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第6話ドクタークレイのマッドな大発明

「……あの……ここは?」


「私のラボの地下だよ。ちょっと待ってくれ、セッティングが……よしよしいいよ。準備完了だ」


 私はパイプ椅子に縛られたままの盗賊Aを座らせて、彼にも見えるように大きなディスプレイを用意する。


 ディスプレイ上には周囲のマップが映し出され、赤い光点がいくつも灯っていて、すごい速さで動いているのが確認できた。


「ここに映っているのは、君達のお仲間だ。発信機……と言ってもわからないか。とにかく君達の後を追跡している」


「な、何のために?」


「原因究明のために? 対処療法にしても、一定の成果は欲しいだろう? 私は問題は根っこから解決したい派でね」


 少なくとも実働部隊が組織のすべてということはあるまい。


 あんな檻まで持参していたくらいだ、そう遠くない場所に本拠地もあるのだろう。


「個人的にはあわよくば異世界らしいなにか驚くべき一味も期待してしまうところではあるが……期待しすぎというものだね」


 彼らは一直線に山の方に向かっていた。


 人里があるようには見えないが、地形もついでにドローンで補完してゆくとたどり着いたのは山の洞窟だった。


 どうやら中は古い砦跡の様で、廃墟を人が住めるように改造したもののようである。


「ふーむ……ここが君達のアジトかね?」


「ええ、まぁそうっすけど……すごく鮮明になんでアジトの絵が?」


 あっさり頷く情報提供者の盗賊に私は軽くため息をついた。


「……ロマンがないわけではないが……予想の範疇だなぁ。魔法とやらの偽装とかそう言うのはないのかね?」


「ないっすよ? 盗賊のアジトですからあんなもんです」


「君は中々受け答えがさっぱりしていて好感が持てるね。……ヒャハー盗賊団は、そのままただの何の変哲もない盗賊だったのだ。私が期待しすぎてしまっただけなんだ。しかし……時代錯誤というか、ベタだな。まんま盗賊の見た目で盗賊とは異世界物リスペクトが過ぎる」


