第16話 山を越えるのは厳しい
さらに山を進んでいくサティシア。
しかし、問題が起こっていた。
高所に来たことで緑は消え、気温はぐっと下がり、食料の調達も難しくなってきた。
ひと月分ほどの備蓄はあるが、このあたりでもすでに雪がちらつき、ときおり天候が激しく荒れる。
「ねぇ、サティシア。このまま進むのは厳しいんじゃない?」
「うん。私も同じこと考えてたとこ」
「引き返す?」
「ううん。ここをまっすぐ進むのはどう?」
「え?今、厳しいって……」
「だから、ここをまっすぐ進むの」
そう言って、サティシアは目の前の斜面を指さした。
「……ごめん、どういうこと?」
「この斜面に穴を開けるの。あの魔法を使って」
「アルティマータを? 本気で? ……大丈夫なのかな?」
「水平に撃てば問題ないよ。山ばかりで人もいないし」
「な、なるほど……」
「じゃあ、やろう」
エルネスタは少し躊躇いながらも、サティシアに押し切られ、斜面に向けてアルティマータを放つ。
どおおおおおおーーーーん
辺りに轟音が響き渡り、山全体が揺れる。
発射された光の径は、サティエルの口とほぼ同じ大きさ。
だが、その熱で周囲の岩まで溶け、結果として人が通れるほどの大穴が開いた。
ただし、内部はまだ溶けた岩が流れ出ていて、すぐには入れそうにない。
一日待ち、熱が落ち着いたところで冷却魔法を放ち、内部に進入する。
とはいえ、まだ熱が残っている場所もあり、その都度、先へ先へと冷却を重ねながら進む。
光魔法で道を照らしながら、まっすぐ続く変化のない通路を進む。退屈極まりない。
途中からは気功蹠と風魔法を併用した高速移動に切り替えた。
二日ほど経った頃、前方に光が見えた。
その先は外へ通じており、彼女は外へと出る。
出た先は急な下り斜面だった。どうやら盆地の中に出たようだ。
斜面の下方には森が広がり、遠くには別の山が見える。
よく見ると、木々の上に人工物のような影がある。
「こんなところに人が……?」サティエルは疑問を抱きながら、斜面を下りていく。
「動くな!」
突然、正面に現れた五人の弓兵。さらに、木の上からも複数の気配。
――エルフだった。
「敵意はありません。ただの通りすがりです」
サティエルは争いを望まず、慎重に言葉を選ぶ。
だが、場の空気は一触即発。
「拘束しろ!」
リーダーらしき者が命じた瞬間、空から何か大きなものが急接近してきた。
助かった。この隙に逃げられる。
そう思ったのも束の間。現れたのは、ロック鳥――翼を広げれば10メートルを超える、巨大な猛禽だった。
しかも狙いはサティエル。
一瞬でロック鳥に鷲掴みにされ、空へと持ち上げられる。
巨大な足で肩から下までをがっちり押さえられ、腕も動かせない。
気功鎧を展開していたため無傷だったが、なければ即死でもおかしくない状況だった。
ロック鳥はエルフたちを一瞥し、そのまま上空へ飛翔していく。
「……さすがに、まずいかも」
高く昇る前に、サティエルはロック鳥の顔に向かってアルティマータを発動。
空に閃光が走り、ロック鳥は悲鳴もなく墜ちた。
ドゴーン――
落下の直前、サティエルは足を振りほどき、風魔法で空中から静かに着地した。
そして、さきほどのエルフたちが再び集まってくる。
サティエルは構えを取った。
戦うしかないか……でも、今ので私の力は理解したはず。なら、少し威圧してみよう。
「私に勝てると思わないことね。死にたいなら、かかってきな!」
エルフのリーダーは迷っていた。
彼女の隣に横たわるロック鳥――それは、長らく自分たちが手を焼いていた怪物。
それを、たったひとりで、いともたやすく倒してしまった。
見た目は人間だが……本当にそうなのか?
攻撃してこないのは、こちらを警戒しているのか?
……いや、違う。あの目だ。自分が負けるとは微塵も思っていない。
先ほどは「敵意はない」と言っていた。ここは、引くべきか……?




