第13話思わぬ取引
「いや―驚いた。あんな生き物? いや、生きてない物もいるのだね」
私は転がっていた骨を一本掴み上げて唸る。
何の変哲もないように見えるが、骨になっても動き回るとは面白い。
それに単純とはいえ生きている者を襲うという目的があるのも素晴らしい。
研究員Aは嫌そうな顔をしながら、荷台を引いて骨の後片付けに励んでいた。
「そりゃあ、アンデッドってやつっすよ。魔法ってやつです」
「ほほう。あれも魔法の一種だと?」
「たぶん? 俺はあんまり詳しくはないっすけど」
曖昧な部分をすかさず補強したのは研究員Bだった。
「そうですよ。アンデッドは魔法です。ただし、魔法と言っても術者がいるわけではないですが」
「そうなのかね?」
魔法はそう言うのもあるのか。
研究員Aはダメだったが、研究員Bの方は多少なり魔法の心得がある様子だった。
「ええ……死者の強い念が生み出す魔法です。誰にでも起こりうる現象に近いですが、見た通り完全とは程遠いものですが」
「ほぅ。確かに知性は感じなかった。あんなものが自然発生とはえぐくないかね? 異世界?」
「あまり好まれる魔法でないのは……それはそうだと思いますが」
「いやいや。好みはしているよ。むしろ私は大好きだ。仕組みが知りたくてたまらないよ」
「……そう、ですか?」
「ああ、実に興味深い」
素直に頷いて見せると、研究員Bは何か考え込んでいる。
何を言うつもりなのか待ってみると、研究員Bの提案は非常に面白い取引だった。
「なら……私が教えましょうか? 私の魔法属性も呪いに紐づいたものですから。ネクロマンシーにも心得があります」
「マジかね!?」
「げっ! お前魔法使いだったのか!」
嫌そうな顔をしている研究員Aの反応は気になるが、好奇心が勝って私は身を乗り出した。
しかしタダでそんな取引を持ち出しはしないだろう。
案の定、研究員Bは決意を込めた鋭い目つきで私を見ながら切り出した。
「……その代わり。頼みたいことがあるんです」
「いいともー。何かね?」
「そ、その……私にも、貴方の道具の使い方を教えてください」
「いいよ。元より開拓するのに存分に使ってもらうつもりだったとも」
「……本当ですか?」
「本当だよ。早く使いこなせるようになってほしいくらいだ。興味があると言うのなら、君専用の機体を譲っても構わないよ。うむ、こういうの好きだね私は」
「……は、はい。頑張ります」
こいつは面白い事になって来た。
それに備品の使い方を教えるだけで、対価になるとは丸儲けである。
「では楽しみは後にとっておかねばならないな。まずは片付けだね。放っておくとクーシー達が骨を片っ端から持って帰りそうだ。出来ればあれは見なかったことにしたいのだが」
「……そうですね」
それに表情に乏しいようで研究員Bは案外素直に表情に出るようで、少し安心する。
困り顔の彼女を見るに、スケルトンを齧る犬の妖精さんはシュールすぎると言うのはこちらでも通用する価値観の様だった。