトアロー!」


咄嗟にサティエルが光の矢を放つ。

一直線に放たれた光が、ファングウルフを貫いた。


「キャウンッ!」


あと2メートル――。

その距離まで迫っていた獣は、その場で崩れ落ちた。


ようやく、団員たちは自分たちが狙われていたことに気づく。


「ありがとう!助かった!」


彼らは見張り台の方へ向かって大声で叫んだ。


ヨエルがにやりと笑いながら答える。


「今のは姫の魔法だ。戻ったらちゃんと礼を言っとけよ」


「おう!」


――この出来事以来、サティエルは“黒鉄傭兵団の中でもかなり魔法が使える”という認識を持たれるようになった。


そんな風に周囲の評価が変わる中、密かに闘志を燃やす少年がいた。



クスター――

砦でサティエルと同じく祖母ヘレーネの手伝いをしているが、日々一人で修練を積み、強き戦士を目指していた。


同年代の女の子が、あの危険なファングウルフを一撃で倒した――

そのことは、彼にとって衝撃であり、悔しさを覚える出来事でもあった。


負けたくない……


今は実力が足りないと自覚している。

だが、年頃の男の子として、サティエルに格好良いところを見せたかったのだ。


――ただし、この砦では、武術を「教わる」という文化は基本的にない。

自分で見て学べ、というのが流儀だ。


もちろん、尋ねれば基本は教えてもらえるが、それ以上は自己流。

だから、上達のスピードも決して早くはなかった。


それでも、クスターは地道に努力を重ね、最近では気功術による身体強化を不安定ながらも使えるようになっていた。


だが――


すでに、サティエルはあんなに強いんだ……。


焦りが、胸の奥にじくじくと溜まっていく。


そんなある日。


クスターが砦の裏手で、気功術を使いながら木剣を振るっているのを見かけたサティエル。


サティエルの中のエルネスタ―名門学園で気功術の使い手としてトップに立ち、剣術“翠嵐流”の使い手でもあった彼女は、つい、口を出してしまう。


「ねぇ、剣を振るとき、手だけに気功術で力を入れてるでしょ? それだとバランスが悪いわよ」


クスターは驚いたように振り返る。


「えっ? 姫は魔法使いだろ? 気功術のことなんてわかるのか?」


「勉強もしたし、見てきたのよ。それに、今の話は気功術だけじゃなくて、剣術全般にも通じるわ」


「どういうことだ?」


「剣を振るのに、腕だけ使ってるつもり?」


「……ああ、いや、足とか体も……使ってると思う」


「でしょ? だったら、身体の姿勢や全体の連動に意識を向けなきゃ。気を流す場所と力のバランス、タイミング――全部が噛み合ってこそ、きれいに力が乗るのよ」


クスターは少し唸りながら首を傾げた。


「言いたいことはわかるけど……実際にどうやるかは……」


「じゃあ、少しお手本を見せるわ」


そう言って、サティエルは木剣を手に取る。


軽く構え、ひと振り。


――力んでいる様子はない。だが、姿勢はぶれず、動きは速く、音すら澄んでいた。


クスターは思わず息を呑む。


「姫……俺に剣を教えてくれ!」


「ふふ。毎日は無理だけど、空いてる時なら見てあげる」


サティエルをライバル視していた気持ちなど、いつの間にか消えていた。


彼の素直な一言――

それが、彼の運命を大きく変えた。


クスターの剣と気功術は、その日から目に見えて上達しはじめる。


一方、サティエルは空いた時間で、『メーディアの書』を読み進めていた。


これまで中級魔法までは習得していたが、“アルティマータ”の修得を優先するよう言われていたため、上級魔法には手を出していなかった。


サティエルは知らなかった。

メーディアの書の「中級魔法」は、世間で言うところの上級魔法に相当し、

「上級魔法」とは、もはや世に知られていない“特別な魔法”であるということを。


彼女は、日々新しい知識を吸収しながら、次の一歩へと進んでいた。


――そんな、静かで穏やかな日常。

だが、それは永遠には続かない。


新たな波乱が、すでに近づきつつあった。

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