第14話 オーガの集落1
サティエルはこれまでの行動範囲を越え、さらに山奥へと足を踏み入れた。
魔法と気功術をひとりで使えることは、山中での生活において圧倒的な利点だった。
水や火を魔法で自在に出せるうえ、土魔法で休息用の穴も掘れる。生活に不自由はない。
さらに身体強化を併用すれば悪路もものともせず、狩りも難なくこなせた。
そうして数日進んだある日、遠くに集落のようなものを見つける。
簡素な木の柵に囲まれ、粗末な住居がいくつか立っていた。
「こんな山奥に人が……?」
不思議に思いながら、警戒を保ったまま近づいていく。
遠目にも、人影が動いているのが見えた。数十人はいるだろうか。
しかし、彼らは人間ではなかった。
オーガ――ピンクから赤みがかった肌、筋骨隆々の体、角の生えた鬼人。
人間よりひと回り大きな二足歩行の異種族だった。
立ち去ろうとした瞬間、三体のオーガに見つかってしまう。
「オイシソウナ ヤツ ミツケタ!」
「なっ……! 私を食べるつもり? なんなのこの人たち……」
サティシアの問いに、エルネスタが答える。
「人間じゃないわ。人間を食べるオーガっていう種族よ」
「私、おいしくないんだけど……」
そう言って立ち去ろうとするが、すでに回り込まれていた。
どうしよう……。集落の前で騒ぎを起こすのは避けたいのだけど。
サティエルはゆっくりと構える。
「できれば、見逃してほしいんだけど……」
「デハ タタカエ カッタラ ミノガス マケタラ タベル」
……結局、戦うしかないか。勝てばいいなら、悪くはない。
「わかった」
サティエルが構えると、オーガの一体が前に出る。
「オマエ ブキ ナイ オレモ ブキ ツカワナイ」
意外にも、フェアな勝負を望んでいるようだった。
構えたオーガが右拳で殴りかかってくる。
サティエルの《柔気流気功術》は、こうした力任せの相手には相性がいい。
彼女は自らの右手で、相手の腕を外から払うように受け流す。
オーガは前のめりにバランスを崩し、地面へ拳を打ちつけた。
ドゴォン!
地面がクレーターのように凹む。とてつもない膂力だ。
続けて、今度は左腕でアッパーを繰り出してきた。
サティエルはそれをギリギリで回避する。
ブオンッ!
風を切る音とともに拳が通過。彼女はその腕が止まった瞬間、肘に向かって気功掌を打ち込んだ。
「グワーッ!」
オーガが苦悶の声をあげる。だがすぐさま、右拳を振るってくる。
それを軽く受け流しつつ、彼女はすかさず踏み込み、相手の腹に向かって右手を打ち込んだ。
「気功掌!」
「グハッ……!」
オーガはその場に崩れ落ちた。
「じゃあ、私の勝ちだから。見逃してくれるよね?」
そう言ったところで、もう一体のオーガが前に出てくる。
「オマエ オレニハ カッテナイ タタカウ」
天然なのか、それとも罠なのか。
よく思い返せば、「ひとりに勝てば終わり」とは言っていなかった。
「ちょっと、それってズルくない?」
エルネスタが驚きながらも観察を続ける一方で、サティシアは苛立っていた。
「はあ? 約束を破るなんて許さないんだから!」
「今度は私が行く!」
エルネスタは、サティシアの子供っぽさをほほえましく思いながら、彼女の様子を見ることにする。
構えるサティシアに、オーガが襲いかかる。
「ライトニング!」
構えた手から電撃が放たれ、オーガの体を貫く。
「グワワワーッ!」
だがオーガは耐え、なおも拳を振るってきた。
「ライトニング!」
「ライトニング!」
二発、連続で電撃が放たれる。
オーガは悲鳴を上げ、意識を失って倒れ込んだ。
エルネスタは驚いていた。
最初の一撃の反応を見て、あと二発で意識を刈り取れると判断した――そうに違いない。
サティシアの魔法戦闘のセンスは群を抜いていた。




