第40話実験を始めよう
「何を……!」
女王がなにか叫んでいたが、これからやるのはもちろん次の手である。
さてみんなの希望を叶えた後は、再び私、ドクタークレイのターンだ。
狼型の怪人の再構成はすぐに始まる。
カミラ研究員はロボットスーツの改造部分をうまく使いこなせなかったようだが、それもまた想定内。
ではクーシーが力を貸せばどうか? 実際に見てみるとしよう。
カミラカスタムに組み込んだ特別な魔石はなにせ妖精由来のものだ。
クーシー達の方が親和性が高いのは実験済みだった。
同化が始まると、怪人の肉体だったモノは木の根のようにカミラカスタムの全身に広がって、機体を飲み込んでゆく。
「……なんだこれは?」
「さて、私にも断言できないな。ここからは正直に打ち明けるならデータ取りの時間だよ。君のお子さんの協力で作ってみたがなかなかうまく動いてくれなくてね。いわゆる死者の呪いとかそう言うものの様だね。科学者でありながら魂やら呪いやらという表現は非常にこそばゆいが……まぁそれもいいだろう」
「……カミラはどうなる?」
「安心したまえ。―――死にはしない」
狼怪人はいつしかそのサイズが魔神機を追い越し、天井を突き破るほどになっていた。
肥大化した腕部でそのまま壁に叩きつけた狼怪人は少々想定より大型化してしまったが、攻撃力は見た目相応に大幅増加しているから目を瞑ってもらいたい。
「……! 大きくなっただけの的などなんだというのか!」
「まぁ突破出来ればそうだろう。突破出来ればね」
うまくいけばだが、私自慢のバリア+魔法障壁の合わせ技なんてことになるはずだが耐久力はいかほどになるだろう?
まぁ頑張ってくれと心の中で応援してみようと思う。
「ウオオオオオオオオン!」
狼怪人の咆哮が響き渡ったが、その全身から黒い靄が噴き出したのは想定外だった。
「おお! なんだねこれは!」
これだから実験は止められないわけだが、その答えを知っていたのはカミラ研究員で、慌てた様子の通信が飛び込んで来た。
「ドクター! ……ドクター! カミラです!」
「おお、カミラ研究員。状況は理解しているかな?」
「……はい。クーシーに私の機体を取り込ませたのですね?」
「そう言うことだ。で? 今何が起こっているのかわかるのかね?」
そう言う機能があることは伝えてあった。
当初の予定としては、カミラ研究員が魔石の魔力を引き出せなかった場合、クーシーに協力を頼むかもしれないという、そう言う話だった。
だがここに来て、状況を把握できるとはカミラ研究員は優秀である。
「は、はい。組み込んでいた魔石が、目を覚ましたようです」
目を覚ましたと言うことは今まで眠っていたということか。それが、予想通りクーシー達の因子で休眠状態から覚醒したと。
「おそらく呪いの暴走です……しかしとても制御出来ているとは」
「ふむ……うまくいかなかったか?」
「この呪いには覚えがあります。古戦場の呪いですよね?」
「そうだよ」
我ながら自然な融合に成功した……と自負していたのだが、カミラ研究員には魔力を引き出せず、クーシーを介入させても制御不能ならば、失敗ということになる。
実際、この暴走具合はやばいらしく、カミラ研究員の声からは焦りが感じられた。
「……遥か太古から蓄積された呪いです。そう簡単に制御できるものではないと言うことでしょう。でも……私がやってみます」
「行けるのかね?」
「はい。必ず」
迷うことなく断言したカミラ研究員は中々勇猛であった。
しかし通信は切れたが……なかなか変化する様子はない。
荒々しく吹き荒れる黒色の竜巻を見ながら、私は首を傾げた。
「……ダメかね?」
「……はぁ!」
と、思ったらカミラカスタムは狼怪人の背中から生えて来た。
新しく形成される狼怪人のボディに一体化した機体はそこから何やら紐のようなものを魔法で発生させると、狼怪人の口に手綱のように引っ掛けていた。
まるで暴れ馬に騎乗したような雄姿に私は思わず手を叩いた。
「おお! 素晴らしいぞカミラ研究員!」
不定形に見える影を掴み、手綱のように捌く姿はまるで馬に騎乗しているようだ。
ただ、それでどうなるものかと思ったが、実際荒れ狂っていた黒いものがいささか落ち着いてきたんだからわからない。
「うーむ。まだまだ理解が浅すぎたか。よく記録に残しておかねばなぁ」
ドクタークレイの大発明。ハンディヘリにて、空中に逃れた私は、闇の波に翻弄されている女王様の機体と目があったので手を振っておいた。
「この! 狂人が! なんということを!」
「いや―失敗しちゃった。でもいいのかね? どうやら本命がくるようだよ」
呪いとやらは、とりとめのないものから急速に形を取り戻してゆく。
私の評価としては、巨大な狼にまたがるロボットが超カッコイイってことだった。
その上。燃えるように揺らめくよくわからないエフェクトが最高だ。
だが、ここでまたもや大きな驚き。
「……意識はあるかね?」
通信を飛ばした私に届いたカミラ研究員の声は、どこか上の空で。
何か幻でも見ている様子だった。
「あ、ああ……何かが―――開く」
「む、まずいな。錯乱したか?」
「中から何かが……!」
かすれ声のカミラ研究員の声が聞こえた瞬間、カミラカスタムに変化が起こり、通信に知らない女の声が割って入った。
『素晴らしいドレス……これは私が貰うわ』
幻聴かな?
もう何が起こってもおかしくないが、これだからオカルトは。
私はため息と一緒につい本音がポロリとこぼれ出てしまった。




