第10話 最凶の襲撃者2
発生した霧により、ファーブニルからの視界が遮られている隙に、メーディアは地面に激突したサティエルの元へ駆け寄り、肩を抱えながら後退。ファーブニルとの距離をとった。
「大丈夫か?」
息を荒げながら、彼女が問う。
「うん、気功鎧をまといながらの受け身で防げた。ダメージは軽いよ」
サティエルは顔をしかめながらも、しっかりと立ち上がる力を持っていた。
「もう一回、落とせないかな?」
「何かあてがあるのか」
「うん」
サティエルの瞳に、確かな意志が灯っている。
「わかった。とっておきの魔法を使う。ただし、チャンスは一度きり」
二人の間に、沈黙ではなく覚悟が交差する。
再び上空から炎の轟音が響く。ファーブニルの胸が膨らみ、喉奥に赤熱の魔力が集まり始める――火炎ブレスだ。
メーディアが詠唱に入る。空気がびりびりと震え、地面に影が揺れる。
「いでよ不断の光鎖、その輝きにて敵を拘束せよ――ルミナス・チェイン!」
天空に向かって放たれた魔力が光に変わり、無数の鎖となって収束し、ファーブニルの四肢を絡め取る。ぎしり、と金属が軋むような音を立てながら、巨大な竜が地上に引きずられてゆく。
「早くしな! 長くは保たない!」
サティエルは気功蹠で一気に跳躍。空気が震え、風を斬るように一直線に飛ぶ。
そして魔法の詠唱。
「アルティマータ!」
圧縮された魔力が瞬時に放出される。轟音とともに、ファーブニルの胸部を覆っていた鱗が砕け、煌く破片となって空に散る。
「気功掌!」
狙いは鱗のはがれた部分。力を込めて放たれた気のエネルギーが、竜の内部へと突き刺さった。
「グワワワーッ!」
怒りと苦痛の絶叫。ファーブニルはその苦しみから逃れるように、あばれ、光の鎖を咆哮と共に引きちぎる。
怒りに任せたドラゴンクローが容赦なくサティエルを切り裂き、続くドラゴンテイルが風を裂いてメーディアをなぎ払った。
「うぐ……この我がこんな痛みを……許さん」
傷ついた竜が呻くように唸りながら、再び空へと舞い戻る。その翼が生む突風が地表の草木をなぎ倒し、焼けた大地をえぐる。
そしてまた、喉に紅蓮の魔力が集まる――火炎ブレスの予兆。
地に伏したメーディアは、身動き一つできない。サティエルも傷だらけ。彼女の中に宿る一つの人格――エルネスタは、策を失い諦めかけていた。
だが、そのときサティシアが口を開く。
「アルティマータは掌じゃなくて、口の中の方がいいと思うの」
その一言に、エルネスタはハッとする。
――そうか。確かに掌よりも、口内の方が広く密閉された空間。魔力の濃縮がより効率よくできるかもしれない。
迷いはなかった。サティエルの体に宿る気が、彼女の決意に応えるように高まっていく。
これが決まらなければ終わる。その思いで最後の力を振り絞る。
気を用いて口内を守り、その内部に魔力を凝縮、加熱――そして、臨界点を迎えた。
口を開く。
どーーーーん!
空を切り裂く閃光。まばゆい光が一瞬にして邪竜を貫いた。
「バカな。この私が......」
空中のファーブニルが、大気を引き裂きながら落下する。地響きとともに地面に激突し、その巨体はぴくりとも動かなくなった。
……何とか、倒せた。
サティエルはふらつく体を懸命に動かし、メーディアのもとへ駆け寄る。
地に横たわるメーディアは全身を傷つけ、呼吸も荒い。それでも、その目には確かな光が宿っていた。
「アルティマータ……見事だった」
そう、これこそがメーディアの思い描いていた本来のアルティマータだった。
その一言を残し、彼女は気を失った――満足げに、そして安堵したように。
サティエルは急いでメーディアを小屋へ運び、手当てをしてベッドに寝かせた。自身も激しく消耗していたため、すぐにベッドに倒れ込んだ。




