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第2話第一異世界人

「ふむ……成功したか」


 ゆっくりと閉じていた瞼を開いた。


 多少頭がクラリとする以外は、不具合もないようだ。


 出現ポイントは、人目につかないどこかの山頂だった。


 周囲に文明の気配はまるでないが、うまく元の世界を抜け出すことには成功したようである。


「んーーーーー……」


 私はかつてないほどの解放感に全身で伸びをする。


 そうして見上げた空は―――間違いなく最高の景色だった。


「ハァ……6つの月に、浮かぶ山……やはり私は天才だな。しかし、科学者はしばし休業としよう」


 様々なしがらみから解放され、胸が高鳴る。


 今から始まるのは、そう―――待ちに待ったイベントだった。


「目的は―――バカンス。そうバカンスだ!」


 旅は刺激を求めて、知らない環境に飛び込むことだと言う。


 ではその場所が異世界なら、相当の刺激が得られるはず!


 ただ問題は、いまいち休み方というものをよくわかっていない事なのだが……まぁこの天才科学者ドクタークレイに掛かればそのくらいの事、造作もないはずだった。




「それではさっそく準備を始めよう」


 私、ドクタークレイはバカンスを楽しむために異世界にやって来た。


 思えば元の世界では絡みまくって、もはや身動きできないほどのしがらみが存在していたが、今ここにはそんなものすべてゼロである。


 自宅にいたところで、いつ誘拐やらスナイピングされてもおかしくない状況とおさらばできたのなら、十分世界を超えた価値があった。


 この世界がどんな世界かもわからないが、なにもなくても大丈夫。


 バカンスに必要なものはすべて元の世界から持ってきていた。


「異次元収納は……うむ。動作正常だね」


 内部も―――問題ない。最初の関門はクリアー。


 これはいよいよ、万全な状態でこの世界をエンジョイできるようだ。


「素晴らしい。ではイージーモードで異世界生活を始めようではないか!」


 フハハハハと私は笑う。


 後は楽しむだけだ。


 しかし、未加工の野生に突然放り出されれば、それだけで過酷だと言うこともまた理解できる。


 例えそうだとしても、もちろん私の平穏を脅かすモノに容赦するつもりも欠片も無かったが。




「フハハハハハ! さぁどんどん飛んでいけ!」


 何はともあれやるべきは周囲の探索をしよう。


 展開した無数の偵察ドローンが異世界の空を飛んでいた。


 リアルタイムに送られてくる映像をディスプレイで眺める私は、その世界の異様さに胸をときめかせた。


「おお、見たこともない植物に生物……地形も面白いな。なんだこの一面水晶のような土地は? なるほどなるほど……これは中々どうして探索のし甲斐がありそうだ」


 まさに、そこには脳裏に思い浮かべた異世界があった。


 商売としての科学者活動はひとまず休止するつもりだが、それはともかく私は知的好奇心を満たさずにはいられない。私の興味のあることは徹底的に調べるつもりである。


「おおっといかんいかん……こいつはきりがないな。ひとまず知的生命体の探索だ。バカンスがテーマなのだから、久しぶりに人間らしい休暇を心がける必要はあるだろう。……まぁ時間を共にするのなら、善良な隣人が望ましいな」


 この際、私自身の人間性は棚上げしておくとしよう。


 自家製頭の良くなる知的飲料をグビグビ飲んで喉を潤しながら探索を続けていると、さっそく近場で何やらトラブルが起きているのを発見して、私は方眉を上げた。


「これは犬か? 人間もいるね……」


 この世界にも人間がいる。それは素直に喜ばしい。


 そしてもう一つの生命体はどう見てもモンスターの類だった。


 妙にコミカルな彼らは犬っぽい顔をしていたが、しっかりと二本の足で立って走っていた。


 同じ人類種として、コミュニケーションをとるならやはり人間か?


「いや……どうも様子がおかしいな。人間の方は犬人間の方を追いかけているのか?」


 しかしもう少しドローンの索敵範囲を広げると、そこには縛られて身動きできない犬人間が沢山檻に入れられていた。


 そんな檻を守っている人間の言葉がこれである。


『ひゃっはー! お前ら一匹も逃がすんじゃねぇぞ! 毛皮一匹500万だ! でけぇ傷は買いたたかれっからなー!』


「ひゃっはーって……。うーむ……善良とは?」


 なんというか……あれはダメだね。


 なんとも異世界の人間第一号達は品性の欠片もないようだ。


 それでも人として、まずは多少の事には目を瞑って人間に接触を図ると言うのはなくはないが……。


 しかし、隣人がこれか……。


「やっぱダメだね。これと仲良くはちょっとご遠慮したい。となると……こちらかな? ふむ。私が犬派なことに感謝したまえよ? 犬人間君たち」


 方針は決まった。


 椅子から腰を上げた私は、さっそく現場に向かうことにした。


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