第13話 自由を求めて
サティエルは、カンパーロの町の宿屋で、なぜ騎士や魔法士が町に多くいるのかを宿の従業員に尋ねてみた。
すると、「大魔法士メーディアの弟子を探しているらしい」との話を耳にした。
――まずい。
探しているのは、十代前半の薄紫の髪を持つ少年だという。
従業員の表情が一瞬変わる。その視線から、サティエルは自分が気づかれたことを悟った。
彼女はすぐに宿を飛び出す。
モーブの髪飾りを外して本来のホワイトブロンドの髪に戻し、口元を布で覆い、フードを深くかぶる。
そのまま町の門へと向かう。
門番に呼び止められるも、髪色はモーブ色から変わっており、少女として認識されたようで、問題なく町を出ることができた。
実のところ、サティエルの中のサティシアもエルネスタも、なぜ自分がこれまで身を隠して生きてきたのか、理由を知らなかった。
ただ、小さいころから町では目立つなと教えられ、貴族や騎士と接触しないよう注意されてきた。
だからこそ、「騎士が自分を探している」と知った今、身を隠す以外の選択肢が思い浮かばなかった。
とりあえず、サティエルはメーディアの小屋へ戻ることにした。
だが、そこには見知らぬ人が数人いた。
遠くから気づいたため見つからずにすんだが、小屋にはもう近づけない。
彼女は、小屋から離れた場所に新たな拠点を設け、数時間おきに様子を見に通った。
だが、彼らはまるで帰る気配がない。
数日が過ぎても変化がなかったため、サティエルとエルネスタは話し合い、かつてジューベーと暮らしていた小屋に向かうことにした。
ジューベーの小屋に着くと、人が立ち寄った痕跡があった。
警戒して様子をうかがっていると、人の声が聞こえてきた。
サティエルは物陰に身を隠し、観察する。
大きな荷物を背負った数人が小屋に入っていった。
その後も数日観察したが、やはり彼らも居座って離れる様子はなかった。
さて、どうするか。
エルネスタは考えた。
今までの拠点はもう使えない。町にも戻れない。
なら、街道を進めば別の町に出られるだろう。
新しい町で、目立たずひっそりと暮らしていけばいい。
そう考え、その案をサティシアに伝えた。
だが、返ってきたのは意外な言葉だった。
「私、あの山の向こうがどうなっているか知りたい」
フィニス山脈――魔の山脈とも呼ばれる広大な山の連なり。
どこまで続いているのかも分からず、単独で越えられる保証もない。
それでも、エルネスタは黙って考えた。
自分は、ただ逃げ道を探していた。
だがサティエルは、この状況でも“やりたいこと”を選んだのだ。
メーディアが残した「自由に生きなさい」という言葉が、ふと脳裏に蘇る。
サティエルの選択こそ、その言葉の本質を捉えているのではないか――。
体はサティシアのもの。今の彼女はもう十二歳でしっかりしてきた。
なら、自分はサポートに徹すればいい。
「じゃあ、山越えを目指そう」
幸い、この山は豊かだ。食料にも困らない。
今の力があれば、魔物にも対処できるだろう。
こうして、少女は“隠れる者”から『自分のために自由に生きる』“旅する者”へと一歩を踏み出した。




