第7話盗賊のアジトで
研究所を出発してしばらく後、我々ドクタークレイとクーシー達一行は賊のアジトに到着した。
大きな洞窟のようだが巧妙に隠された砦は近くで見ると中々迫力がある。
どういう経緯か破棄されたそれを盗賊達は隠れ家としてうまく利用していた。
そしてアジトでは討伐した盗賊の数と同じ数の戦闘員がずらりと並んで我々を出迎えた。
「順調だね」
私は持って来た軽トラックを止め、何人かのクーシーと研究員Aと共に盗賊のアジトを眺めた。
「制圧はだいたい終わったかな。では中にあるモノを運び出して……」
私が並ぶ戦闘員達にそう指示を出し、視線を逸らしたその瞬間。
いきなりバチンと重い衝撃が私を襲った。
「……ほぅ」
「なにぃ! お前魔法使いか!」
戦闘員の一体が私に襲い掛かったらしい。
しかしドクタークレイの大発明。携帯式バリアーがあれば大丈夫。
こいつは盗賊のお頭か。
てっきり真っ先に仕留めたと思っていたが、どさくさに紛れて逃げることに成功していたようだ。
そして戦闘員にしか見えなかった彼の、私に叩きつけられたと思われる腕は派手に弾け飛んでいて、泥のようなものが腕から滴っているのが見えた。
「……泥? 泥で戦闘員に偽装していたのか? 驚きだね……一目ではわからなかった」
「はっ。この底なし沼のトロン様の魔法に対応出来たのは褒めてやる! だがこんなもんじゃねぇぞ」
「まほう? ……魔法か! いやいやこれがそうなのか!」
思った以上にファンタジーでとても嬉しい。
私は急激にテンションが上がって、目の前の男にようやく興味を持った。
「ちなみに私は魔法使いではないよ。私は科学者だ」
「……なんだそりゃ?」
「すぐにわかるとも。まぁ私も楽しむが、君も堪能してくれたまえよ」
運良く自己申告してくれる生き残りもいてくれたことだし、サンプル採集といこう。
私はペロリと舌なめずりをしたところで―――ワン!という鳴き声を聞いて、うっかりしていたことを思い出した。
「……そうだった。恨みがあるのは君達だったね」
「そうデス!」
「怒り心頭デス!」
「八つ裂き確定デス!」
毛を逆立てるクーシー達は待たせすぎてしまったものだから、殺意マシマシである。
直接戦闘はめんどくさすぎるから、この展開はちょうどいい。
彼らの望みを叶えることは、私にとってもウェルカムだ。
「ちなみに、こき使われてたと言う研究員Aはどうかね? やるかね復讐?」
「いや……俺はいいかなって」
「そうかね? スッキリするよ? まぁいいか。強制するものでもないね。ではクーシーの中で我こそはという者はいないかな?」
ドクタークレイは本命に話を振ると一番に手を上げたクーシーがいた。
「ボクがやるデス!」
「ほぅ。では君にやってもらおう」
確認後、私はおもむろに異次元収納からとっておきのモノを取り出してクーシーの頭の上に浮かべる。
四角い箱のようなメカは、クーシーの頭の上でふわりと浮かんだまま、小さなランプをチカチカと明滅させていた。
そしてドクタークレイはとある一覧の中から使えそうなものを選び、手元の端末をタッチした。
「では君に力をあげよう。私の代名詞というべき最高傑作だ―――堪能したまえよ」
では開始。
ビコンと目のような二つのライトを光らせ、ナビのブロックの音声と共に装置は起動する。
『生体プリンターを起動します。生体外装―狼怪人を出力』
「! ナンデス!」
「悪い物ではないよ。身をゆだねて、ゆっくりと呼吸したまえ」
装置の出した黒い泥がクーシーを飲み込んでゆく。
そして泥は、まるで3dプリンターのように泥から新たな体を出力していった。
『疑似神経を接続。狼怪人出力完了です。お疲れさまでした』
ドクタークレイの大発明。クーシーの一人を取り込み、万能生体プリンターが作り出したのは、オオカミ型の怪人だった。