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第8話私と一緒にくるかね?

 かつてのドクタークレイは考えた。


 機械ではなく、有機的な外部装甲を作ることが出来たなら、より人体になじむのではないか?


 そうして作り出したのが生体外装『怪人シリーズ』である。


 怪物のボディの中に、人間を疑似神経で接続することで動かす外付けの身体は元の世界の人間にすら大いに恐れられた。


 元のクーシーよりも5倍は大きな体躯。


 その毛皮はマシンガンの一斉掃射にさえ耐え、脚力は高層ビルを飛び越える。


 今、取り込まれているクーシーは狼怪人と完全に神経をリンクさせて、自分の手足のように動かせるはずである。


「接続はうまく言ったかね? では自らの手で恨みを晴らしてみたまへ」


「ウオオオオン!」


 闘争本能を解放するように、狼怪人は吼える。


 驚いて縮みあがっていた他のクーシー達は、雄叫びを聞いたとたん、同じく吼えて呼応した。


 一方でこの世界には存在しない異様な光景に呑まれていたのは盗賊の頭だった。


「な、なんだ今のは……俺の魔法と同じようなことを」


「いや、根本的に違うよ。まぁ実際に体感してみてくれ」


「……うるせぇ! 死にやがれ!」


 叫び、両手を地面についた男の周囲が発光した。


 するといきなり地面が盛り上がって、泥の津波が押し寄せてくる。


 思った以上の規模感に私は吐息を漏らすが、それでは狼怪人01は捕らえられまい。


 案の定、狼怪人01はその強靭な脚力で軽々と津波を飛び越えていた。


「は?」


 狼が、盗賊の頭に飛びかかる。


 唸り声を上げながら振るわれた爪は荒々しく、力任せに盗賊の胴体を切り裂いた。


 その勢いは胴体だけでは収まらず、背後の地面に大きな爪痕を残すほどのオーバーキルだ。


 これでは生身の人間などひとたまりもなかった。


「……っ!」


「お見事。ああ、食べたりはしないでくれよ? 蜘蛛ロボットに噛ませておけばまだ大丈夫だ」


「わかったデス!」


 クーシーは尻尾が千切れるんじゃないかというほど振られてしっかりと受け答えをしているし、意識も問題なさそうで私も一安心である。


「よかった。いやー神経の接続に失敗してたらどうしようかと思った。クーシーでやるのは初めてだしね」


「なんデス?」


「いや? 何でもないよ?」


 何はともあれ、復讐は終了。大変めでたい。


 恐々狼怪人01を見上げている研究員Aは、強張った笑みで言った。


「す、すごいっすね。なんなんですかこれ?」


「すごいだろう? 私の作品の中でもかなりの完成度を誇る一品なんだが、不思議と全く人気がなかったんだよ」


「そうなんっすか?」


「ああ。生ものは―――グロイらしい……」


「……」


 カッコイイと思うんだ。それにせめて性能を評価してほしいのだが、その辺の留飲は実際の活動で証明したので、水に流そうと思う。


 そして大切なお楽しみの時間である。


 空っぽの廃墟にあっても仕方がない資金源は有効活用させてもらおう。


「よし、じゃあ戦利品をいただこう。みんなで山分けだ。欲しいものを相談しようか」


「「「ワン!」」」


「……盗賊よりたちが悪い」


 研究員Aは顔を青くしていたが、戦利品の分配には参加するようである。


 次々運び出される品物は多岐にわたっていて、ずいぶんと手広く……というか、節操なく盗賊達は暴れていたようだった。


「食料品に。貴金属……武器、こっちは毛皮かな?」


 そして大量の檻に、様々な動物の姿がある。


 そこは異世界らしく見たこともない動物が沢山いて、私は実にときめいてしまった。


 そして私は最期に砦の一番奥で牢獄を見つけて小さくため息をついた。


「―――人間か。まぁそうだろうな」


 だが中に入っているのは少女が一人。


「……」


 長い黒髪の下から見える金色の瞳が私を見ていた。


 身なりがしっかりしているし、何なら豪華に見えるところをみると、誘拐でもされた口か。


 目鼻立ちは整っているが、鋭い目つきの少女は何を言うでもなくこちらを睨んでいる。


「本当に救いようのない外道だなぁ。まぁ私が人のことを言えた義理ではないがね」


 私はどうしようかと考えたが、放っておく理由もなかった。


「盗賊はもういないよ。さぁ君はどうしたいかな?」


「……」


 少女は驚いた顔をして、目を見開く。


 しかし反応がそれだけで終わってしまった少女はこちらを信じ切れずに一歩踏み出せないでいるらしい。


 それは無理もないことだと私は思う。


 そして私は自らが悪人であると言う自覚があった。


「私と一緒に来るかね?」


 だが成り行きというのは案外バカに出来ないものだと私は思っていた。


 だからこちらから一度は手を伸ばす。


 ここから出るチャンスを逃すと言うのならそれもいい。


 ためらっていた少女は、しかし恐々とだが私に手を伸ばした。


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