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見捨てられた姫様は国を亡ぼす資格があるらしい  作者: サチオウ
砦のお姫様

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第21話 お姫様が現れた

サティエルの姿が変わったのを見て副団長は一瞬で固まった。


「な、な、な……あんた、一体何者!?」


ヘレーネも目を丸くして一瞬言葉を失う。


「こりゃあ……とんでもないお姫様が出てきたね……」


騒ぎに気づいたのか、廊下の向こうから足音が近づいてくる。


「なんだ、なんだ?」


「お姫様って、ほんとか?」


砦の傭兵や職人たちが顔を覗かせはじめる。噂は瞬く間に広がりつつあった。


その喧騒の中、ベルンハルト団長が怒鳴り声と共に現れた。


「どうした、何があった!」


部屋に目を向けた瞬間、彼の眉がぴくりと動く。


「……誰だ、この姫様みたいなのは?」


場に重苦しい空気が流れる。


何がどうなっているのか、団長にはわからない。しかし、一目見ただけで「面倒ごと」の匂いを感じ取るには十分だった。


「パトリシア、ヘレーネ以外は全員、外に出ろ」


団員たちが慌てて部屋を出ていく。ベルンハルトは扉を閉め、サティエルに視線を戻した。


「この子は一体誰だ?」


パトリシアが応える。


「さっき、保護した子供よ」


「嘘だろ?まったく印象が違うじゃないか」


「魔導具による変装よ。さっき髪飾りを外したら、こうなったの」


ベルンハルトは目を細めてサティエルに問いかける。


「……なぜ、そんな変装を?」


サティエルは落ち着いた様子で答えた。


「私、この姿で外を歩くと色々と面倒が起きるので……。だから、外出する時はその髪飾りをつけて、男の子の格好で出歩いていたんです」


そう、本来は姫バレを防ぐためだったのだが、もはや姫など関係無く問題を起こす容姿に育っていた。


「ふむ、それは……そうだろうな」


見た目だけでなく、言葉づかいや所作の端々から滲む気品。それは明らかに庶民のものではない。身分の高い育ちであることは誰の目にも明らかだった。


ベルンハルトは改めて問う。


「さて、あなた様は……何者で?」


サティエルの意識の奥で、サティシアは困惑していたが、エルネスタは察していた。これ以上は下手なことを言えない、と。


「私はサティエル。マルムフォーシュ王国で人里離れて育てられました。育ててくれた人が亡くなって……それで外の世界へ出てきたのです。小さい頃の記憶があまりなくて、自分がどんな身分だったかは、わかりません」


「……貴族か、それに近い存在が、何らかの理由で隠されて育てられた。そういう話か」


ベルンハルトは腕を組む。真偽を測りかねる様子だった。


「だが、隣国からここまで来るには、相当な距離があるはずだ。本当に、マルムフォーシュから来たのか?」


「それを証明するものなら、あります」


サティエルは魔法袋の中から冒険者ギルドのカードを取り出して見せる。


「なるほど、発行地は……マルムフォーシュ王国カンパーロの町。間違いないな」


ベルンハルトはカードを一瞥し、頷く。彼女の目に偽りはない。言葉にも裏がないように思える。


「では、これからどうするつもりだ?」


「ヘレーネさんの話では人手が足りないそうなので、できれば、ここで働かせていただければと……」


「ヘレーネ、構わないか?」


「もちろん。そのためにパトリシア副団長を呼びに行ったんだから」


「……わかった。ならば、サティエル。お前を正式に雇おう」


「ありがとうございます。戦闘も、ある程度ならこなせます」


「子供の手を借りる必要はない、今のところ兵力は足りている。まずはヘレーネの下で内勤を頼む」


ベルンハルトは真剣な目で念を押す。


「それと――この砦の中でも、変装は続けてくれ。その容姿では、余計な騒ぎを呼ぶだけだ」


「はい」


それは、サティエルにとっては慣れたことだった。



幸い、彼女にはこの部屋が与えられた。砦の規模を考えれば、これは特別待遇といえるだろう。


こうして、サティエルは黒鉄傭兵団の一員として、新たな生活を始めることになった。


だが、この一件のせいで、団員たちの間ではすでに彼女の別の呼び名が囁かれ始めていた。


――“姫”。


それは冗談混じりのあだ名だったが、次第に、ごく当たり前の呼び名になっていくのだった。

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