あおい火の夜
山のふもとに、小さな村があった。
その村に住む少年・ユウは、母親とふたりで暮らしていた。父は病で早くに亡くなり、母も体が弱く、ユウは毎日薪を拾い、山の水を汲み、食べ物を探す生活をしていた。
ある晩、ユウは森の奥で不思議なものを見た。
青白い炎のような光。近づくと、そこにいたのは、小さな子鬼だった。
角は片方だけ。皮膚は薄紫。寂しそうな目をしていた。
「火を…消さないで」
子鬼は小さな声で言った。
「これがないと、ボク…凍えちゃうんだ」
ユウは驚いたが、怖くはなかった。子鬼は震えていて、寒そうだった。
それからというもの、ユウはときどき山へ行って、子鬼に食べ物を分けた。子鬼は喜び、時には木の実を探してくれたり、雪を溶かして水にしてくれた。
「ねえ、ユウ。ボク、人間に見つかると…焼かれちゃうんだって。こわいね」
「大丈夫。ぼくが守るよ」
ユウはそう言って、子鬼の手を握った。
子鬼の手は冷たかったけど、どこか安心する温度だった。
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春の雪解けがはじまるころ、村で噂が広がった。
「山に鬼火が出る」「鬼が食べ物を盗んでいる」
人々は山に罠を仕掛け、火を持って探しに行った。
ユウはそれを知って、山へ走った。
「逃げて! 人が来る!」
でも子鬼は笑った。
「もう、いいんだ」
「え?」
「ボクね、本当は火じゃなくて……人の“ぬくもり”がほしかったんだ」
子鬼はふと、ユウに抱きついた。
その瞬間、子鬼の体が淡く光り、雪のように――静かに、空へ溶けていった。
ユウの胸には、あの小さな手の、ぬくもりがほんの少しだけ、残っていた。
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それから何年経っても、ユウは冬の山へ行く。
青い火は、もう見えない。
でも冷たい風の中で、ユウはときどき思い出すのだ。
小さな鬼の、震える声と、寂しげな笑顔を。