第42話ひとまずの決着?
侵入した時は、王の威光を鮮やかに表現した美しい謁見室だったのだが、今は見るも無残な瓦礫の山か。
まだ部屋と認識できるのは、この私の尽力の賜物だろう。
まぁ元凶なのだが、そこは言わぬが花である。
「まぶしくてなんにも見えないが……まぁ結果は明白か」
光が収まって来たのでメガネの偏光機能をオフ。
粉塵の中に狼怪人の生命反応を確認。
融合した、ロボットスーツ闇魔法エディションは関節をやられているようだが五体満足で健在だった。
よって―――敗北者は決定する。
「……ガハッ……」
ほぼ半身を消失したアルマギオンの中に、息も絶え絶えの女王様はしかしかろうじて生きているようだった。
「……お母様!」
機体から転がり出るように飛び出してきたカミラは、女王の側に駆け寄ってじっと彼女の姿を見る。
躊躇い。迷い。しかしぐっと踏みとどまったカミラは、彼女に一つ質問をした。
「……お母様は私を殺すおつもりだったのですか?」
ここに来た理由のすべてが、その一言に詰まっていた。
こんな風に問いただすつもりはなかった。
でもどうしても真意を、直接この人の口から聞きたいと言うのは徹頭徹尾すべて我儘に他ならない。
どう見ても致命傷を受けたそんな状況で、女王は表情一つ動かさずに私に手を伸ばしながら答えを言った。
「―――そうだ。お前もそれを望んでいただろう?」
「……!」
「我々は魔神機の担い手でしかない。選ばれなかったお前の居場所はない。私の兄弟もまたそうだった。そしてこの国の者共はお前に、スペアとしての役割すら望んでいない」
「……それは分かっていました。でも」
「―――今更力を得たところで、待ち受けるのは地獄だぞ?」
「……そうかもしれません」
カミラは女王に手を伸ばす。
そしてそっとその頬に手を触れて、宣言するように呟いた。
「でも。私は生きています。そして今でも生きたいと思っているんです」
それを聞き届けた母は、フゥと息を吐いて瞳を閉じる。
「……そうか。それも良かろう」
「愛していましたお母様―――さようなら」
静かに意識を手放した女王をカミラは抱き上げた。
すぐにやって来たドクタークレイはふぅとため息を一つついたが、何も言わずにカミラにそばに寄るよう促した。
「さて、撤退しよう。戦闘員達も足止めを頑張ってくれているが潮時だ」
「……はい」
「帰りは転移で帰る。酔うことがあるから気を付けたまえよ?」
「……」
言葉通り、すぐさま転移は始まる。
撤退するのは一瞬の事だった。
「うぅ……」
うめき声をあげ、シルフィードは目を覚ました。
狼型の魔物にやられて不覚を取ったはずだが、どうやらそのまま気を失っていたようだった。
いつの間にか魔人機は消えていて、シルフィードは瓦礫の謁見の間をふらりと歩く。
周囲を見回しても、いつもの絢爛豪華な美しさは欠片もなくただの廃墟にしか見えなかった。
「一体何が……お母様と……お姉さまは?」
しかしすぐに私は倒れる魔神機―――そしてその上で母上を抱きかかえるお姉さまの姿を見つけて固まった。
いったい何が起こったのか、まるでわからない。
ただ無敵のはずの魔神機は無残に破壊され、母上は動かず力が無いように見えた。
悲しげな表情のお姉さまは、しかし何を言うでもなく、母上を抱えたまま忽然と姿を消したのだ。
「な、なんなんだ……いったい?」
すぐにでも駆け寄りたいのに、頭がずきずきと痛む。
ズンと全身を寒気が襲うが、すぐに最悪の想像を否定する方法を思いついてシルフィードは実行した。
「もう一度……来い。魔人機」
いつものようにパスがつながり、機体は反応した。
しかしそこから流れ込む力は、いつもの比ではなかった。
「あ、ああ……扉が開く……アルマ……ギオン?」
シルフィードの呼び声に応えて顕現した魔神機は、女王の証たる神の機体はその名にふさわしい神々しさを纏ってシルフィードの前に顕現した。
シルフィードはしかし、脱力感のあまり膝を折る。
そして何が起こったのか知った瞬間、咆哮のように叫んだ。
「カミラアアアアア! なんで……なんでお母さまを殺した!」
無残に荒れ果てた城の中に少女の叫びを受け止めるものは誰もいなかった。




