第5話さぁ復讐の準備を始めよう
私は約束通りにヒャッハー盗賊団を解放すると、クーシー達は納得いかない様子でワンワンみんなで吼えていた。
「逃がしちゃダメデス!」
「頭齧らせるデス!」
「ごーもんするデス!」
「やっぱり野性味が強いな……もちろんただ逃がすのではダメだね。これは泳がせているのだよ。少し我慢してくれるかな? なに、すぐにスカッとするからね?」
クーシー達を宥めてはみたが、捕らえられている癖の強い赤毛の男は牙むき出しのクーシー達に今にも齧られそうだった。
命の危険を感じるのか、この縛られて引っ張られている盗賊その一は卑屈な笑みを浮かべて言った。
「あのー……俺もみのがしてもらうわけには?」
「あっはっはっ、それはダメだね☆ 君が快く協力を願い出てくれたから彼らを逃がすのだよ?」
「……ハハハッ。そうでしたねー」
泣き笑いの捕虜はともかく、私は慰めるようにクーシーの一匹の頭を撫でる。
憎い相手を逃がすのはさぞかし悔しいだろうが嘆くことはない。
なにせ面白くなるのはここからだ。
しかし前準備にはそれなりに時間がかかるのも間違いない。
野ざらしでは始まらないので、さっそく私は拠点の準備に取り掛かった。
「ところでクーシー君。この辺りで一番綺麗な場所を教えてくれないかね?」
「綺麗な場所デス?」
「そうとも。実はこの辺りに家を建てようと思っていてね。良い立地の場所を探していたんだ」
こういうのは現地の人に土地について尋ねるというのは中々有効な手段ではないだろうか?
すると尻尾をぶんぶん振るクーシーは任せろと胸を叩いた。
「おまかせデス! とってもいい場所があるデス!」
私はご機嫌で尻尾を振るクーシーに大いに癒されながら案内に任せていると彼らは森の中を進む。
そして森が開けると一面七色に光る石に覆われた、神秘的な場所に到着した。
「ほぅ……これはまた美しい、この石はどういうものかわかるかね?」
「ハイデス! これは魔法結晶デス!」
「魔法強くなるデス!」
「人間は、これで武器作るデス!」
「ほー! それはまた研究しがいのある! 魔法……魔法かー。そんなものあるのだねぇ」
まさか魔法とは! これだけ堂々と一般常識のように語るという事は元の世界の眉唾なものとは違うのだろう。
チョットこれは調べてみたい。風景としての見栄えもいいし、これは決まりでいいだろう。
「……ドウデスか?」
恐々案内してくれたクーシー君は聞いてきたが、はなまる満点を進呈しよう。
「素晴らしい……とても気に入ったよ。ではここが今日から私の新しいホームだ」
「お役に立てて良かったデス!」
このクーシー達は中々見どころがある。
引っ越し先も決まったので、早速私はとっておきの腕輪を取り出すと座標を合わせて腕輪を作動させた。
「座標は……こんなものか。展開まで10秒だ」
『了解しました』
ナビのブロックに指示して、私はワクワクしながらその時を待つ。
こんなこともあろうかと、作っていたとっておきは10秒後、指定した座標にピタリと現れた。
異次元収納から取り出す時に生じる青白い光は、大きなものを取り出すとより美しく、見ごたえがある。
私は深く頷いて、我ながらいいものを作ったと自画自賛した。
「フフン。いいじゃないか。バカンスのために準備していたかいがある」
突然現れたように見えたであろう真っ白な壁の豆腐ハウスは、ドクタークレイの大発明。お出かけ用持ち運び簡易研究所である。
「……よし。拠点の準備は完了だ。では始めようか? 君達の脅威は今日、消滅するだろう」
あんぐりと口を開けて腰を抜かしているクーシー達と情報提供者の盗賊Aを眺めて、私は生き生きと行動を開始した。