第22話 ロック鳥
ここ、シノロ第三砦は、山に棲む魔物の監視と討伐を任務としていた。
通常時は砦の見張りに加え、調査部隊を編成して定期的に山へ入り、魔物の状況を確認しつつ、遭遇すればその場で討伐を行っていた。
ただし、山から魔物が出てきた場合は「緊急討伐」として、その都度対応する形をとっていた。
しかし最近では、ゴブリンやコボルドといった魔物の出現が増え、緊急対応の件数も次第に多くなっていた。
サティエルが傭兵団や砦の生活にようやく馴染んできた頃のことだった。
ふと思い出したのは、以前手に入れたロック鳥の卵だった。
「これ、少しは食糧の足しになるかな?」
そう思い、魔法袋から卵を取り出してテーブルの上に置いておいた。
ところが、翌朝──
何気なく卵を見ると、殻にひびが入っていた。
「ピピーッ」
なんと、孵化してしまったのだ。
しかも、やたらとかわいい。
インプリンティング――最初に見た動くものを親と認識する習性――によって、その雛はサティエルになついてしまった。
だが、これはロック鳥。成鳥になれば翼を広げて十メートルにもなるという、巨大な魔鳥だ。とても飼えるような代物ではない。
とりあえず、魔法袋に入れておいた肉を与えると、
「ピーピー」
元気よく食べた。
ふと気づく。インプリンティングのとき、モーブの髪飾りをつけていたことを。
試しに髪飾りを外してみたが、雛の態度は特に変わらなかった。鳥には効かないのかもしれない。
仕事の時間になり、髪飾りを付けなおし、雛を部屋に残して砦の業務へ向かう。
だが、心配でそわそわしていたせいか、すぐにヘレーネに気づかれてしまった。
「姫、なんかあったの?」
「うん。持ってた鳥の卵から、雛が孵っちゃって……それで気になって」
「ああ、そんなことね。じゃあ、休み時間にちょこちょこ戻って様子見ればいいじゃない」
「ここって、鳥を飼ってもいいのかな?」
「まあ、小鳥くらいなら問題ないでしょ」
……小鳥でもないんだけど。
休憩時間、サティエルは砦で雑用をよく手伝っている、ヘレーネの孫のクスターに相談してみた。彼はサティエルと同年代の、元気な少年だ。
「鳥の雛を飼うのに、巣の代わりになるものってないかな?」
「どんな雛か、見せてもらっていい?」
「うん」
そう言って、自分の部屋へ案内し、雛を見せた。ついでに餌の肉もやると、
「ピーピー」
「へえ、けっこう大きいな。……これなら、あれがいいか。ついてきな」
クスターに案内されて物置へ入る。
「……あった」
彼が取り出したのは、桶だった。それに藁をたっぷりと詰めてくれる。
「こんな感じでいいんじゃないか?」
「ありがとう」
サティエルはその桶を部屋に持ち帰り、そっと雛を乗せた。
「ピーピー」
問題なさそうだった。
そんなふうにして一週間が過ぎた。
生まれたときは十五センチほどだったロック鳥は、あっという間に五十センチほどにまで成長していた。
やっぱり、ロック鳥を飼うのは無理があるよね……。
最初から分かっていたはずなのに、どうしたものか。
このまま大きくなれば、部屋ではとても飼えない。
飛べるようになったら、きっと窓から外へ飛び立っていくだろう。
そう思い、その日、サティエルは窓を開けたまま仕事へ向かった。
仕事の最中、砦の空をロック鳥が飛んでいくのが見えた。
……もう、巣立ちなんだね。
少し寂しい。いや、思ったよりも、ずっと寂しかった。
仕事を終えて部屋に戻ると、やはりロック鳥の姿はなかった。
静まり返った部屋に、ぽっかりと心に穴が空いたような気分になる。
そのときだった。
窓の外から、見慣れた姿が戻ってきた。ロック鳥だ。
「……帰ってきた!」
嬉しさが胸に溢れ、思わず駆け寄る。
だがその直後、外から声が響いた。
「姫ーっ! 大丈夫か!? 今、鳥の魔物が部屋に入ってったぞ!」




