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第9話打ち上げパーティ

 クリスタル輝くちょっとだけ無機質だった私の家の周りは、今ずいぶんにぎやかになっていた。


 戦闘員としてスカウトした改造盗賊たちと、研究員A。


 そして沢山の異世界動物達。


 後は溢れんばかりに集まった犬人間、改め犬妖精のクーシー達。


 最期に盗賊アジトに囚われていた人間の少女である。


 少女は年の頃は15、6と言ったところで、盗賊達にしたらいくらか丁寧に扱われていた形跡があった。


 ただ私も連れてきたはいいものの、扱いを決めかねていると言うのが正直なところだった。


 だからいったんめんどくさいことは忘れよう。


 ここは私の異世界進出の第一歩。


 手にはジョッキにビール。


 私の肉体年齢は20代に変更。


 そして間に合わせのテーブルに、異世界から持って来た備蓄の一部を解放して、楽しくパーティの始まりである。


「では諸君。君達を襲っていた盗賊たちは壊滅した。もう心配しなくていい! 乾杯!」


 言葉を待つ彼らにそう言うと、そこら中から遠吠えが上がった。


「すごいデス!」


「ホントにやっつけたデス!」


「とっても強いデス!」


 賞賛の嵐。正直大好きだ。


 私は元の世界ではいまいち足りなかった心からの賛辞を堪能して、彼らが静まるのを待った。


「喜んでもらえて何よりだ。では改めて自己紹介をしよう。私はここに越してきた、ドクタークレイというものだ。まぁ気軽にドクターとかクレイとか呼んでもらえばうれしいよ」


「ドクター!」


「ドクター!」


「ドクター!」


 一斉にコールがドクターで統一された。言いやすかったのか一択だった。


 今回の善行はどうやら彼らに受け入れられるという目的を達成することが出来たようだ。


 私としては自分のコミュニケーションに難があることは重々承知していただけに、一番困難だった善良な隣人を手に入れられて、とても満足だった。


 そしていきなり、臨時収入と労働力まで手に入れられて素晴らしい。


 盗賊から改造した戦闘員たちは休めの姿勢で待機中である。


 そんな彼らを見て、さすがにクーシー達の一匹が手を上げた。


「あのあの、ドクター?」


「なんだね?」


「あのでっかい人どうするデス?」


「ああ、彼らはこのまま雇おうと思っているよ。絶対服従だから、君らも存分にこき使うといい。何でもやってくれるよ」


「本当です!?」


「トウゾクが?……良い人にデス?」


「そんなことアルデス?」


「セイリテキにムリデス。ぶっ飛ばしても良いデス?」


「まだまだ戦闘意欲旺盛だね。もちろん好きなだけぶっ飛ばしまくりたまえよ。硬いから注意するんだよ?」


 ドクタークレイの大発明。改造戦闘員は文字通り、戦うために存在する改造人間である。


 外骨格の強度も、銃器を想定しているのでちょっとやそっとでは傷一つつけられないだろう。


 今後は周囲の警戒をして妙な輩が入り込まないように警備員くらいにはなるはずだった。


「こいつもコキ使うデス!」


「しっかり働くデス!」


「一日48時間労働デス!」


「二日経ってない? 死んじゃうと思うんだそれ?」


 そして研究員Aは大量のクーシーにまとわりつかれて、ポコポコ叩かれていた。


 何だアレ、ちょっとうらやましい。


 しかしポコポコされている本人は生きた心地がしない様子だった。


「あ、あのこいつらは……どういう状況なんですか? というか貴方もしれッと育ってません?」


「お酒は二十歳になってからだからね」


 ビクビクした研究員Aもまた、整列する戦闘員について質問するので私はにっこり笑った。


 そんなに聞きたいと言うのなら聞かせてあげよう。


 一体戦闘員を呼び、私は自慢の改造を解説した。


「文字通り私の戦闘員になってもらったのだよ。体に直接注入して改造するタイプだから……その、少々リスクはあるがすでに完成した技術だよ。高耐久の外骨格に、再生能力と筋肉強化が売りだね。普通の人間よりはるかに強く、頑丈だ。ちなみに君には、彼らの管理をお願いしようと思っている」


