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第4話盗賊と交渉しよう

「……ふーむ」


 結果として、撃退はうまくいった。


 しかしあまりにもうまく行き過ぎると言うのもそれはそれで不安になってしまうものか。


 私は綺麗に飲み込まれた盗賊の一団を眺めて、あきれ声で呟いた。


「まさか一時間どころか三十分もかからないとは……。無駄な手間がないのは好きなんだが、あまりにお粗末じゃないか?」


 ひとまず獲物をサルベージ。


 一応酸は弱めていたが、服だけ溶けているとは思わなかった。


 いや、ちょっと全体的にムダ毛と汚れが落とされてツルンとしている気がするのが何か嫌だ。


 触手で縛り完全に動けない彼らをまとめて座らせ……ヒャッハー盗賊団(仮)が捕らえた犬人間の檻の前にやってくると、私は檻に語り掛けた。


「よしよし。君達を助けてあげよう。少し待っていたまえよ」


 異次元収納から引っ張り出したのはおもちゃのような光線銃だが、こいつは中々使える一品である。


 ドクタークレイの大発明。原子崩壊光線。


 こいつは発射した光線に触れた物体を瞬時に分解し泥に変える。


 まぁ正直即効性はあるのだが、貴重な資源が泥に変わってしまうのであまり使わない。


 だが迅速な行動を重視する場合は悪くない選択肢である。


 引き金を引き、光線を照射すると鋼鉄製の檻は簡単に泥になり、犬人間達はコロコロと転がり出て、檻から解放された。


「助けてくれてありがとうデス!」


「優しい人間さんデス!」


「恩返しさせてくださいデス!」


 なんだか……すさまじくちょろいなこの犬人間。


 ちょっと心配になるレベルだが都合はいい。


 異世界人初の隣人と円滑なコミュニケーションをとるのは第一の目標である。


 ならば多少の無償奉仕も悪くあるまい。


 私は笑顔のまま彼らに言った。


「うんうん。良かった。君達に怪我がなくて何よりだよ。どうして君達は彼らに捕まっていたのかね?」


 訊ねると、犬人間達は口々に言った。


「わかんないデス!」


「食べられるデス!」


「ひでぇ話デス!」


「そうだねぇ」


 状況は把握していないようだが、彼らが一方的な被害者で間違いないようだ。


 ならば敵を無害化した今、その後は彼らの意見を尊重するべきかもしれないと思いいたった。


「ふむ……君達にも思うところがあるだろう。こいつらをどうするべきだと思うかな?」


 とはいえ、この善良そうな犬人間達なら追い出すくらいかと思っていると、しかし彼らはお互いに顔を合わせてすぐさま拳を振り上げて、毛をフサフサに逆立てていた。


「やっつけたいデス!」


「悪い奴ぶっ殺すデス!」


「こいつらチマツリデス!」


「……中々野性味が強いな。よろしい、では友好の証として、私が手を貸してあげよう」


「「「はいデス!」」」


 声をそろえる犬人間達は思っていた以上に野性的だった。


「……ところで君達の種族は何と呼ばれているのだね? 私は人間ではあるが少々出自が特殊でね。教えてもらえると嬉しいよ」


「クーシーデス!」


「犬の妖精デス!」


「よろしくデス!」


「ほう。ではよろしくクーシー君達。なに、任せておきたまえ」


 では方針も決まったことだし、問題のヒャッハー盗賊団をどうにかするとしよう。


 粘液でドロドロの男達はしっかりと拘束されたまま、私を見上げていた。


「さて盗賊諸君。実に残念ながら私は君達と敵対することになってしまった。差し当たって君達を全滅させようと思うのだが……私は今休暇中でね。あまり残酷過ぎるのもどうかとも考えているんだ。そこで、君達の中で誰か一人でも私に力を貸してくれると言うのなら、殺さないであげようと思うのだが。どうだろう?」


 話し終えて、まずは一人猿轡を外してみる。


「ふっざけんな! 誰がガキと犬あいてに……!」


 ぼぐわしゃ!


 なんとも言えない音をたてて背後で待ち構えていた食物連鎖頂点植物は、騒いだ盗賊を頭からバックリいった。


「……!」


 ガクガク震え始めた残りの盗賊達に、私は残念だったと愁いを帯びた表情で肩をすくめてみせた。


「あー、急に騒ぐから……。いいかね? これは君達にとってチャンスだ。その上今だけ、この中でたった一人が情報を提供してくれるだけで君達全員を殺さずに解放しようと言っているのだよ私は?」


 盗賊達の視線が泳ぎ、お互いを見ている。


 十分に時間を置いて、私は露骨に大きなため息をついた。


「しかし残念ながら……君達全員が何者かへの忠義で命を捧げると言うのなら話は別だ。私は君達の意を汲んで、休暇をまげて悪党の流儀で君達にとどめを刺そう―――どうするかね?」


 ではもう一人。


 ムームー必死の形相で訴えている中から一人、下っ端そうな若い男を選んで猿轡を外すと、涙目の彼は即座に降参した。


「な、何でもしゃべる! だから殺さないでくれ! いえ! 殺さないでください! 靴舐めます!」


「おお、ありがとう! いいとも、私は約束は守る男だ。あと靴は舐めないでくれたまえ」


 私は協力者を名乗り出た彼の肩を優しく叩いて、とてもいい笑顔でニタリと微笑んだ。


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