 周囲に他の敵影は無し。


 取引相手はいるかもしれないが、徹底的にたどるには時間がかかりそうである。


 あまりにめんどくさいのはバカンスに似つかわしくない。


 今日のところはひとまず近隣のアジトだけで満足しておくべきなのかもしれない。


「とりあえずご近所にはいて欲しくない輩なのが確定した。君達のアジトはここだけかね?」


 そう尋ねると青い顔の盗賊はコクコクと頷いた。


「素直で結構。では掃除を始めよう」


 カタカタとキーボードを操作して準備完了だ。


 その瞬間を眺めるべく、ドクタークレイは用意した他のモニターをすべてオンにして、逃げた男たちのその後を眺めることにした。




「……おいおいお前ら。犬っころを何匹か捕まえてくるだけの簡単なお仕事だろうが? こんなことも出来ねぇたぁどういうことだ!」


 髭面の大男が猛っている。


 盗賊の頭らしきその男は逃げ帰って来た部下の男を蹴り飛ばしていた。


 悲鳴を上げて吹っ飛ぶ部下の男は、しかしと涙目で言い訳を始めた。


「それが! クーシーの巣に妙なガキがいやがったんです!」


「ガキ? ガキがどうしたってんだ? 金になりそうなら連れてこねぇか!」


「いや……でも妙な魔法を使いやがって。トンプソンのやつが食われちまって……」


「何言ってやがる? 意味が分かんねぇんだよ!」


 今度は拳でぶん殴られる。


 しかし拳で殴られた男は今度は吹き飛ばなかった。


「あ?」


「そ、そうなんだ。し、死んじまったんだよ―――あれは……アレは!」


 様子がおかしくなり、目の焦点がブレた。


 そして叫び声をあげた殴られた男は体中から吹き出した泥に包まれた。


 泥はあっという間に男の体を包み込むと男の体を瞬時に作り変えて、赤い目を光らせた。


「な、なんだ!」


 再びゆらりと立ち上がった時、手下だったの男はもはやただの人間ではなくなっていた。


「―――!」


 髑髏に角が生えたような頭部がヘルメットのように頭部を覆っている。


 肉体も昆虫のような外骨格に覆われて黒光りしていた。


 その姿は、元の人間の印象などほとんど残してはいなかった。


「この野郎!」


 頭らしき男は咄嗟にナイフで切りつけるが、金属のような硬質な音がして切れる気配はない。


「は?」


 それどころか、無造作にナイフを掴んだ腕は刃を簡単に握り潰した。




『ぎゃああああ!!!』


「―――動作正常。異世界人でもおおよそ問題ないようだが……わずかに変身後の形状に差異があるかな?」


「なんじゃありゃ……!」


 変貌した男は周囲の盗賊を次々になぎ倒してゆく。


 遠吠えをするクーシー達は映像を見て、大盛り上がりである。


 まぁ当然、情報提供者の盗賊君は引き気味だが、それはやむなしだ。


 これぞドクタークレイの大発明。小型蜘蛛型ロボットと人体改造技術の力である。


 他の逃がした盗賊達も次々黒い兵士に変貌して、仲間の盗賊達を蹂躙し始めた。


 そこに情け容赦はない。


「めちゃくちゃ強いデス!」


「あいつ友達蹴ったから念入りに蹴ってほしいデス!」


「やっつけてる時のモヤモヤ邪魔デス!」


「すまない……気分を害す可能性があるかなと思ってね、モザイク処理をしてあるんだよ」


 配慮のつもりだったモザイクはクーシーからは不評の様だ。


 おおよそ人間とは思えない力で暴れまわる元仲間を見て、顔面蒼白にしているのは協力者の盗賊Aだった。


「な、な、な、なんなんですかね、これ……? 助けてくれるんじゃなかったんですか?」


「私は殺さないと言ったんだ。彼らは死んでいないだろう? 元気はつらつだよ。私の研究の礎となってこの先もずっと働いてくれるはずだとも」


「……えぇ?」


 この世の終わりみたいな顔をしなくても、君にはまだ何もしないよ。


 しかしヒャッハー盗賊団の全貌が明らかになるにつれ、慎重過ぎたかもしれないと私はため息を零した。


「うーむ……思ったよりもチンケな盗賊だったのだね。回りくどいことをせずに全員戦闘員にしてしまえばよかったかな?」


「そ、そんな……じゃあ俺は?」


「ふむ。君の服の中に蜘蛛型のロボットが潜んでいる。その針からとあるモノを流し込むと、人間を戦闘員へ改造完了だ」


「じょ、冗談じゃないですよ!? お願いですから助けてくださぃぃぃぃぃ!」


 必死に暴れて、助命を乞う盗賊A。だが今日のご機嫌な私はそんなに慈悲のない人間ではないと自負していた。


「もちろんだとも。君は抵抗もせず正直にすべての質問に答えてくれた。今のところ虚偽もない。最後の質問に君がイエスと答えるのなら、彼らの仲間入りはしないよ」


「ほ、本当ですか! イエスです! イエスですとも!」


「……ためらいがないなぁ。私が言うのもなんだが、契約内容は最後まで確認すべきだよ? よろしい、では最後の質問だ。今君は岐路にいる。盗賊団は全滅し、元盗賊の君は犯罪者として追われるだろう。そこでどうだろう? 君、私のところで働かないかね?」


「………………えぇ?」


「今までで一番長い沈黙だねぇ。素直でよろしい」


 正直今までの経験上、盗賊A君は発狂してもおかしくはない。


 しかし盗賊君は思ったより冷静で、思ったよりもあっさりと首を縦に振った。


「やっぱり答えはイエスですわ。あんたに従います……」


「うん。ずいぶん素直だね」


「そりゃそうでしょう。死にたくはないですもん。俺はあいつらに捕まって働かせられてた口でして。そもそも好きで盗賊なんぞやってないんですよ」

 

 何もかも諦めた表情で捨て鉢に吐き捨てる盗賊A君の言葉に嘘はないらしい。


 蜘蛛型ロボットの嘘発見器には、少なくとも乱れは感知できなかった。


「それはお気の毒だね。では君は今から研究員Aとしよう。他にも色々聞きたいこともある。彼ら共々……これからも期待しているよ?」


「……どうも、ハハハ」


 うん。問題はあっても人間の協力者自体は、なんだかんだ悪くはない。


 そして交渉している間に、盗賊アジトの戦闘は終了した。


 戦闘記録の収集はバッチリ。


 ひとまず武器は中世くらいの文明レベル。それくらいの武装集団なら、手持ちの護身用装備で十分に対処可能だった。


「つまらないな。なにかいいサンプルが回収できればいいが……よし、制圧は順調だ。そろそろこちらも動くとしよう。盗賊のアジトに向かおうか。クーシー達も来るとよい。ああ、ついでに研究員Aも来なさい。案内があった方が効率がいいからね」


「「はいデス!」」


「は……はーい」


 私は異世界で初めてのお出かけに楽しくなりながら、張り切って準備をする。


 そしてせっかく外出するのなら、お土産に盗賊のすべては丸っとすべて有効利用させてもらうつもりだった。


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