「お、俺が?」


 自分を指さして、戸惑いの声を上げていた研究員Aだが、そうでなければスカウトなんてするわけがない。


「ああ。君の命令を聞くように設定しておこう。だが、間違ってもこれを使って我々に危害を加えるなんて考えないことだよ。命令の上位権限は私にあるままだからね」


「えへへ……そ、そんなことしませんよ?」


「うん。よろしく頼む。後は……彼女の事だな」


 そして思わぬ戦利品についてそろそろ何か言わなければならない。


 薄汚れてはいるが仕立ての良い服を着ている人間の女の子はおそらく誘拐されてきたのだと想像できた。


 どこぞの権力闘争の結果だとしても穏やかではない。


 私はふむと少し考えて、言った。


「……ここから自分で家に帰れるかね?」


「いやいやいやいや。それはさすがに無理ですよ!?」


 私が提案すると研究員Aから待ったがかかった。


「そんなに無謀だと思うかね?」


 うっすらそうだろうなと思いつつ聞いてみると、力強く当り前だと返された。


「無謀ですって! ここは辺境の危険領域ですよ?」


「……何だねそれ?」


「し、知らないんですかい? ここらはもう人間の領域じゃない。魔物の領域なんですよ。だから盗賊はこの近くで仕事をするんです。魔物にまぎれてうやむやに出来るから」


「ふむ。魔物というのは人を捕食する生物ということかな? ……確かにそれは危険だな」


「そんな中女、子供を一人で放り出すなんて事したら、即餌ですぜ?」


「君らがわざわざ連れて来たんだろう? それに君らは元気にやっていたじゃないか。気合でどうにか?」


「なりますかねぇ?」


「……無理だろうねぇ」


 とはいえ私としても、これからやることが山ほどある。


 そんじょそこらの引っ越したばかりとは、文字通り世界が違うのが問題だった。


「だが、悪いが私は君を元居た場所に送り届けるつもりはない。これから、生活圏を整備しなければならないのでね。そこまで手が回らないんだ」


「……生活圏を整備?」


 女子のかすれた声に私は頷いた。


「そうだとも。研究室は出来たが、まぁまぁ快適な生活には程遠いからね。人手も手に入ったことだし、ある程度大掛かりに環境ごと手を加えようと思っているよ。それに、話を聞く限りだとどうやらここに住むのは思っていた以上に過酷かもしれない。それでもいいなら君の住居も用意しよう。なにせ今なら建て放題だ」


 目の届く範囲でなら安全確保の努力をするのもやぶさかではない。


 だが未知の異世界故に安全を確約出来ないのは間違いなかった。


 何よりこのドクタークレイはマッドサイエンティスト。


 そんな自分が帰っていいよと言っているのは、一般的な感性で言うならラッキーと言えるのだろう。


 もちろんそう口には出さないがレディが選んだのは、わりと地獄の切符だった。


「……私もしばらくここにいさせてくださいませんか?」


「いいのかねそれで?」


「……おそらくもう、帰るべき場所はないので」


 うつむく少女に、私はやはり何かあるかと納得する。


 そして彼女も生き残ろうと必死なのだろう。


 労働力として彼女が期待できるかと言えば、あまり期待はできないかもしれないが、考えてみるとまるで役に立たないと言うわけではなさそうだ。


 私は正直一般的な人間の感性とは少々ずれているという自覚がある。


 心地よい理想郷を作る上で、一般的な人間の体に合ったものにするには、多角的に観察する必要があるかもしれない。


 この二人を人類のサンプルとして様子を見れば、心地よい空間を作れるかもしれないという下心は大いにある。


「そうなのかね? まぁそれもいい。いると言うのなら歓迎しよう。手伝ってくれるのなら色々と特典を用意しているよ?」


 来る者は拒む必要もない。本来であれば頼んでも人間が来るような場所ではなさそうだった。


 これは施しではなく、いわば異なる世界の人間に対する引っ越し蕎麦のようなもの。逃げ隠れするようになってからはとんと気にしたことはなかったが、友好的に行こうじゃないか。


「ボク達もデス?」


「もちろん君達もだともクーシー諸君。どうだろう? 事後承諾になってしまってすまないが、私に協力してはくれないかな? もし君達が協力してくれるのなら、君達の要望を可能な限り叶えることを約束しよう」


「おまかせデス!」


「恩返しするのデス!」


「ようぼうってなんデス?」


「なに、君達の楽しいように話を聞かせてもらいたいだけだよ」


 クーシー達は何気に賢い。


 今後の議論は思ったよりも白熱して、パーティーは楽しく過ぎて行った。


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