第11話 メーディアの言葉
翌朝、サティシアが目を覚ますと、重傷だったはずのメーディアが起きて、何やら書類を作成していた。
「おお、サティエル。起きたか。邪竜ファーブニル討伐の件は最重要報告事項だ。この書類を町の役所まで届けてくれ。それからその袋に入っているファーブニルの魔石も一緒に渡しておいてくれ」
そう言われて、見た袋はファーブニルの魔石より小さいものだった。
「これに、魔石が?」
「それは、魔法袋。見た目より大きな物が入る貴重なもの。お前の魔力にだけ反応するように登録した。その袋はお前のものだよ」
サティシアはその価値を知らないが、エルネスタはその袋が、貴族の屋敷と同じぐらいの価値があることを知っている。そんな貴重なものを譲るということは......。
魔法袋を丁寧に受け取り、サティシアは心配そうに問いかけた。
「メーディア婆ちゃん、一人で大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ」
メーディアはそう答えたが、内心では自分がもう長くは持たないことを悟っていた。
サティエルに渡した物は任務完了の報告と王国との契約の完了の書類。
邪竜ファーブニルの監視任務が、そのままサティエルに誤って引き継がれることのないように。自分の弟子という立場を理由に、役人たちに都合よく扱われることのないように。
サティエルが不利益を被らないためにした最後の仕事だった。
町の役所から戻ってきたサティエルが目にしたのは、すっかり衰弱したメーディアの姿だった。
「メーディア婆ちゃん!」
サティエルは駆け寄った。
「サティエル……ありがとう。長年の心配だった邪竜も倒せた。そして、人生をかけて研究した究極魔法も完成した。
こんなに恵まれた人生は、そうないだろうね。本当に、ありがとう。お前がいてくれたおかげだ。
これからは、自分のために自由に生きなさい」
そして、一冊の本が渡される。
「これはきっとお前の助けになるだろう」―それは、メーディア自身が己の生涯をかけて研究した成果をまとめた特別な魔法書、「メーディアの書」であった。
「今のお前なら、もう何も怖がる必要はない。もし、国が邪魔をするようなことがあれば――国を滅ぼしたって構わない。お前にはその資格がある」
そう言い残し、メーディアは静かに息を引き取った。
その最後の言葉を、実はサティシアもエルネスタも正しく理解していなかった。いや、誤解していたのだ。
メーディアが言いたかったのは、
「サティエルはマルムフォーシュの王女なのだからこんなところに隠れることなく堂々と生きなさい。もし国から迫害を受けるのなら、その力を使って王位を奪っても構わない」
というマルムフォーシュ王国を念頭に置いた意味だった。
だが、サティシアは、自分が王女であるという記憶を失っており、エルネスタもそれを知らない。
そのため、二人にはメーディアの言葉が、
「自分の邪魔をするなら、どんな国でも滅ぼしていい」
というように聞こえてしまった。
そして、「お前にはその資格がある」と。
ある程度は人間社会での経験を積んでいるエルネスタは、メーディアの言葉の真意を測りかねていた。
一方、素直なサティシアは、そのまま受け取って納得してしまっていた。
その夜、メーディアに言われた「自由に生きる」ということについて、二人は思いを巡らせていた。
サティシアは、これまでの生活に大きな不自由を感じていなかったため、「自由」という言葉の意味がいまひとつピンとこない。
エルネスタもまた、貴族の令嬢として育ったため、一般的な暮らしに疎く、
「自由にしていい」と言われても、どうしていいかわからずにいたのだった。
次回より新章となります。
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