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不幸な幸福に生きる

作者: ありす
掲載日:2025/10/15

白いカーテンが、かすかに風に鳴った。

秋の夕方というのは、どうしてこうも心を締め付けるのだろう。


「カァー、カァー」

夕焼けが燃える中、一羽のカラスが鳴きながら消えていった。

あの声は、私の心のどこかに眠っている何かを、わざと掻き立てるようだった。

私はベランダに出て、冷たい風に頬をさらした。サンダルの隙間から風が通るたびに、強い不快感を覚えた。


ライターの小さな火を煙草に移す

あの人を失ってから、私はずいぶんとみじめな変わりようをした。

人は、失ったものを美しく飾り立てるという、奇妙な悪癖を持っているらしい。

私も例外ではない。あの人との口喧嘩でさえ、今では幸せのひとつとして思い出される。


季節が変わるたび思い出し、私は立ち止まって泣いた。

スマホの画面に走ったヒビを見て、私は自分の心を見ているように思った。

一度傷が入ると、もうどんなに気をつけても、また別の場所が割れる。

人の心も、きっとそうなのだ。


ティッシュで指を切るように、私は毎日、小さく痛む。

煙草を吸って、ため息のように煙を吐く。

ほこりをかぶったベランダの柵に手を置き、ビルの上から頭をひょろりと出して、交差点を埋め尽くすほどの人々が歩いてゆくのを覗きこんだとき、私の苦悩の小ささを感じ寂しくなった。



部屋に戻ると、机の上に一枚のメモがあった。

数か月前、あの人が置いていった紙切れだ。

「幸せになってください」と書いてあった。

笑ってしまった。どうして他人は、こうも簡単に「幸せになれ」と言えるのだろう。

この紙以外の一切は、すべて捨てていってしまったくせに。


私はペンを取り、紙の裏に小さく書いた。

「君はいつまでたっても変わらないな」


書き終えて、そっとそれを窓辺に置いた。

風が運んでいってくれることをひそかに願った


外では、夕焼けが夜に変わるところだった。

カラスの声も、もう聞こえない。

私はまた煙草を吸い、灰を軽くはたいた。

灰が風にさらわれて、暗闇に消えた。


その瞬間、胸の奥で何かがかすかに動いた。

それが絶望なのか希望なのか、私にはわからなかった。

けれど、もうどうでもよかった。


私は今日も大きな歯車の中で、生かされている

それだけで、十分に幸福で、そして不幸なのだと思った。

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