第38話 前座の戦い
「……敵が自分より大きい事なんていつものことだ! 我が正義の刃に断てぬものなど―――ない!」
魔人機は実際にその剣に断てない者など今までになかったのだろう。
一閃されるはずだった刃を眺め、私はニヤリと口元が歪むのを抑えられなかった。
「……な!」
牙が刃を受け止める。
そして狼が顎の力で止めた刃は、そこから一ミリも動かない。
それどころか完全にパワーで押しきると、バキンと嫌な音がして剣は半ばから砕け散る。
「……ッ!」
「ウオンンンン!」
そうして吼えた瞬間、空中に私の知らない紋章が輝き、口から何かを撃ち出したのは私からしても想定外だった。
「おお!」
魔人機が吹き飛んだ……らしい。
それはまさに一瞬の決着だった。
大気が唸り、轟音と突風が室内に吹き荒れ、壁にめり込んだ魔人機はもうピクリとも動かない。
正直仕様外の一撃だったが……いや、試しに組み込んだ魔法結晶が機能した結果だともいえるので、何食わぬ顔で私は胸を張った。
「……私の勝ちかな? いや、勝負はこれからだったね」
私は思ってもみなかった魔法に驚いたことを、ひとまずぐっと飲み込めたのは女王様の驚き顔を拝見できたからだった。
自然と視線がぶつかって、丸い目をしたままお互いに不敵に笑い合う。
「正直驚いた。あの魔物もお前が作り出したのだな?」
「まぁあくまで改造妖精ってところだよ。リクエストが多くて苦労したがね」
「……面白い、これは是が非でもお前の腹の中を白日の下にさらさねばならんようだ」
我が技術が、価値があることは私もまた認めるところである。
さぞかし魅力的な財宝に見えるだろうが、私も渡すつもりはさらさらない。
いっそ盗んで進化、発展でもさせてくれれば文句もないが、どうせ彼女も役に立つ物を延々作らせようとするに違いなかった。
さてこのまま巨大化狼怪人で挑むのも面白いが、そう言うわけにもいかないか。
いつまでも私に注目している暇は彼女にはないのだから。
なにせ今までの戦いを観察し、爪を研いでいる人間が私のすぐ横に立っている。
「……」
狼怪人02はのしのしと歩いて私の側にやってくると、側に伏せてじっと様子を窺っていた。
「賢い子だね。では本戦だ、少しだけ彼女の出番を見物しようか」
この世界の頂点に君臨しているロボットは今からやっとみられるものなのだろう。
そんな力にどれだけ自分の作品が通用するのかこれからわかると思うと好奇心が止まらない。
「ロボットスーツの準備はいいかな? さて十分な訓練はできていないと思うが―――いけるかね?」
「はい」
「よろしい。では良い復讐を楽しみたまえ」
私は、いよいよカミラ研究員を送り出す。
しかし進み出た彼女を見て、女王の浮かべるのは明らかに物足りなさそうな表情だった。
「お前が? 笑わせる。お前は無力だ。引っ込んでいろ」
「……私は本気ですよ」
私は声色からいつにない本気を感じた。
怒りからかそれとも別の何かからか。
そうやすやすとアレに勝てるビジョンも浮かぶまいが、戦うことに価値はあるはずだ。
それに私自身も、自分の作品の未知の部分に興味があった。
少々煽りすぎてしまったが、まぁそれもこれからのショーのスパイスにもなるだろう。
異次元収納より呼び出すのは、研究員カミラ専用の試作機である。
さて彼女の機体に施したのは、クーシーの改造よりも少しだけ不確定の要素が多い代物である。
だが先ほどクーシーが見せてくれた戦いで、十分に魔法的な効果があると実証できた。
それに元居た世界の戦闘用は、土木建築用とはまるで違う。なにより角付きなのがポイントである。
一方女王の周囲には複雑な記号が彼女を中心に輝いていた。
形成された光の門から出てきたそれを瞳に収めた瞬間、私に不可思議な寒気が背中に走った。
「……ほう。本能的な恐れか? 神など信じていないどころか、この世界の住人ですらないのだが、私にもそう言うのがあるのか……実に興味深いね」
大きさは魔人機と変わらないようだが、デザインが黄金と光に彩られた装甲が追加され、マントがその背で揺れているのが派手であれはあれでいい趣味だと思う。
何より、現れただけで本能的に感じるプレッシャーが段違いだ。
「さて。神を解き明かそうか。きちんとモニタリングしていこう」
「スーツを転送します」
カミラ研究員が異次元から転送し現れたロボットスーツカミラカスタムは実にスムーズな立ち上げで動き出す。
ただ人型鎧をごく自然に呼びだすと言うのは異世界人にとって特別な意味があるらしく、女王の表情は一気に驚愕に染まった。
「……! それは」
「行きます!」
言葉尻が露骨に跳ねた女王の機体に、カミラ研究員は猛然と飛び掛かった。