第12話 メーディアの弟子
「自由に生きる」ということを考えたサティエルだったが、サティシア、エルネスタともに具体的な案は浮かばず、しばらくは今の生活を続けることにした。
メーディアを丁重に埋葬し、放置していた邪竜ファーブニルも解体。
有用な部位は回収して物置に、残りは魔法で焼却した。
サティシアは気づいていなかったが、エルネスタにはひとつ疑問があった。
ファーブニルの解体に使ったナイフ──いつも使っているものだが、死んでいるとはいえあの頑丈な外皮を切れるとは。
「ねぇ、サティシア。このナイフって、どこで手に入れたの?」
「キューベーにもらったよ」
「そうなのね……」
確かにサティシアはキューベー(=ジューベー)から受け取ったが、実はそれは彼女の誕生時に贈られた王家のナイフだった。
材質はオリハルコン。柄の中には王家の紋章が刻まれた剣身と魔石が仕込まれており、サティシアの魔力にだけ反応して切れ味を増す魔導具だった。
それはサティシアの身分を示す品でもあったが、ジューベーが鞘と装飾を変え、ただのナイフに見えるよう加工していたため、彼女はそれと気づかぬまま使い続けていた。
* *
数日後、町で買っていた食料などが尽きたため、カンパーロの町へ向かうことにした。
ファーブニルの素材を持って行けば高く売れたかもしれないが、騒ぎになるのは目に見えていたので今回はやめることにした。
しばらくぶりに来たカンパーロの町は、いつもと様子が違っていた。
人が多く、騎士や魔法士の姿もちらほらと見える。
「何かあったのだろうか?」
自由に生きろとは言われたが、騎士や貴族との接触を避けるという方針は今も変わらない。
わざわざトラブルを招く必要はないと考えていた。
* *
場面は変わって、マルムフォーシュ王宮。
大臣のキーファーは、カンパーロの町からメーディアの報告書を受け取っていた。
「……ん? 邪竜ファーブニルが討伐された?」
報告書と共に、ファーブニルの魔石とされるものも送られていた。
――意味が分からない。
そもそも、封印が解かれたという報告すら届いていない。
ましてや、ファーブニルを倒せるような戦力は送っていないのだ。
そんな中で、突然の討伐報告。
キーファー大臣は騎士団長と魔法士団長を呼び出し、
ファーブニル討伐の真偽を確認するよう命じた。
こうして、騎士団および魔法士団の一部がカンパーロの町へ派遣された。
まず町での聞き取りを行い、その後、メーディアの小屋を訪ねる予定だ。
道中は危険なため、相応の人数が同行していた。
町で判明したことは次の通り。
・ファーブニル討伐に、町の冒険者たちは関与していない。
・メーディアには、薄紫の髪をした少年の弟子がいた。
・討伐報告書は、その弟子によって届けられた。
一方、小屋に向かった部隊からの報告はこうだ。
・小屋には誰もいないが、つい最近まで人が生活していた痕跡がある。
・物置には、ファーブニルの素材が大量に保管され、いずれも丁寧に処理されていた。
――確かに、ファーブニルは討伐されていた。
さらに、小屋の近くには明らかに新しく造られたと思われる墓標があった。
偶然にも、サティエルとはすれ違いになり、メーディアの小屋を調査する人員と接触することはなかった。
その後の町での聞き込みにより、次のことも判明する。
・その弟子は、以前キューベー と名乗る木こりと共に町を訪れていたらしい。
調査を進めると、そのキューベー実はジューベーではないかとの疑いが強まった。
ジューベー――。
かつて邪竜ファーブニルを討伐した『暁の牙』の一員であり、武神と言われた気功術の達人。引退後はサティシア姫に気功術を教えていた男。
たしか隣国カラカーナが侵攻してきた頃に消息を絶っていたはず。
まさか、ジューベーが関与しているのか?
だが、最近は姿を見せていないという。
彼は川の上流に住んでいたらしい。
そのあたりには、かつてファーブニル討伐隊が使用していた小屋がある。その小屋を知っているということはやはりジューベーか。
そこにも調査隊を派遣した。
結果、やはりそこにも比較的最近まで人が住んでいた痕跡があり、
近くには墓らしきものもあった。
キーファー大臣は、得られた情報を整理した。
討伐隊の小屋に残された痕跡から、ジューベーと子どもがそこに住んでいたことは確かだろう。
そのジューベーが亡くなり、子どもはメーディアに引き取られたのではないか。
そして、メーディアとその弟子がファーブニルを討伐した――。
だが、なぜ今なのか。どうやって?
ファーブニルが弱っていたのか?
あるいは、致命的な弱点でも見つけたのか……。
報告書や墓の状況から推察するに、メーディアもごく最近亡くなった可能性が高い。
となれば、やはり鍵を握るのはその弟子だ。
問題は、その弟子が極めて慎重に人目を避けて育てられていた点にある。
町の役人によれば、その弟子は10代前半で、薄紫の髪をしており、顔立ちにこれといった特徴はないという。
――何か引っかかる。
ジューベーと最後に会ったのは、ルース地方にカラカーナが侵攻してきた時だ。
あのとき、戦況を伝えると、彼は急いで立ち去り、そのまま消息を絶った。
サティシア姫を助けに向かったのか?
確かに、姫の遺体は確認されていない。
だが、あの時点ではもう間に合わないはずだ。
例え、敵軍から逃れても、姫は魔力石化症に侵されていたのだから――生きてはいまい。
……だが、「隠して育てる理由のある子ども」と考えるならば、
サティシア姫と共に暮らしていた可能性が浮かぶ。
あの時、王は戦争の駒として姫を見捨てたのだから……。
しかし、年齢は合うが、髪色が違う。それに魔力石化症のはず……。
答えは出ない。だが、その弟子に会えれば、姫かどうかは明らかになる。
しばらくの間、カンパーロの町、メーディアの小屋、討伐隊の小屋に人員を常駐させ、弟子を発見し次第、保護する方針とする。
そして、もう一つ。
キーファー大臣は、秘密諜報部のウェントゥスにも調査を依頼した。
その過程で、弟子の薄紫の髪は「モーブの髪飾り」による偽装の可能性があると知らされる。
――やはり、メーディアの弟子はサティシア姫なのか。
もしそうなら、どうすべきか……。
保護し、静かに暮らしてもらうのが最善か。
だが、果たして王は、それを認めるだろうか――。




